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第十九話
「戻りたくないのか?」
頭の上から降ってくる声。
中庭にあるベンチに座ったままの私。その正面に立っているフーガ。だから、声は上から聞こえてくる。
フーガから視線を外したままの私に、彼は言った。
私の口から出た『嫌です』という言葉に、『戻りたくないのか?』と聞いてくる。
「・・・いいえ。戻ります」
これ以上フーガに迷惑をかけるわけにもいかない。それに、かなも心配してるらしいし。
『戻りたくないのか?』と聞かれて、素直に『はい』と答えれるほど彼のことを信用しているわけではない。そして、自分がそんなことを言える立場にないことも、わかってはいるつもり。

『戻ります』と言った私の言葉に納得していないのか、フーガが再び黙った。
沈黙に耐えかね、外していた視線を上げ恐る恐る、フーガを見上げてみる。
フーガはその場で立ち尽くして、何かを考えているようだった。
「あ・・・あの?」
さっき言ってしまった『嫌です』に怒ってるのかな?
でも、怒っているなら『戻りたくないのか?』と聞いてくるのも変だし・・・。
「まだ、寝るまで時間がある。リディルの説明も明日に持ち越しになった。・・・君の世界とこの世界とでは・・・夜空は違って見えるのか?」
夜空・・・?そういえば、私はフーガに声をかけられるまでぼけっと見上げてたけど・・・。
「えっと・・・私はそんなに詳しくはないから・・・その・・・わかりません」
フーガの顔色を伺いながら、私は当たり障りのないように質問に答える。
「星は好きなのか?」
フーガは私の答えに、間髪いれずに次の質問をした。
無表情なのにどこか真剣な感じで聞いてくるフーガ。何故、今星の話なんだろうか?
「・・・え?あの?」
私は彼の質問の意図を計りかね、答えに窮しているとフーガ遮った。
「まだ、ここに居るなら、伝えてくる」
フーガはそう言った。


やっと彼が何を考えていたのか、わかった。
彼は彼なりに、私を気遣っていてくれたんだ。
私が『嫌です』と言ってしまったから・・・。
フーガはよく『不器用な人』と言われるような性格なんだろう。
気遣いの仕方が、こんなにもわかりやすい。
今はそれが嬉しい。


「必ずここに居るんだ、いいな」
私が頷くのを見て、フーガはここから最も近い連絡所へ行くと言った。
何故近くの連絡所なのかと私が質問すると、かなたちの居る大広間に戻るには、片道十分少々かかる程度には遠いからと教えてくれた。流石はお城!
近くの連絡所なら、往復で五分もあれば大丈夫とのこと。
少しすまなさそうな声色で、すぐに戻ってくるから気をつけてくれと彼は言って立ち去った。

しかし、中庭から大広間まで片道十分少々の移動距離って・・・やっぱりすごく広い。
フーガに言われたとおり、中庭のベンチから動かず、さっきと同じように夜空を見上げてみる。
彼の不器用な気遣いのおかげで、少しだけ心が温かくなった気がした。





夜空を見上げていて、改めてこの世界が異世界だと、地球以外の場所なんだと認識した。
地球というか、日本で見上げていた夜空には月が一つと無数の星星が賑わっていた。
だが、今自分が見上げている夜空には大と小の二つの月のようなものがある。
星のような光もたくさんきらきらと瞬いている。

大きな月と小さな月。
肉眼で見える星にあんなに大きなものは、地球だと月くらいしか思い当たらない。
それが今見上げている夜空には二つ見える。
とても綺麗だけれども、それを見ていると自分とかなが日本じゃない場所に居るんだと思い知らされる。
「・・・はぁ」
なんとも、夜空に対して失礼な。
とても綺麗な景色を見ているのに、溜め息が出ました。

「まあ、溜め息も出るよね」
どこかで聞いた気がするような声。でも、この世界に知り合いなんてそんなに居ないだろうし・・・。
声がどこから聞こえてきたのか、ぼんやり夜空を見ながら溜め息ついていたからわからなかった。
視線を夜空から中庭へと向け、人の姿を探してみる。

声をかけてきたであろう、人物の姿はすぐに見つかった。
その人物は、闇夜にとても目立つ色だった。
目が離せない、というような存在感があった。
夜の暗闇にも映える、金色の髪に瞳。
着ている洋服は形は、ゲームとかで出てくるような高位の神官が着ている様な足元まであるローブ。白を基調とした上質そうな布地に、金色の刺繍。全体的に金色のイメージな人物。
髪は傍目から見ても、とても艶やかで緩やかにウェーブをかき肩甲骨くらいまで伸びていた。
顔の造りはリディルなどの美形さんですら、霞むんじゃないかってほど整っていて、整いすぎていて人に思えないくらいだった。
とても、人離れした美人さん。それでも性別は、はっきりと男だと思えた。
いくら、夜だからってここまで人の姿を判別できるとは思えないほど、その人物の姿ははっきりと見えた。
別に、その人がほのかに燐光を纏っているわけでもないのに、良く判別できました。

「あ・・・あの・・・どなた・・・でしょうか?」
その人物の雰囲気に推されてしまい、敬語になってしまいました。
声をかけてきた人物は、中庭の噴水を挟み私の正面に立っていた。先ほど、私を探していたフーガの立っていた場所だった。
彼は近づいてきて、話しやすいくらいの位置で止まり微笑みかけてきた。
人離れした美貌で微笑まれたら、きっと誰だって舞い上がる。頬だって赤くなるさ。
「こんばんは。あきちゃん」
頬に上がった熱が、一気に醒める。


私を『あきちゃん』と呼ぶのはかなだけだ。
父と母、姉は私のことは『あき』。妹は『あき姉』。友達は『あきね』と呼び捨てがほとんどだ。
今、私を『あきちゃん』と呼ぶのはかなだけしかいない。
まして、ここは異世界である。
私はここに来てから、愛称や略称などで呼ばれたこともないし、呼んで欲しいといった覚えもない。

人離れした美貌を持つこの人物とはあった記憶などない。
いくら頭が若干弱いかもしれない私でも、ここまで印象的な人物にあったことを忘れるはずはない。
そして、ここは異世界。この世界での知り合いなど今日会った人物くらいしか該当しない。(異世界に来たその日は、不思議生命体からの負傷で寝込んでたし)
今日会った人物の中に彼はいない。
今はじめて、人離れした美貌を持つ彼と対峙している。


それなのに、目の前に立ち微笑を浮かべた彼は私を『あきちゃん』と言った。
す、少しは恋愛色がでて・・・きてないな。
主人公は警戒心があるんだかないんだか・・・。ヒロインのかなちゃんが活躍してません。決して百合にするつもりは毛頭ございません。

更新遅くなったりもしますが、頑張って続けていくのでお付き合い願います。読み手様が増えるのってこの上なく嬉しいです。お暇がございましたら感想などもらえると狂喜乱舞します。


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