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ロック陰陽師 作者:眞神 ユウ
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第7話 オカメインコ

 赤信号のランプと共に、俺たちを乗せたワンボックスカーが停止する。車の窓から入り込む風が止まった。横を向くと、立花さんが学校の先生みたいな顔付きでこちらを見ている。

 中年のおじさんが、スマホを耳に押し付けながら、横断歩道を小走りで横切るのを見送って、車はまた走り出した。

「そのオカメインコって……生霊? それとも幽霊ですか?」

「ああ、残念だけど亡くなっているね。でもね、結構いるんだよ。飼い主の様子を見にきたり、遊びに来たりしている子が。鳥でも、犬でも猫でも、飼い主の事が好きな子は来てたりするんだ」

「へぇ、そうなんだ!」

 良かった。成仏できてないのかと思って、心配してしまった。
 今の話からすると、あの赤いコートの彼女も、オカメインコを可愛がっていたのだろう。彼女はこれを知らない訳だけど、もし知ったら――嬉しいだろうな。

 立花さんは変わらず、正面を見て運転している。ただ、一瞬だけ眼を細めてから口を開いた。

「結局は、感情なんだよ。好きでも嫌いでも、呪いでもね。そのオカメインコも、誰かに強要されたんじゃなく、自分の気持ちで来ている。彼女が好きなんだろうね。大神君も、そういう気持ちは分かるだろう?」

 俺は立花さんの言葉に、顎を引いて小さく二回頷いた。

 立花さんがハンドルを軽く回す。車は交差点を右折すると、見慣れた町から、徐々に知らない町へと移り変わっていって、ラーメン屋の前を通り過ぎて行く。
「でも、生霊とか亡くなってるとか、何ですぐに違いが分かるんすか?」
「それは、見ればすぐに分かるからだよ。……全然違うからね」

 全然違うのか……どう考えても、良い想像なんて出来ねぇな。気分が滅入りそうだから、それ以上は聞かない事にした。

「帰ったら大神君の部屋を案内しないとね。あと、家に住んでいる家族を紹介しよう。私の父と姪っ子……それと、うちでホームステイをしている留学生がいるんだ」
 立花さんはそう言って、微笑んだ。
「家政婦のお婆ちゃんもいる。住み込みじゃないけどね。あと犬を飼っているよ。みんな紹介しないとな」

 話している内に、二階建ての洋館とそれに寄り添う木々が見えて来た。
「ああ、父と犬は今は外出しているけどね。数日で帰ってくるよ」

 和と洋の別の建物がくっついて、一体になっている。
 あの独特の雰囲気を持った古民家――立花家。俺は車から降りると、新しい住処になるその家を、ぼんやりと見上げてた。
 空が橙色に染まっていく。夕焼けの下に建つその家は、何というか――まるで違う時間の流れの中にあるようだった。


 右側にある日本家屋の部分は、田舎の大きな家のようだ。
 洋館はお洒落で可愛らしい。味わいのある緑色の屋根、グレーの外装はちょっとした装飾まである。白い縁取りのレトロな出窓や上げ下げ窓の下には、庭の木々や季節の花々が、活き活きとしている。
 すげぇ豪邸って訳じゃないけど、広くてやはり立派だ。
 全体的に素朴な感じがするのは色合いのせいなのか、どこか田舎の匂いがするからなのかもしれない。
「――お兄ちゃん!」
 弾けるような声と共に、俺の横を少女がすり抜けた。

 肩まで切り揃えられた髪が揺れた。
 年は背格好から小学校高学年ぐらいか、立花さんの着物の袖をぐいぐいと引っ張っている。

「ああ、雪華せつか。お帰り。お父さんは元気だったか?」
「……うん、元気だった」
 少女はそう言うと、立花さんに抱きついた。着物を両手で縋るように掴んでいる。
 小さな手が小刻みに震えているように見えた。

「でも、お兄ちゃんの所がいい。ここは、おじちゃんもいるし、はつさんも、飛龍フェイロンお兄ちゃんもいるから」

 立花さんは短く「――そうか」と言うと、少女の頭を優しく撫でる。
 俺はどうしていいか分からず、ただその光景を眺めていた。
 訳ありみたいで、話しかけにくかった。黙っていたら、立花さんが目線をこちらに向ける。
「ああ、大神君。この子は私の妹で、雪華と言うんだ。新学期から小六になる。宜しく頼むよ」
「……どうも、大神双牙です。宜しくね、雪華ちゃん」
「雪華、こちらは大神双牙君。新しい家政夫でこれから家で住み込みで働いて貰うから、仲良くするんだよ」
 少女の瞳がじっと俺を見つめた。引いてるというか、警戒してるだろうコレ。俺、髪も染めてて格好も怪しいから、気持ちは分かるんだけどさぁ。
 今、ジャンバーにジャージにブーツだし。

「……飛龍フェイロン兄ちゃんみたいに、お勉強するの?」
「ああ、彼は陰陽師の才能があるんだよ」
 立花さんは、雪華ちゃんを見ながら、軽く微笑んでそう答えた。

「そうなの! 立派な陰陽師になるのよ、大神双牙さん」

 子供らしいふっくらとした頬は桜の花びらが溶け込んだように、薄っすらと色づいている。先ほどまでの警戒は今は無く、愛くるしい目をこちらに向けて、はにかんだ笑顔を見せる。
 それを見た瞬間、何だか戸惑ってしまった。可愛い。可愛いけど。
 立派な陰陽師って……しかも大神双牙さんって……。

 面白いというか、変わった子だ。何だか可笑しくなって口元を緩めている俺に、立花さんが声をかけた。

「それじゃ、大神君。車のトランク開けるから荷物持って。部屋を案内するよ」

 立花さんは俺の荷物の一つを持つと、日本家屋の玄関へと足を向けた。
 後ろに雪華ちゃんと俺が続く。
 木製の引き戸は色あせている所や色の濃い部分があり、年月の深みを感じさせる。重厚で年齢を感じさせるそれは予想と裏腹に、カラカラと音を立てて、軽やかに開いた。
 目前に広がる玄関と間――。
 その奥に更に引き戸があり、柱時計がチクチクと時を刻んでいた。
 時を刻む音と共に、ふっと雪華ちゃんの言葉が俺の耳に自動再生される。

 ――立派な陰陽師になるのよ。

 立派か……立派にはなりてぇな。
 これから始まる新生活を、福子と共に頑張ろうと。そう心に誓った。
「大神君。洋館の部屋を案内するよ。丁度、姉が住んでいた部屋がある。家具があるから、そのまま使えるよ」
 立花さんはそう言うと、右の通路に爪先を向けた。
 その瞬間だった。涼やかな和風の着信音が鳴る。
「ああ、これは携帯の方だな。悪い、ちょっと待っててくれ」
 立花さんが懐から黒の携帯電話を取り出している。

 そうだ、携帯の事を忘れていた。早く充電しなきゃな。
 解散のことでごちゃごちゃしてたから、バンドのメンバーから着信やメールが来てるだろう。
 ふと横を見ると、退屈そうに片足をぶらつかせ、玄関に活けられた花を見てる雪華ちゃんが目に入った。
 唇を小さく尖らせてる。すねてんのか? 
 子供らしいなと微笑みながら、視線をくるりと反対側に向けた。

 あれ?

 不意に見た立花さんの様子がおかしい。一言も喋らず、耳に携帯をあてている。
 それだけでは、別に大した事じゃねぇんだけど……。
 携帯から、がぁがぁと機械に混じる声というか、潰れた音が漏れ出していた。
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