第十二話
この世界で最初に来た場所。
教科書やTVでしか見たことのなかった、石造りの祭壇。
この世界で最初の思い出。
見たことも無い不思議生命体(凶暴)に襲われ、右腕を負傷した。
そんな場所。
そんな場所にリディルは私たちを案内しようとしているのだろうか?
馬で行けるよう舗装された石畳の道は、祭壇に通じる道と、祭壇の周りを迂回するように伸びる道の二手に別れていた。
私とかなが最初に居たのは、嫌な思いでしか無い祭壇。
そのまま、祭壇に進むとしたら、リディルに幻滅してやろうかな? とか思ってました。
どうやら、幻滅することはなさそうです。
リディルは祭壇の周りの道へ行くと言った。
祭壇がある場所は小さめの山(小高い丘というべきか?)の中腹あたりにあり、周りの道は祭壇を迂回して山の頂へと、登り道が続いていた。
遠めにだが、祭壇辺りから見える頂上付近は綺麗な彩りだった。
白い色と緑に、青が混じり、黄色まで色があるように見えた。
私はそんなに目が良い訳じゃないので、その色とりどりの物が何なのかは、はっきりとは見えなかった。だが、推測することはできる。だからあれはお花畑……と考えたい。
取って置きの場所と言ったから、きっと変な場所ではないはずだし。
「ああ、そうだ。そろそろこれを」
前を行くリディルがそう言って(私にも聞こえる声で)、祭壇との別れ道の真ん中で愛馬ルーちゃんの歩みを止めた。
ルーちゃんに括りつけていた鞄から、布のようなものを取り出した。
「これを羽織ってください。多分、寒いでしょうからね。フーガもアキネさんに外套を」
そう言いながらリディルはかなに、布-外套をかけた。
その外套のセンスの良いことで。デザインは女の子用みたいでポンチョに似ていた。
外套は機能的な中にも可愛らしさがあり、色もかなの洋服の色に似合っている。
リディルってばセンス良いね。
リディルに促され、フーガも自分の愛馬シロちゃんに括りつけていた鞄から外套を取り出した。
「これを」
フーガはリディルとは違い、外套を渡すだけだった。
ただ、身振りで羽織り方を教えてくれた。
上から羽織った後、落ちないように木製のボタンで止めるようだ。
フーガは口下手なのか、言葉は少なく比較的無口な方だった。
根本は良い人そうだけど。
「ありがとうございます。これで……いいですかね?」
私はフーガから渡された外套を、フーガが身振りで教えてくれた羽織り方をして、間違ってないか聞いてみた。
「ああ」
たった、それだけの言葉だったが、なんだか嬉しくなった。
特別、フーガが笑顔を見せたわけでもないのに。
外套は思っていたよりか肌触りも良く、とても暖かかった。
デザインもかなのと同じものだった。色は違っていたが。
高度が上がっているのか、だんだん寒く感じていたから丁度良かった。
というか、そもそも目的地がこの先だから寒いのを見越して用意していたのだろう。
確かに、お城周辺と比べると温度差があるから、お城から外套を羽織ってたら間違いなく汗をかいただろう。季節で言えば、お城周辺が春の日差しの良い日。今いる祭壇近くが初冬くらいの寒さ。
外套を羽織り終わって、祭壇の周りの道を進み始めた。
道を登っていくにつれ、色とりどりの物の正体がはっきり見えてきた。
白い色は雪、他の色は草花の色だった。
温度的に考えれば、何故雪が? と思わないでもない温度だったし、雪が降るような場所で春並みの色とりどりの草花も謎だった。
頂に登りきった所でルーちゃんの歩みが止まり、リディルは馬から降りた。
後ろに続いていたシロちゃんも止まり、フーガも降りた。
かなや私も手伝って貰いながら、馬から降りた。
「到着したよ。ここが私の取って置きの場所だよ」
リディルがそう言いながら、軽くお辞儀をした。
眼前に広がる世界は、雪と草木に彩られた石畳の道。
なだらかに続く山(丘?)の中腹に、石造りの祭壇。
その下に見えるのは森と、森の中にある御伽噺に出てきそうなお城。
お城の麓には、城下街の広がり。
城下街の色とりどりの屋根が、大きな一つの模様みたいだった。
街と街を繋ぐ道が見え、広い緑豊かな大地に模様を描いたように見える。
緑の大地の地平線。その先には青い空の色。
とても、とても綺麗で。
一枚の写真のようで。
感動なのか、胸が締め付けられる。
言葉もでない。
ただ、その景色に魅入っていた。
「あきちゃん・・・?」
不安そうなかなの声。
口にしょっぱい水が入ってきた。
ああ、私……泣いてるのか?
初めての体験だった。
感動で涙を流すなんて。
そりゃ、感動映画とかで感情移入して引っ張られて泣くことはあったけど。
自分が感動しているのかどうかも、わからないのに、泣くなんて。
漫画みたいな体験だ。
年をとったから涙腺が弱くなったんだろうか?
自分の心がわからない。
ただ、眼前に広がる世界に、考えが追いつかない。
どのくらいの時間、その景色を眺めていたのだろうか。
かなも、リディルもフーガも黙っていた。
どこかで鳴いた鳥の声に、私は景色を眺めることを止めた。
「……かな……」
かなは無言で私の横に居てくれた。
私はかなのほうを向き、手を握る。
かなはそっと握られた手を、握り返してくれた。
「……帰り……たい………」
このときの私の声は、搾り出すような震える声だったと、後日かなが言っていた。
ただ、帰りたい。
その想いだけで、胸がいっぱいだった。
かなに縋るようにして、私は泣いた。
ただ、帰りたくて。
切なくて、哀しくて。
少しだけして、かなも一緒に泣いてくれた。
それだけで、気持ちが軽くなっていくようだった。
泣き声しか、周りには響いていない。
リディルもフーガも何も言わない。
慰めの言葉も、何も言わない。
ただ、私とかなを見守っていた。
どれくらい、二人で泣いただろうか。
空は橙に染まってきた。この世界も太陽のようなものがあるんだな。
とても、たくさん泣いたから、頭が痛かった。
でも、気持ちはすっきりした。
少し、前向きになれそうだ。
本当に、かなが居てくれてよかった。一緒に泣いてくれてよかった。
自分の気持ちが安定したのがわかる。
生きて、いけそうだ。
そんな気がした。
ようやく主人公少し前向きになりそうです。ちょっと重い気もしないでもないけれど、悲観しないわけが無いと、どうしても書きたかった。
やっぱし、思いっきり泣くとすっきりするけど、頭痛くなるわけで。
これから、主人公。おた・・・聡明になれるといいね!
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。