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ロック陰陽師 作者:眞神 ユウ
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第8話 電話

 雪華ちゃんも異変に気がついたのか、振り返って不安げに立花さんを見つめている。携帯の相手が何を喋っているのか分からないが、かなりの音量だという事だろう。

 立花さんが、たまらないといった様子で携帯を耳から遠ざけた。そして。

 聞こえた――。

 引き離された携帯から、異様な空気と共に漏れ出す男の叫び声。

「たすけてくれ――頼む……たすけて女、あぁぁ女おんなが――」

 全身が凍りついた。

 その声は、極限まで追い詰められた魂の叫びに聞こえた。
 切羽つまった危機感に、ぞくりと身体を震わせる。

 立花さんがもう一度、耳に携帯を寄せて「大丈夫、落ち着きなさい」と強い口調で言った。
 それから俺達に背を向けると、引き戸の奥に吸い込まれて行くように姿を消した。俺と雪華ちゃんは、その場に立ちつくすしかなかった。
 静寂の中に、ちくちくと柱時計の音だけが反響して聞こえてる。
 何だよ、あれ。良くわかんねぇけど……やべぇ感じなのは分かる。
 怖がっているんじゃないかと思い、雪華ちゃんに声をかけようとした瞬間だった。背後から、カラカラと軽い音と共に若い男が玄関に入って来た。

 黒のジャケットに灰色のパーカーとジーンズという出で立ちで、短い茶色の髪を、自然体に流している。全体的にがっしりとしていて、力強そうだ。気が強そうな目をしてる、というのが第一印象だった。
「あれ? お客さんか?」
飛龍フェイロンお兄ちゃん、お帰り!」
「ただいま」
 雪華ちゃんが言うと、彼は微笑んでそう応えた。

 顔だけだと日本人と変わらないけど、名前からすると中国の人だろう。そういや、立花さんが留学生が居るっていってたな。

「あの……俺は、大神双牙といいます。今日から、この家で住み込みで働く事になりました」

 そう挨拶すると、彼は目線を俺に合わせて口を開いた。

「そうなんですか? こんにちは。僕は、黄飛龍ホァンフェイロンと言いなす。中国から来た留学生です。ここで、ホームステイをさせて貰っています」

 「言いなす」ってすごく真面目な顔で真剣に言うものだから、つい顔がほころんでしまう。だけど、ちょっと発音の癖があるくらいで、日本語を上手にあやっている感じだった。

「あれ、僕の日本語、おかしい? 自信あるんだけどなぁ」

「いや、上手だよ。一箇所だけおかしいだけ」

 二人で笑った。それをきっかけに、彼と玄関先で話し込む。
 彼は十七歳の時にも、この家でホームステイした事があって、これが二度目らしい。話を聞いてると、個人的なホームステイみたいで、今は大学生だそうだ。
 俺の方は、「バンドをやってるんだ」とかそんな話をした。そうしていたら、雪華ちゃんが俺と飛龍フェイロンの服を後ろから掴んで、ぐいぐい引っ張って来る。

「大神双牙さん、さっきの変な電話の事は?」

 あっ、ヤベ。そうだった。あれから、まだ立花さんは姿を見せていない。
 だからと言って、追いかけて行って良い雰囲気でもなかったんだよなぁ。だから、俺も雪華ちゃんも、何となくここで立ち往生してたんだった。

飛龍フェイロンお兄ちゃん。変な電話が、旭お兄ちゃんの携帯にかかってきたの!」

 雪華ちゃんが飛龍フェイロンにも説明した。
 俺も、閉ざされた引き戸を見つめながら、さっきのことを彼に話す。
「携帯から、すごい声が洩れててさ……切羽詰まった男の声で、助けてくれって叫んでたんだよ」

 あの男の声が脳内で再生され、ぶるりと身震いがした。

「見て来る」
 飛龍フェイロンが短く言うと、年期の入った床を早足で踏み鳴らす。

 それと同時に、まるで、会話を聞いていたと言わんばかりのタイミングで引き戸が開いた。立花さんが、引き戸から顔を出す。
 更に血色が悪く見えたが、どうしたのだろうか。
 目前の飛龍フェイロンに気が付くと、口を開く。

「ああ、お帰り。飛龍フェイロン

「ただいま戻りました。旭さん、おかしな電話がかかって来たらしいですが……何かありましたか?」
 飛龍フェイロンが、朗々とした口調で言う。まるでパトロール中の警官のようだ。

 雪華ちゃんが、いつの間にか立花さんの袖を掴みながら、心配そうに見上げてる。
 彼はそれに答えるかのように、雪華ちゃんの頭を軽く撫でながら、口を開く。

「ああ、問題はない。山城さんという方なんだが……一年程前位だったか、同僚の生霊に悩まされて、依頼に来た人でね。落ち着かせて、名前を聞き出すのに苦労したよ」
「うわ、陰陽師の仕事の電話かよ」
 俺の声が聞こえたのか、立花さんが腕組みをする。

飛龍フェイロン、彼は大神双牙君――」
「聞いております。住み込みで働く事になったそうですね」

「ああ、聞いたかい。それと彼は、どうもソッチの才能があるみたいだから、さらに私の弟子にしようと思う。君とは同居人になるから、色々と教えてあげてくれ」
「承知いたしました。旭さん」

 飛龍フェイロンが真面目な声で答える。
 ソッチの才能って何だよ……。ああ、幽霊が見える事ね。しかも、いい感じの霊は見えないけど、ヤバい奴だけ見える才能。
 ……いらなくねぇ? 
 そんな感じに俺が拗ねてると、雪華ちゃんが花が芽吹いたような明るい声で話しかけて来た。

「大神双牙さん、陰陽道がんばってね!」

 陰陽道……昨日までの自分の住んでた世界と違う。俺は今どこに立ってるんだ?
 苦笑いで雪華ちゃんに手を振ると、横で立花さんがこう言った。

「私は、山城さんの所に至急向かう事になったから、先に夕飯を食べてなさい。大神君、すまないね。部屋を案内するのは、また後にしよう。取り合えず、昨日の客間に君の荷物を運んでおいてくれ」
「あっ、はい」
 俺は頷くと、床に置き去りにしていた荷物を拾い上げた。
「こっちも君の?」
 飛龍フェイロンが、俺の荷物を指差しながら訊いてきた。
 俺が頷くと、床で待ちぼうけしていた荷物を手に持ち「手伝いますよ」と言ってくれた。

 俺は礼を言うと、心に抱いた疑問を彼に聞いてみた。
「――陰陽師って何するんすか?」

 この言葉がよくなかった。
 飛龍フェイロンは俺の顔を数秒見据えてから、にっこりと微笑んだ。
 それから、立花さんに向かって口を開く。
「旭さん、彼を一緒に連れて行ってあげたらどうですか? これから、陰陽の勉強をするのでしょう。良い経験になると思いますよ」

「ああ、それもそうだね。それじゃ大神君、君は私と一緒に行こう」
「あ? えっ!」

「荷物は俺が運んでおくよ。行ってらっしゃい、大神双牙君」

 飛龍フェイロンがにこやかに言い放ち、雪華ちゃんが「わぁ」とか言いながら満面の笑顔で手を振っている。なんでそんな嬉しそうなんだよ。
 あとなんで二人とも、俺のことをフルネームで呼ぶんだよ。
「いや、福子の様子が気になるから……」
 行くって――さっきの気味の悪い電話の相手だよな。嫌なんだけど。
「大神君。いいから、早く行くよ。時間がないんだ」
 立花さんが俺の手を引っ張り、引きずられる形となった。こいつ意外と力あるな!
「福子ってなにー?」
 雪華が、連行される俺に向かって大きな声で聞いてきた。

「金魚……!」

 その言葉を最後に、俺は車に詰め込まれた。
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