挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ロック陰陽師 作者:鑑祐樹
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

4/26

第4話 古民家

 午後の日差しがガラス障子をすり抜け、年月を経た長い廊下を眩しく反射している。

 細長い網目状の影と、透き通る眩い光。
 つい、しゃがみ込んで見つめてしまう。
 背中に海人(ウミンチュ)とプリントされた、借り物のパーカーと短パンに身を包み――手には雑巾を握りしめて。

 結局――昨晩は、あの男にのこのこと付いて行った。

 改めて、あの外套の男は変わり者だと思った。

 ……この家に着くまで、徒歩で40分から一時間程だったかな。
 その間、色々と会話した。

「君は何で家出したのか」

「バンドでもやってるのか」

 そんなことを聞かれ、簡潔に答えた気がする。

 でも、おかしいんだ。それなりに会話はしたのに、あの男は名乗らなかった。
 普通は、初めに名乗ったり、聞かれたりたりするもんだろ。

 まぁ、俺から聞けば良かっただけなんだけど。
 タイミングをはずしたというか、昨日は色々ありすぎて……錆付(さびつ)いた歯車みてぇに、思考が回転しなかった。何より、眠くてぶっ倒れそうだったからなぁ。

 家に着いた時は、闇に飲まれていた月も、雲から背中を押され、淡い光を放ちながら顔を出していた。月明かりに照らされ、ぼんやりと外装が見えたのを覚えている。

 独特の雰囲気を持った、古民家――。

 日本家屋に、洋館が二棟建ちになっていた。和モダンとか和洋折衷とか言うのかもしれないが、和と洋の別の建物がくっついて一体になっている。家は、闇夜に染められながらも、家主の帰りを明かりを一つ二つと灯して待っていた。
 何も、格好だけで飽き足らず、自宅まで明治時代にしなくてもいいじゃないか。
 まぁ、一夜の宿を借りられた。お陰で俺も福子もようやく、腰を据えて休むことが出来た訳なんだけれど。

「夜中に見ると、雰囲気のある家って怖えんだな……」

 独り言をぽつりと呟きながら、雑巾を掴んだ両手に力を込めた。そのまま、勢い良く廊下を蹴りあげる。まさか、卒業した後も雑巾がけをするとは思わなかった。

 あの靄の手から助けて貰った恩もあるし、泊めてもらったんだ。
「ご飯を食べたら、雑巾がけを頼むよ」
 そう言われ、断れなかった。

 廊下の角までたどり着くと、洋風の小さな木製のアンティークテーブルがあった。
 花瓶代わりの流木が乗せられている。中には不規則に伸びる枝や紫・白・黄色の花や蕾が青々とした緑の葉を携え咲き誇らせていた。

 すげぇ、テーブルから枝が踊りだしてんじゃん。

 花の綺麗さに眺め続けていると、背後から落ち着いた声がした。

「大神君、ご苦労さま。話があるからおいで」

「あ……どうも」

 雑巾をバケツの淵に掛けると、男の後に続き、廊下を歩く。

「……あれ? 俺の名前知ってるんですか?」

「知っているよ、大神双牙(おおがみそうが)君だろ」

「ああ、俺ボケてんだ。昨日、名乗ってたんすね」

「いいや、君は名乗ってないよ」
「えっ? ――じゃ、何で俺の名前を知ってんだよ」

 言ってもいないのに、自分の名を知っているなんて気味が悪りぃぞ。

 男が、足を止め障子を開けた。
 昨晩と同じ花の香りが艶やかに匂いたつ。見れば、座敷は12畳程だろうか。床の間に白と紅色の花が、彩り鮮やかに飾られている。
 沈丁花(じんちょうげ)だ――。

「まぁ、座りなさい。ちゃんと説明する」

 男はそう言うと、美しい木目の座卓の前に腰を下ろした。

 枯草色(かれくさいろ)の着物を着流してる。
 年の頃は二十代後半か、三十代前半に見える。

 端整な顔立ちだが血色が悪く、青ざめている。
 巡りが悪いんじゃないかと思ったが、髪の黒さに映えて絶妙なバランスを保っている。何とも独特の雰囲気があり、男の周りの空気が異質に感じられた。

「挨拶が遅くなったが、立花旭(たちばなあさひ)だ。立花書道教室の講師をしている」

「どうも、知ってる大神双牙です」

 あ、やべ。
 知ってるみたいですが――って言おうとしたら、焦って変な事を言った。

 何で俺の名前を知っていたのか、気が気じゃないんだよ。
 そんな俺の心情を悟ったのか、立花が口に薄っすらと微笑みを浮かべた。
cont_access.php?citi_cont_id=276060669&s
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ