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ロック陰陽師 作者:鑑祐樹
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第9話 家

 俺は車から降りると、新しい住処になる古民家を、ぼんやりと見上げてた。

 夕陽に照らされ、雲が陰影を付けながら黄色に色づいてた。
 空が橙色(だいだいいろ)に染まっていく。夕焼けの下に建つその家は、何というか――まるで違う時間の流れの中にあるようだった。

 日本家屋は、立派な田舎のおばあちゃんの家のようだ。
 洋館はお洒落で可愛らしい。味わいのある緑色の屋根、グレーの外装はちょっとした装飾まである。白い縁取りのレトロな出窓や上げ下げ窓の下には、庭の木々や季節の花々が、活き活きとしている。
 すげぇ豪邸って訳じゃないけど、広くてやはり立派だ。
 全体的に素朴な感じがするのは色合いのせいなのか、どこか田舎の匂いがするからなのかもしれない。
 ここが、俺の新居だと思うと、何だか緊張する。

「お兄ちゃん!」

 弾けるような声と共に、俺の横を少女がすり抜けた。肩まで切り揃えられた髪が揺れる。年は背格好から小学校高学年ぐらいか、立花の着物の袖をぐいぐいと引っ張っている。

「ああ、雪華(せつか)。お帰り。お父さんは元気だったか?」
「……うん、元気だった」
 少女はそう言うと、立花に抱きついた。着物を両手で縋るように掴んでいる。
 小さな手が小刻みに震えているように見えた。

「でも、お兄ちゃんの所がいい。ここは、じいちゃんもいるし初おばあちゃんも飛龍(フェイロン)お兄ちゃんもいるから」

 立花は短く「――そうか」と言うと、少女の頭を優しく撫でる。

 俺はどうしていいか分からず、ただその光景を眺めていた。
 訳ありみたいだな……話しかけにくかった。
 黙っていたら、立花が目線をこちらに向ける。

「ああ、大神君すまんね。この子は私の姪っ子で、雪華と言うんだ。新学期から小六になる。宜しく頼むよ」

「……どうも、大神双牙です。宜しくね、雪華(せつか)ちゃん」

「雪華、こちらは大神双牙君。新しい家政夫でこれから家で住み込みで働いて貰うから、仲良くするんだよ」

 少女の瞳がじっと俺を見つめた。引いてるというか、警戒してるだろうコレ。
 俺、髪も染めてて格好も怪しいから、気持ちは分かるんだけどさぁ。
 今、パーカーにジャージにブーツだし。

「……飛龍(フェイロン)兄ちゃんみたいに、お勉強するの?」

「ああ、彼は陰陽師の才能があるんだよ」
 立花は雪華(せつか)を見ながら、軽く微笑むとそう答えた。

「そうなの! 立派な陰陽師になるのよ、大神双牙さん」

 子供らしいふっくらとした頬は桜の花びらが溶け込んだように、薄っすらと色づいている。先ほどまでの警戒は今は無く、愛くるしい目をこちらに向けて、はにかんだ笑顔を見せる。

 それを見た瞬間、何だか戸惑ってしまった。可愛い。可愛いけど。

 立派な陰陽師って……。

 しかも大神双牙さんって……。

 面白いというか、変わった子だ。何だか可笑しくなって口元を緩めている俺に、落ち着いた声で立花が声をかけた。

「それじゃ、大神君。車のトランク開けるから荷物持って。部屋を案内するよ」

 立花は俺の荷物の一つを持つと、日本家屋の玄関へと足を向けた。
 後ろに雪華(せつか)と俺が続く。

 木製の引き戸は色あせている所や色の濃い部分があり、年月の深みを感じさせる。重厚で年齢を感じさせるそれは予想と裏腹に、カラカラと音を立てては軽やかに開いた。
 目前に広がる玄関と間――。

 その奥に更に引き戸があり、柱時計がチクチクと時を刻んでいた。
 時を刻む音と共に、ふっと雪華の言葉が俺の耳に自動再生される。

 ――立派な陰陽師になるのよ。

 立派か……立派にはなりてぇな。
 これから始まる新生活を、福子と共に頑張ろうと。そう心に誓った。
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