第十話
女神イシュタリアに会うことができる日が、聖帝の祭日。
その聖帝の祭日は、明後日になるらしい。
女王と小部屋で謁見の後、朝食を食べ、改めて王座での謁見となった。
謁見の場で、女王からこの世界の国の王として今後女神に会うまでの過ごし方を指示された。
聖帝の祭日までの間、私とかなはこの世界の常識などを身につけてもらうため、一日五時間の口頭授業を受けることになった。
なぜ、口頭かというと残念ながら文字は読めなかったからだ。
文字に関しては『女神の祝福』を受ければいいだけらしいので、この世界の一般常識を覚えなければいけなくなった。
この授業に関して、
「この世界に居続ける気はありませんから、必要ないです」
と反論すると、女王は
「居続けなくとも、女神に会うまで他人に迷惑をかけて生きていく気ですか?」
と、穏やかに諭されてしまいました。
そういわれると、受けざるを得ないわけで……。
午前中に三時間、午後に二時間。その後は自由時間。
といっても、かなと私の行動できる範囲も制限されているし。
何より、『神銀の騎士』(リディルやクラウ、フーガなど銀の瞳を持つ男性)が、かなを四六時中ずっと護衛する事とされた。
私に至っても、未だにこの世界に呼ばれた理由も、立場もわからないため、一応護衛の対象となった。もっとも、弄れた見方をすれば監視とも呼べそうだが。
日夜、護衛がいるという事は、どこに行くにも誰かと一緒というのは、絶対息が詰まる。
それが見ず知らずの、ましてや異世界の人間であればよけいに。
考えただけでも、疲れる。
さっさと元の世界に帰して。
玉座での女王との謁見が終わり、かなと二人少し呆けていたところにリディルが来訪した。
「こんにちは。どうでしたか、王との謁見は。疲れましたか?」
リディルはいつものように、にこやかな笑顔で聞いてくる。
玉座での謁見のとき、『神銀の騎士』たちとかな以外の『神銀の乙女』もその場に居合わせた。
あのときの謁見では、私と王であるエリーと王子のエル以外は皆、銀の瞳の人でした。
なんて居心地の悪いことでしたか。
「リディルさん……。こんにちは。そうですね。やっぱり、緊張してたんだと思います。疲れました」
かなからは疲労感と焦燥感が見て取れた。
「かな……大丈夫?」
私も多少なりとは疲労しているとは思う。それでも、かなよりはましかもしれない。
私とかなの様子をみて、リディルは困ったような表情になった。
「どうしようかな……。昨日言った、『神銀の乙女』について説明しに来たんだけれども。それよりも、どこかに気分転換でもしに行くほうが良さそうだね。どうだい、行ってみないかい?」
リディルは伺うように首を傾げながら、聞いてきた。
首を傾げた時、リディルの肩くらいまである綺麗な金髪が、さらさらと零れ落ちる。どこのCMのワンシーンですか。
眼福ですけど、でも今はそんな心境でもないし……。
「かな、行ってみない? もしかしたら、少しは気が晴れると思うし」
「あきちゃん……。うん、そうだね。リディルさん、お願いします」
たぶん、落ち込んだままだと前向きに考えられないし。
かなにはいつも笑っていて欲しいと思う、私の我侭。
こんな状況で、酷い我侭だとは思う。
それでも、いつも前向きなかなには笑顔で居て欲しい。
かなの笑顔にどれだけ私が救われたことか。どれだけ、前向きになれたことか。
だから、我侭だとは思うけれども、かなには笑っていてほしい。
「それでは、私のとっておきの場所に案内しますね」
にっこりと微笑むリディル。
「お二人は馬には乗れますか?」
私は無い、ので首を横に振る。
かなもあったとしても、動物園などの乗馬体験とかくらいだろう。かなから、乗馬が趣味だとか聞いたこともないし。
かなも横に首を振っていたので、それもないらしい。
二人が首を振ったのを確認すると、リディルは呼び鈴を鳴らしサティを呼んだ。
呼び鈴がなってすぐに、サティはノックをして部屋に入ってきた。
「馬にはその格好じゃ、乗りにくいからね。サティお二人にお着替えを」
「畏まりました。カナエ様、アキネ様、お着替えに参りましょう」
気のせいだとは思うが、サティが何故かとても嬉しそうだ。
「着替えが終わったら、南の厩に案内してね。それまでにこちらも準備を終わらせておくから。それじゃ、後でね。楽しみにしてるよ」
そう言って笑いながら、リディルは一足先に部屋を出て行った。
私とかなもサティに案内されながら、先ほど使った衣装部屋へと向かう。
移動の途中、サティが話しかけてきた。サティは私たちの前を歩いて案内をしていたので、表情は見れないが真剣な声色に感じた。
「カナエ様、アキネ様。いきなり違う世界に来て戸惑っているとは思いますが、どうか、この世界を憎まないで下さい。……この世界を愛せとは申しません、ただ憎まないで下さい」
それは、嘆願に聞こえた。
サティはこの世界が好きなんだ。胸を張って好きだと言えるのだろう。
それは、なんだか羨ましい気がした。
「…………」
かなは答えない、ただ俯いただけだった。
だから、私は聞いてみた。
案内をしていたサティは立ち止まって、私たちに振り返り嬉しそうに微笑んだ。
「サティさんは、この世界が好きなんですね」
「はい。この世界には大切なものが、沢山ございますから」
嬉しそうな声音で言うサティ。それを聞いたかなが、顔を上げて叫んだ。
「私だって、私の世界には大切なものがたくさんあったのよ!!」
初めて聞いた。
「誰が好きで、こんな世界に来たりするもんですか!」
かながこんな風に声を荒げて叫ぶところ。
怒ったりすることも、滅多にないかななのに。
「それなのに! どうして、この世界を憎んじゃいけないの!?」
かなは喜んだり、嬉しいなどの表現は周りがストップをかけるほど大袈裟に言うけれども、怒ったり悲しんだりといった表現はあまり表に出さない。
かなとも長い付き合いになるが、怒るように叫ぶかなを、私は初めて見た。
かなは、泣き叫んでいた。
何故だろうか、それが無性に羨ましくて、そして悲しくなった。
私も、自分たちが居た世界に大切なものがたくさんある。
だけど、かなのように泣き叫ぶほど、私が自分たちの居た世界に執着している気がしない。
ただ、心を占めているのは空虚感。
大切なものといっても、家族や友人。
彼らに会えないと思うと寂しくて、ホームシックになりそうだけど。でも、それだけ。
わからない。
何も、わからない。
どうして、怒りも憤りも、悲しみも沸いてこないのか。
ただ、何かぽっかりと穴の開いたような感情しか沸かないのか。
どうして良いかも、わからない。
だから、かなに笑っていて欲しい。
そうしたら、少しは何かがわかる気がするから。
でも、それは私の我侭。
「……申し訳ありません。ただ、『神銀の乙女』であるカナエ様にこの世界を憎んでほしくなくて……」
泣き叫ぶかなの様子に、サティも泣きそうだった。
「カナエ様とアキネ様のために、少しでもこの世界でお過ごしし易いように全力でサポートさせてい頂きます! 何でもお申し付けて下さい。カナエ様……本当に申し訳ありません。カナエ様のお気持ちを汲む事が出来ず、カナエ様を悲しませるようなことを申してしまって」
サティは酷く済まなさそうな表情だった。
サティのその様子に、かなはサティから視線を外し、どこか済まなさそうな表情になった。
「……ごめん……なさい。サティさんが悪いわけじゃないのに……当たるようなこと言って」
「いいえ、こちらこそ。カナエ様たちのお心をお察しできずに、申し訳ありません。……さあ、あまりお待たせしてもよくありません。お着替えに参りましょうか」
サティは笑顔を作り、この会話を終わらせるように言った。
かなもそれに頷き、サティの案内のもと着替え部屋へと歩き出した。
そして、着替えをして、南の厩へと案内された。
一つ、どうしてもわからない。
私は、なんでこの世界に呼ばれたんだろうか……?
主人公、主人公の癖に鬱になりかけてます!?大変じゃ……。かなちゃん頑張ってーあなたが明るくしてーーー!
のろのろと更新遅くなっていって申し訳ないです。
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