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ロック陰陽師 作者:眞神 ユウ
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第4話 生霊

 ――いいかい? 生霊は、わりと日常的に飛んでいるものでね。憎悪、嫉妬、恋慕の念……ちょっとした感情でも飛んでしまうんだ。大抵は見ているだけで、そのうち消えてしまうけどね。
 例えば、殺してやりたいほど憎い人間がいたとしようか。
 日常でも、考え込んでしまう。殺したい、憎い、許せない……と。
 すると、意識の一部が飛んでいくんだよ。たんぽぽの綿帽子のように、軽くね。そうして本人も知らない間に、憎い相手に飛ぶ。
「……それが、呪いと呼ばれるものだ」
 そう言うと、立花は立ち上がり、何かを取りにいった。
 俺が口をぽかんと開けていると、奴は涼しい顔で戻ってきて、熱いお茶が入った湯のみと茶菓子入れを座卓の上に置いた。

「呪い……? 何だよそれ。俺、呪われてんのかよ」
 慌てて口を開く。立花は座卓の上の菓子を一つ、指でつまみながら更に話を続ける。

「男性の方は『落ち着きなさい』と諭したら、帰ってくれたよ。元々、薄かったしね。そうだな……呪っているのは、母親の方だ」

「えっ……」
 背筋に冷たいものが走る。
「あの女、俺のこと呪ってんのかよ!」
 確かに、大喧嘩はした。未だに腹が立ってる。でも、呪ってるなんて言われたら、やるせないというか、信じたくない気持ちで一杯だった。
 こんな時に限って、子供の頃の中途半端な『良い思い出』みたいなものが、脳内で再生される。
 俺は座卓に両肘をついて、頭を抱え込んだ。

「分かりやすい性格だね、大神君は。そんな顔しなくても、彼女にもお帰り頂いたよ。今は安心していい。特別に、呪いも解いてあげたよ」
「今は……?」

 どういう意味だよ。呪い解いたって……いつ? どこで? 後から、除霊料とか言われてカモられるたらどうしよう。
 大体、書道の先生が、どうやって呪い解くんだ。 
 何とか落ち着こうと思い、俺はまだ熱いお茶を、ゆっくりと口元に運んだ。

「彼女、君が家に帰るように呪ってたよ。ああいうのがあると、外で上手く行かなくなるから」
「……どういう呪いだ……?」
「心配よりも、束縛の気持ちが強いんだよ。そうだ、君は未成年だったね。これからどうする気だい? 家に帰るのかな」
「家に? いや……帰るつもりはない、です」
 そんな話を聞いたら、余計に帰りたくねぇよ。俺は重苦しいため息をついた。

 どちらにせよ、早かれ遅かれ家を出て行くつもりだった。

 再婚する母にはそれが良いだろうと思っていたからだ。音楽活動をするためもあって、高校に通いながら貯金をしてた。それでも、今はバイトもしていないし、敷金と礼金を入れると、安いアパートでも厳しいのが現実だ。
 メジャーデビューが決まっていたから、こんな風になるなんて思っていなかったけど。

「――住み込みの仕事でも探そうかと思っています」

 相手が大人だから、見栄を張ったのかもしれないし、俺だって考えてるんだと主張したかったのかもしれない。
 でも、これが本心だったし、本気だった。
 自分の力でどうにかしようと、俺はずっと足掻いてたんだ。あの時からずっと――。

 立花は、しばらく口に手を当て、座敷の隅に目線を落とし考え込んでいた。
 やがて俺の目を真っ直ぐ見据えてから、「では、私の所で働くか?」と言った。

「えっ……?」

「家政婦は一人居るんだけど、お婆ちゃんでね。あまり無理はさせられないし、困っていたんだ。部屋も余っているし、何分古い家だからね。ちょくちょく直してはいるが、人が住まぬば建物も部屋もすぐに駄目になってしまうから……ああ、いや」

 それから、しばらくの間を置いてから、立花はこう呟いた。
「――君には才能があるんだよ」

「えっ、才能? 家政婦の? あっ、習字の?」

 こんな手放しで才能があるなんて言われた事が無い。
 逆ならあるけど。
 まさか、立花は俺の雑巾がけに光り輝く才能を見出したのだろうか。
 立花は今までの含み笑いとは違い、明るく笑いながら――「いや、私のもう一つの仕事の方だ」と言った。
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