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ロック陰陽師 作者:鑑祐樹
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第6話 霊感

続きをお読み頂きありがとうございます!
 俺は菓子に手を伸ばし、セロハンの包み紙を捻って中身を取り出す。

「もう一つの……? 仕事、掛け持ちしてんすか」

「ああ、別にね。陰陽師をしている」

 陰陽師……陰陽師って何だっけ。ああ、知ってるぞ。

「ああ、あの平安時代の奴っすよね。妖怪とか物の怪を退治する奴――」
 まぁ、面白い話だけど、御伽噺とか漫画や小説なんかの認識しかないぞ。俺は。

「えっ、アレ本当に居んの?」

 先ほど、口の中に放り投げたチョコレートが甘いカカオの匂いを口一杯に満たしてくれた。

「正式には陰陽寮は明治3年、陰陽道は明治5年に廃止されているね」

「いないじゃん」

 俺の言葉に答えるかのように、あの含み笑いをする。
 この人、性格ひん曲がってんじゃないのか。薄々思ってたけど、もしかして俺の顔色を見て楽しんでんじゃないだろうな。

 若干、冷ややかな眼差しで見つめていたら、「――いや、脈々と受け継がれていてね。その証拠に眼の前に居るじゃないか」なんて言いやがった。

「なんだ、信用していないようだね。現に昨日助けたじゃないか」

 確かに、昨日は眼の辺りにした恐怖を現実に実感している訳だし……先ほどの生霊の話だって、特徴が恐ろしいぐらいに当たっていた。
「う……まさか」
 才能ってソッチ……。よりによって、ソッチ! 霊感!

 冗談じゃねぇぞ。霊関係の話なんて、ガキの頃の嫌な思い出しかねぇんだよ。こっちは。

 でも――家政婦はともかく、住み込みの仕事っていうのは良いよなぁ。
 これで、福子の宿も安泰だし俺も気が楽だ。

「分かって貰えたようで良かったよ。というか、君は陰陽道を勉強しなさい。家で住み込みで働くんだしね」

「えっ、何で?」

「君には才能はあるが、逆にそれが害になっている。霊感の素質はあるのに、バランスが非常に悪いからね。特に昨晩のように、メンタルが弱っている時は、不安定で危ういんだ」

 何これ……。俺、もしかして(おど)されているのか?

 いや、違うな。今までの話を聞くと立花が言っている事は、たぶん本当の話だ。
 脅されている方が幾分かマシな気がする。
 危ないと言われると気になる。ただ、自分の中で分かるというか、納得出来る部分があった。昨日、霊に襲われたばっかだしな。

 黙り込んで、(うつむ)くと胡坐(あぐら)をかいた自分の足が見えた。
 立花の声が聞こえる。

「大神君、君は霊が見える時があるだろう?」

「……昨日はともかく、見えてたのはガキの頃ですよ。話すと親も嫌がるし、怒られてからはあまり見えなくなりました。今では(まれ)っすよ……あっても、気のせいかな程度で」

 幼稚園ぐらいの時は、得体の知れないモノがよく見えていた。

 昼間、陽光が明るく照らす道端。

 何気なく通り過ぎる主婦が、大きなスーパーの袋を自転車の前かごに入れ通り過ぎる。

 その後ろ、まだ照らされていない街灯の隣に。黒いシルエットだけになった人物が、座る、立つ、座る、立つと、まるでプログラミングされたように、繰り返し同じ動作をしていた。

 制服の学生が、民家をすり抜けていく――

 そんなものが、日常的に見えていた。

 親や友達に言っても信用されなかったし、怖がられたり気味が悪いと、何とも言えない目つきで見られた。

 ある時、現実主義の父親からしこたま怒られた。母親は静かに俺を見ていた。何か、得体の知れないモノを見る眼だった。
 あの時の顔が未だに忘れられない。母さんが、小さく呟いた。

 ――怖い、この子怖いわ。

 小さく呟いていたはずなのに、何故か5歳の俺には、その声だけがヘッドフォンで聞いたみたいに、大きく響いた。

 その日、俺は霊が怖いものだと知った。

 今思うと、母は霊が怖かったんじゃなくて、得体の知れない俺が怖かったんだろう。

 当時の俺には――通りすがりの生きている人間、それに紛れて、たまに見える霊。それが普通だったんだ。
 でも、それはみんなの普通ではなかった。

 普通、一般、常識。それらと比べられて、自分がとても駄目な人間に感じられた。

 俺はその時から、霊なんて気のせいだ、幻覚だと思い込むようになった。

「……だから、今は……」

「怒られたか。それは辛かったね」

 どんな表情をしていいか分からず、頭を傾げ眉毛をかく俺に、立花が言う。

「霊が見える子でも、親御さんが否定派の人もいるからね。子供が親に否定されるという事は傷つくだろう。これは、他の事でも言えるけれど――君は君でいいんだよ。人と違うモノが見えようが、見えるのなら否定してはいけない。人間は人それぞれだよ」

 そんな事、初めて言われた。

 ――なんだ、別にいいんだ。

 人に認められたような気がして、胸の辺りの何かがじんわりと溶けた気がした。礼を言おうとしたが、気恥ずかしくて「どうも」と、蚊の鳴くような声で言ってしまった。

 慌てて取り繕うように、問いかけた。

「あの、自分はバンドやってるんですけど……その、シフトっていうか……仕事の時間てどうなりますか? 融通(ゆうずう)とか、利きますかね?」

 バンドは近々、解散予定だけど。
 夢を諦めるつもりはない。

 あるロックバンドの曲を聴いて、ガキの頃の俺は、すごく救われた。
 いつか、人を元気づけられるような音楽を作りたい。

「ああ、その辺は大丈夫だよ。そうだな、その日によるけど――うちの場合、一日5、6時間程度かな。やってもらう事が多かったら、その日はもっと長時間になるとは思うけど。もちろん休みはちゃんとあるし、用事がある日は前もって言えば融通は利かせるよ。住み込みだし、8万くらいかな。食事代等がただなら、条件は悪くないだろう?」

「ウソ!」

 住み込みで月8万? 俺は、冷めてきた茶に手を伸ばすと、勢い良く飲み干した。

「ありがとうございます……色々と助かります。働かせて下さい。宜しくお願いします!」
 そう頭を下げた後に、ふっと気になったので聞いてみる。

「でも、なんか高額だけど良いんすか? 家政婦の給料の平均なんて知らないけど……」

 立花は、応えるようにお茶を飲み、穏やかな声でこう付け加えた。

「ああ、いいんだよ。住み込みの家政婦っていうのは、割と給料が高いから。それに――」
「それに?」
「君には、陰陽師の勉強と共に、私の仕事を手伝ってもらうからね。いわば、アシスタントみたいなものだ」

「えっ……」

 俺が目を丸くしていると、この男は涼しげな顔で微笑んだ。
「そういえば君の場合は、夫と書いて家政夫かな。これからよろしく、大神君」
窓から差し込める光がやけに眩しく感じた。
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