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ロック陰陽師 作者:眞神 ユウ
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第5話 霊感

続きをお読み頂きありがとうございます!

「もう一つの……? 仕事、掛け持ちしてるんですか」
 俺は菓子に手を伸ばし、セロハンの包み紙を捻って中身を取り出す。
「そうだ。別にね、陰陽師をしている」

 おんみょうじ……? って何だっけ。少し考えていると、口の中に放り投げたチョコレートが、甘いカカオの匂いを口一杯に満たしてくれた。

「ああ、あの平安時代のですよね。妖怪とか物の怪を退治する、漫画とかに出てくる奴」
 面白い話だけど……おとぎ話とか、漫画や小説なんかの認識しかない。
「え、実在するの?」

「陰陽道そのものは明治五年に廃止されているから表立ってはいないけど、裏では受け継がれているんだよ。それが私、というわけさ」
 俺の言葉に答えながら、含み笑いをする。
 この人……薄々思ってたけど、もしかして俺の顔色を見て楽しんでんじゃないだろうな。なんで含んでんの? 裏の稼業とか、ますます漫画っぽいんだけど。

「なんだ、信用していないようだね。現に昨日助けたじゃないか」

 俺の視線の意味と、不信と捉えたようだ。
 確かに、昨日は眼の辺りにした恐怖を現実に実感している訳だし……先ほどの生霊の話だって、特徴が恐ろしいぐらいに当たっていた。
「……まさか」
 才能って……。よりによって霊感のほうかよ!
 冗談じゃない。霊関係の話なんて、ガキの頃の嫌な思い出しかねぇのに……。

「そうだよ。君は強い霊感があるんだから、陰陽道を勉強したほうがいい」

「え、何で……」

「君には才能はあるが、逆にそれが害になっている。霊感の素質はあるのに、バランスが非常に悪いからね。特に昨晩のように、メンタルが弱っている時は、不安定で危ういんだ」

 それは納得出来る部分があった。昨日、霊に襲われたばっかだし。
 黙り込んで、うつむくと胡坐あぐらをかいた自分の足が見えた。

「……昨日はともかく、見えてたのはガキの頃ですよ。話すと親も嫌がるし、怒られてからはあまり見えなくなりました。今ではめったに……見えても、気のせいかなって程度で」

 幼稚園ぐらいの時は、得体の知れないモノがよく見えていた。

 昼間、陽光が明るく照らす道端。
 主婦が、大きなスーパーの袋を自転車の前かごに入れ通り過ぎる。

 その後ろ、信号機の隣に。黒いシルエットだけになった人物が、座る、立つ、座る、立つと、まるでプログラミングされたように、繰り返し同じ動作をしている。
 制服の学生が、民家をすり抜けていく。

 そんなものが、日常的に見えていた。

 親や友達に言っても信用されなかったし、怖がられたり『気味が悪い』と、何とも言えない目つきで見られた。

 ある時、現実主義の父親からしこたま怒られた。その背後、母親は静かに俺を見ていた。得体の知れないモノを見る眼で。
 あの時の母親の顔が、未だに忘れられない。記憶の中の彼女が、小さく呟いた。

 ――怖い、この子怖いわ。

 小さな声が、何故か五歳の俺には大きく聞こえた。まるで耳元で言われたみたいに。
 その日、俺は霊が怖いものだと知った。

 今にして思うと、母親は霊が怖かったんじゃなくて、得体の知れない俺が怖かったんだろう。
 でも当時の俺には、生きている人に紛れて、たまに見える『霊』が普通だったんだ。
 みんなの普通ではなかったけど。

 普通、一般、常識。それらと比べられて、自分がとても駄目な人間に感じられた。
 それから、「霊なんて気のせいだ、幻覚だ」と思い込むようになった。

「……だから、今は……」

「怒られたか。それは辛かったね」

 どんな表情をしていいか分からず、頭を傾げ目をそらす。立花が続けた。

「霊が見える子でも、親御さんが否定派の人もいるからね。子供が親に否定されるという事は傷つくだろうが、君は君でいいんだよ。人と違うとしても、見えるのなら否定してはいけない。人それぞれなんだから」

「……そう、ですか」

 ――なんだ、別にいいんだ。

 認められたような気がして、胸の辺りの何かがじんわりと溶けた気がした。礼を言おうとしたが、気恥ずかしくて「どうも」と、消えそうな声で言ってしまった。
 冷めてきた茶を勢い良く飲み干して、取り繕うように立花に向き直る。

「あの、自分はバンドやってるんですけど……その、シフトっていうか……仕事の時間ってどうなりますか?」

 メジャーデビューはなくなったけど、俺は夢を諦めるつもりはない。
 あるロックバンドの曲を聴いて、子供の頃の俺は、すごく救われた。だからいつか――人を元気づけられるような音楽を作りたい。

「ああ、その辺は大丈夫だよ。そうだな、その日によるけど――うちの場合、一日五、六時間程度かな。日によって変わるとは思うけど。もちろん休みはちゃんとあるし、用事がある日は前もって言えば融通ゆうづうは利かせるよ。住み込みだし、月給八万円くらいかな。食事代等がタダで、陰陽師の授業料込みでね」

 授業料のせいで良く分からないが、今の自分にとっては好条件だ。俺は深々と頭を下げて、こう答えた。

「ありがとうございます……色々と助かります。働かせて下さい。宜しくお願いします!」
 ふっと気になったので聞いてみる。
「でも、なんか高額だけど良いんですか? 家政婦の給料の平均なんて知らないけど……」

「いいんだよ。住み込みの家政婦っていうのは、割と給料が高いから。それに――」
「それに?」
「君には、いずれ正式に陰陽師の仕事を手伝ってもらうよ。いわば、アシスタントみたいなものだ。ああ、もちろんバンドは続けていいよ。頑張ってね」
「えっ……」

 俺が目を丸くしていると、この男は涼しげな顔で微笑んだ。
「そういえば、君は男だからね。夫と書いて家政夫かな」
 これからよろしく。大神君。
 そんな声を聞きながら――窓から差し込める光が、やけに眩しく感じた。
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