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ロック陰陽師 作者:眞神 ユウ
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第6話 移転

 路上を軽快に車が走る。
 ブラックのワンボックスカーは、良く磨かれているのだろう。黒々とした光沢を反射して、まるで新車のようだ。

 だんだんと、見慣れた風景になってきた。轟々(ごうごう)と響く車両の音と共に流れていく。
 都会ではないが、田舎すぎる訳でもないこの町。ちょっと横道を逸れれば、田んぼが広がるが、その反面ちょっといけば、国道旧四号線に繋がる道がある。
 それでも最近立て直した車のチェーン店なんかは、花壇に苗が植えてあった。初夏までには花が咲くのかも知れない。そこを通り過ぎると、今度は年季の入ったコロッケ屋。運転しているのは、もちろん立花さんだ。

 着物に羽織を引っ掛け、靴は足袋にスニーカーの出で立ち。分かるんだけど合わない。まぁ、俺も人の事は言えないんだけどな。あの鮫ジャージに、自前のごついブーツを履いている。それから、更に真っ黒いジャンバーを借りた。

 ――立花さんの家で働く事が決定したあの後、すぐに彼は俺に電話をさせた。もちろん相手は母親だ。
 事情を話すと、「あんた今どこにいんのよ!」の一点張りだった。すると立花さんが代わってくれて、母と話した。
「昨夜、双牙君を保護した立花という者です。今からご自宅までお送りしますので、待っていて下さい」
 そう言うと電話を切り、俺の方に向き直りこう説明する。

「高校を卒業しても、三月三十一日までは、法律で高校生なんだよ。未成年が家で働くのだから、親御さんにも許可を取らなければならないからな。今日は私も仕事が無いから、一緒に行ってあげよう。お母様には、これから伺いますと伝えておいたよ」

 そんなこんなで、着替える暇などなく、福子に餌をやってから飛び出す羽目になったのだ。ジャンバーを胸の辺りで抓み上げて覗き込んでいる俺に、立花さんが話しかける。

「ああ、そのジャージ、良いだろう? 新品だからあげるよ」
「あ……ありがとうございます。こういうの、着るんすね」
「楽でいいんだよ。そういうの」
 昨晩といい今日といい、着物や外套の姿しか見ていないから、すっかり明治時代の人間と錯覚しちゃうんだよなぁ。もちろん、違うのは分かってるんだけど。

 しかし、随分と行動力のある男だ。
 立花さんを連れ母と再開した時は、どうなるのかと緊張したが、取り越し苦労だった。


「俺、家を出て行って、この人の所で働くよ」
 ――俺がそう伝えると、母親は露骨に動揺した。
「急になに言ってるのよ、ちゃんと説明して!」
「失礼しました。私は、こういう者です」
 すぐに立花さんが名刺を母に渡し、しっかりとした口調で説明しはじめた。

「まぁ……あなた、立花さんのところの先生でいらっしゃるの?」
 母親は、名詞を食い入るように見つめて、驚きの声を上げてた。どうも、友人の子供が立花さんの所で書道を習っているらしい。
 俺としては、友達の子供って遠くねぇ? と思うが、当の母は知り合いにでも会ったように、余所行きの声を出し始めた。立花さんの方は、話すのは慣れているようで、俺の右横に座り、時折笑顔を見せながら穏やかに話し込む。

 でも、チラっと見えたんだよなぁ。

 母が口許に手をやって笑った。その瞬間――立花さんが木製のテーブルの下で何かをしていた。手を全体に使い、指を様々な形に動かしている。

 あれは、何をしてたんだろう。すげぇ早ぇんだけど。
 ……ストレッチ? やらけぇな、指。
 本当は、母の相手に飽きてて暇してんのかも知れない。同時に何かを早口で言ってたが、隣にいる俺さえ、定かに聞こえない低い声だった。

 ――そうして母親を説得し、自宅から衣服、携帯の充電器、ベースのアンプ――俺が生活するのに最低限の荷物を運び出すのに成功した。

 その足で市役所まで行き、移転届まで済ませている。車があると便利だな。
 待たされている間、番号札を片手に椅子に座り、ぼんやりとテレビ画面を眺めた。この町の地域密着のニュースが、繰り返し流されていた。

 初めての移転届け。

 ああ……何か、楽になったな――。
 それが、市役所の玄関を出た時の、俺の感想だった。なんにせよ、今日一日でたくさんのことが進んだ気がした。

 帰り道、車両の窓を少し開けると、気持ちの良い風が勢い良く入り込む。ぞれと同時に香ばしい匂いが鼻腔に吸い込まれてきた。俺の横を空しく焼肉屋が通り過ぎて行く。
 ふいに、立花さんが声をかけてきた。
「大神君、あの赤いコートの女性、見える?」
「えっと……あの、自転車乗ってる人ですか」

 道路の内側を、赤いコートの女が自転車で走っている。年齢は二十歳前半ぐらい、長い栗色の髪を艶やかになびかせている。
「そうそう――その彼女の後ろ、見えるかい? ついて来てるだろう?」

 立花さんは顔色を変える事無く、前方をしっかり見ながらハンドルを握っていた。

 ――後ろ? 後ろに何かいるのか……?

 俺と立花さんが乗った車はとうに彼女を追い越している。俺はバックミラーで小さくなった彼女の姿を、食い入るように見た。

 ――女の背後には特にだれもいない。何もない。

 ただ、自転車で通った道路が広がるだけだ。電信柱や年季の入った小さな工場がチラリとサイドミラーに映った。

 まさか……。
 立花さんの事だ。霊の話だろうと、瞬時に思った。
 ゴクリと唾を飲み込んで、立花さんの顔を覗き込む。

「オカメインコだよ」
「は?」

「あの女性の後ろに、オカメインコが必死に飛びながら付いてきている……君は波長の低いモノは見えるのに、ああいう普通の霊は見えないようだね」
 そう続けられて、なんだかイヤな気持ちになった。

 波長の低いモノっていうのは――もしかして、公園で襲ってきた霊の事か? じゃあ俺には、タチの悪いものしか見えねぇのかよ。
 でも確かに、俺には彼女の後ろに付いてきているだろうオカメインコは見えなかった。
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