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ロック陰陽師 作者:眞神 ユウ
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第9話 震える男

お読みくださった方々、投票など入れて下さった方々へ、ありがとうございます!
 闇色に染まった路上を、ヘッドライトの灯りが照らしていく。
 何となく心細いのは、これから向かう先が、あの気味の悪い電話の相手だからだ。憂鬱で仕方がない。
 しかも、夕飯食べそこねた気がする。そう思うと余計に腹が減って来た。
 俺、食べ盛りなんだよ。

 うつむいた俺に、立花さんが話しかけてきた。前方をしっかり見て運転しているのに、俺の気持ちを読み取ったかのように釘を刺す。

「大神君、これから山城さんに会いに行くけどね。出来れば――あまり怖がったり、驚いたりしないように。隙が出来るからね」
「そんな事を言われても……」
 困る。俺だって別に怖がりたくない。かっこ悪りぃし。
「出来る限り、で良い。気構えができていると違うからね」

 一体、俺が行く意味があるんだろうか。邪魔になるだけでは? そう思ったら、あの飛龍という大学生の顔が脳裏にちらつく。胸を張る彼は「行っておいで、勉強してきなよ」と優しげに呟いていた。

 絶対、良かれと思ってる。俺のためだと思ってる。
 ため息と同時にカーナビから、抑揚のない女性の声がした。目的地が近いらしい。

「このコンビニで、待ち合わせをしたんだよ」

 立花さんの声に、どうしようもなく緊張する。気構えなんて言われても、あの電話から漏れ出していた悲鳴のような声が忘れられない。女がどう、とか言っていたけど……。
 俺たちを乗せた車が、照らされた看板に引き寄せられるようにして、コンビニの駐車場に入る。

 広い駐車場には、存在感のあるトラックと、ぽつりぽつりと数台の車が停まっている。
 ふと、妙な動きをしている人間が目に入った。コンビニの入り口横に、荷台やらゴミ箱が置いてあるスペースがあって、その前をぐるぐると回っているのだ。
 イライラしているようにも、焦っているようにも見えた。彼が約束している人だろうか?

「ああ、ちょっと待っててね大神君。先ず私が一人で行ってくるから」
「いや、俺も行きますよ……」
 車の中で眺めてる方が不安だよ。
「そうか。じゃあ、ついておいで」

 立花さんと共に車から降りた。バタンとドアを閉める音が、妙に大きく感じられた。
 近づくにつれ、その男の姿が見えてくる。
 ベージュのスプリングコートにジーンズといった格好だったが、髪の毛が掻き毟ったようにぐしゃぐしゃになっている。ラフな服装だから余計に目立つ。
 こちらに気づいたのか、焦燥しきった顔をこちらに向けた。

「た、立花さん……っ」

 彼は名前を呼びながら、駆け寄って――立花さんの腕を掴んだ。外套が引っ張られるが、意に介さない様子で、男に穏やかな口調で語りかけている。

「大丈夫ですよ、落ち着いて下さい。山城さん」
 山城と呼ばれた男は涙ぐんでいた。目の周りが黒ずんでおり、数日も寝ていないんじゃないか、という顔だった。
 彼は俺の存在に気づくと、一瞬警戒したような表情になる。
 その瞬間、――ひどい寒気がした。身体の内側から這い上がってくるような、近づきたくないような。

 あ、来たな……。

 いる、何かが。近くに。

 その気配はとっくに感じているだろうに、気にした様子もなく立花さんが説明する。

「あの子は、私の弟子です」
 山城は、ああ、とかうん、とか目線が合わないような、どこを見ているのか分からない顔でうめくように返事をしている。
「とりあえず、車の前まで行きましょうか」

 ブラックのワンボックスカー……立花さんは自分の車を指さすと、そう言った。
 しかし、山城は首を振る。

「車は……」

 震えながら拒否してきた。
 どう考えても、車や店の近くの方が安心するだろうに。店なら人もいるし、明るいし。よりによって、こんな暗い荷物置き場でうろうろと。

「なんでこんな所にいるんですか? 店ん中入ってりゃ良いのに」
 つい口を出してしまう。すると、彼は目を泳がせながらこう返事をした。
「車も、店も、窓があるから……窓に映る、から……っ、あいつ、あいつが……」
「あいつ?」
 立花さんの方を見ると、顎に手をやって考え込んでいる。

「相手が変わっていますね。前の依頼の時は男性の生霊だったのに、今度は女の霊がついている……ああ、大神君。彼は山城さんと言うんだけど」
 立花さんは、俺に向き直ると、説明を始めた。

「以前にも、彼の御祓いをしたんだけどね。その時は、会社の同僚の生霊だったんだよ。山城さんが重要な企画を任されたのを、同僚の男性が気に入らなかった……それは片付いたんだけど、今回は別の霊みたいだ」
「別の?」
 大変だなこの人。
 それに、今……「霊」って言ったよな。じゃあ……。

「ずいぶん強烈な悪霊ですね、山城さん」
 立花さんがそう言うと、山城と言う男は泣き崩れた。

「――バン、ウン、タラク、キリク、アク」
 しゃがみ込む山城にゆっくりと歩み寄りながら、立花さんが何か、知らない言葉を発した。
 その言葉と共に、右手の指先で星の形を画く。
「あっ」
 眩い光が山城を照らす。
 その一瞬、俺の目に――強烈に『その姿』が焼きついた。

 黒茶と、白の塊のようなもの……山城の肩や頭に、得体の知れない『何か』が乗っていた。

 立花さんの発した、呪文のような言葉。それの力なのか、不気味な塊が光と共に弾き飛ばされた。
「なっ……何だよ……! あれ……」
 俺は動転してしまい、大きな声を出してしまう。

「フン……」
 立花さんは鼻を鳴らすと、山城に聞こえないように、俺に耳打ちをする。
 落ち着いた穏やかな声は、混乱した脳を正常に戻してくれた。

「大神君には悪いが、これから怖いものを見るかもしれない。でも、私が居るから問題ないよ。だから、出来れば怖がらないでね」
 呑み込まれてしまうから。と付けたしてから、立花さんは山城に近づいていった。

 山城は、何が起きたのか分からない様子で、口を開けてぼんやりしていた。コンビニの駐車場にいながらも、光が届かない場所で、背筋を丸めたシルエットは魂が抜けているように映った。
「肩が……軽くなった……」
 山城は、零れ落ちたようにそう呟いた。
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