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ロック陰陽師 作者:鑑祐樹
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第5話 生霊

「君の名前ね。生霊が言ってるんだよ」

 立花はゆっくりとした動作で、俺の右肩を指差した。

「は? いきりょう……」

 思わず逃げるように身を引いて、右肩に視線を向けた。

「昨晩から、君の後ろに二人の生霊が憑いていた」

 立花は構わずに説明を続ける。

「一人は女性で――年齢的に、君の母親だろうね。小柄で、ゆるいウェーブのかかった髪を後ろで一つに結んでいる。渋いベージュ色の、花のバレッタをしていたね」

 聞いていて、自分でも血の気が引いていくのが分かった。

「もう一人は男性で……君より二つ三つ程、年上かな。髪を茶色に染めて、今時の髪型というのかな? 印象的なのは瞳だね。強い念を感じる。服装は、黒のジャケットだったよ」

 額からスーっと熱が、体温が抜けていく。
 ひんやりとした不気味な感覚だけが、全身に浸透する。

 ――前者は間違いなく俺の母親だ。ここの所、購入したばかりの渋いベージュ花のバレッタを気に入り、毎日のように髪につけていた。

 後者の男は、電話で大喧嘩したバンドのボーカルだった。

 名前を吉村祥(よしむらしょう)と言う。

 立花が言った通り三つ年上で、「いつまでもバンドなんてやってんじゃねぇ、現実見ろよ」とかいきなりケンカ売ってきたんだ。

 ボーカルやってたくせに。

「そ、それで、何で俺の名前が分かるんだよ」

「簡単だよ。女性が『双牙、双牙』と言い、男性が『大神、大神』と、うわ言のように繰り返して言っていたのでね。くっつけると大神双牙になる訳だ」

 まさか、双牙大神な訳じゃあるまい? そう言うと、低く含み笑いをしている。

「生霊って……」

 マジかよ。この男、気味が悪りぃとは思っていたが、通り越してもはやオカルトだ。
 書道教室とか言っているが、おかしい。
 全然、書道じゃねえじゃん。

 立花は腕組みをすると、微笑みながらこう続けた。

 ――いいかい? 生霊は、わりと日常的に飛んでいるものでね。
 憎悪、嫉妬、恋慕の念、さまざまな感情がそうさせる。
 ちょっとした感情でも飛んでしまう場合があるが、そういうモノは大抵は見ているいるだけだ。そのうち消えてしまう。

 色々なケースがあるけどね。

 そうだな、例題を上げて分かりやすく言おう。例えば、殺したい程に憎い者がいたとしようか。そうすると、腹を立てているわけだから、強い想いで考えるだろう? 念じてしまう程に――。

「その想いに、魂の一部が綿菓子のように千切れて、知らぬ間に憎い相手に飛ぶ。所謂(いわゆる)呪いってやつだ」

 そう言うと、立花は立ち上がった。

 俺が口をぽかーんと開けていると、奴は涼しい顔で、熱いお茶が入った湯のみと茶菓子入れを座卓の上に置いた。

「呪い……? 何だよそれ。俺、呪われてんのかよ」

 慌てて口を開く。

 生霊とか、魂が綿菓子で千切れるとか、いきなり言われても……マンガなら分かるけど。こう現実に言われると頭が混乱する。

 だけど――。

 呪いという言葉は、どうしようもなく気になる。

「お友達の生霊は『落ち着きなさい』と諭したら、帰ってくれたよ。現実には分かってはいないが、無意識下で理解しているからね。君に対しての感情は、何となく落ち着いてくるだろう。呪っているのは、母親の方だ」

「えっ……」

 背筋に冷たいものが走る。

 ババァ、俺の事、呪ってんのかよ……。
 確かに、大喧嘩はしたよ。未だに腹が立ってる。でも、呪って来てる程というと、やるせないというか、信じたくない気持ちで一杯だった。以前から何だこいつ、て思う所もあったけど。ああ、でも何でかな。こんな時に限って、いい思い出みたいなものが、脳内で再生される。

 俺は座卓に両肘をついて、頭を抱え込んだ。

「分かりやすい性格だね、大神君は。そんな顔芸しなくても、彼女にもお帰り頂いたよ。今は安心していい。特別に、呪いも解いてあげたよ」
「今は……?」

 どういう意味だよ。

 顔芸とか言われる程、俺の顔はおかしくなってるのか。
 感情のまま表情に出ていたのかもしれないが、こんな話されて、自分の表情に気なんて使ってらんねぇよ。

(あ、コレまずい人について行ったんじゃないだろうか)

 今頃になって(ひど)く後悔した。
 後から、除霊料とか言われてカモられるんじゃないだろうな。

 大体、コイツ何者だよ。書道の先生が、どうやって呪い解くんだ。     

 何とか落ち着こう。
 俺は不審人物の入れた熱いお茶を、ゆっくりと口元に運んだ。

「君は未成年だったね。これからどうする気だい? 家に帰るのか」

「……家に……?」

 あんな話聞いたら、余計に帰りたくねぇよ。

 俺は重苦しいため息をつきながら、「いや」と短く答えた。

 どちらにせよ、早かれ遅かれ家を出て行くつもりだった。

 再婚する母にはそれが良いだろうと思ったからだ。大学受験でバイトを辞めさせられたが、一人暮らしをする為に、1年半位はちびちび貯金した。
 それでも……今はバイトもしていないし、敷金と礼金を入れると、安いアパートでも厳しいのが現実だ。

「――住み込みの仕事を探そうと思っています」

 これしかないと思い、口から言葉が出た。
 相手が大人だから、見栄を張ったのかもしれないし、俺だって考えてるんだと主張したかったのかもしれない。
 でも、これが本心だったし、本気だった。

 自分の力でどうにかしようと、俺はずっと足掻(あが)いてたんだ。あの時からずっと――。

 立花は、しばらく口に手を当て座敷の隅に目線を落とし考え込んでいたが、やがて俺の目を真っ直ぐ見据えてから、「では私の所で働くか?」と言った。

「えっ……?」

「家政婦一人居るんだけれども、お婆ちゃんでね。あまり無理はさせられないし、困っていたんだ。部屋も余っているし、何分古い家だ。ちょくちょく直してはいるが、人が住まぬば建物も部屋もすぐに駄目になってしまうから……ああ、いや」

 それから、しばらくの間を置いてから、立花はこう呟いた。
「――君には才能があるんだよ」

「えっ、俺が才能? 家政婦の? あっ、習字の?」

 どちらもやった事が無いが、今まで生きてきて才能があるなんて言われた事が無い。
 逆ならあるけど。

 まさか、立花は俺の雑巾がけに光り輝く才能を見出したのだろうか。
 立花は今までの含み笑いとは違い、明るく笑いながら――「いや、私のもう一つの仕事の方だ」と言った。
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