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ロック陰陽師 作者:鑑祐樹
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第3話 外套の男

 その男はどうやら手に懐中電灯を持ち、俺と福子を照らしているようだ。

 が――それだけしか分からなかった。
 眩しさが、他の情報の流出を許さなかったからだ。

 咄嗟(とっさ)(てのひら)で光を(さえぎ)ると、それに気が付いたのか、光の筋が左に反れた。眼を背ける程の眩しさから開放され、男の姿が視界に入る。

 停止した風が息を吹き返し、動き出す。

 ふわりと風に舞い爽やかで切ない花の香りが鼻腔(びこう)をかすめた。
 おいおい、嘘だろ。勘弁してくれ――。
 心臓が勢い良く跳ねる。夜色に紛れているが、はっきりと分かった。

 着物を着ている。

 あれは、何て言うんだ。着物用のコート?外套(がいとう)だっけか? まるで、明治や大正時代に生きていた過去の人間に思えた。

 さっきの今で着物の男なんて、(こえ)えよ。
 今度は幽霊が話しかけてきやがった。
 腹も胸も指の先までもが、どくどくと絶え間なく鼓動の音を伝える。
 まるで、全身が心臓になったみたいだ。俺の心情とは裏腹に、明治生まれの幽霊は落ち着いた声で言う。

「君ね、丑三つ時にこんな処で何をやってるんだい? しかも金魚持って。早く家に帰りなさい」

「う、丑三つ時かよ……いや、帰りたくないし帰る所ねぇんで」

 目線を男の足元にやりながら、何とか答えた。
 闇色に染まった草履と足袋(かな)が、しっかりと地面に着いてる。

(良かった。幽霊じゃねぇ。足あるよ)

目前にいる生きている人間だと自覚して安堵した。やっとこさ、生きた心地がする。

「困ったね。家出かい? せめて、コンビニでも時間を潰せば良かったじゃないか」

「初めはコンビニの駐車場に居ましたよ、でも俺の身なりだとオバちゃんとか怖がるし、なんか悪りぃから」

 そう言って俺は、染めたばかりのシルバーアッシュの髪をかきわけた。

「くくくくくくく」

 男は低く、くぐもった声で笑う。

 冷え切った芝生の温度で、尻がじんじんと痛んできたので、慌てて立ち上がる。
 それに合わせるように、懐中電灯から生み出された光の筋が、俺の身体を下から上に当たる。
 首に差し掛かったとき、光が動きを止めた。

「ああ、すまない……まだ付いてるな。体調を崩したくないなら、動かない事をお勧めするよ」

 (おもむろ)に、俺の首に男の指先が触れた。
 逃げようと首を反らしたが、奴の左手が、掌がそれを許さなかった。
 俺の首は包み込まれた――追い詰めてくるその指に。

 直後、男は指先に力を入れて、何かを引き抜くように(つま)み取った。
 また、首を絞められると思った。一体、この男は何をしたんだ。

「な、なんだよ、何すんだ!」
瘴気(しょうき)を掴み取っただけだ」

 静寂の公園に、穏やかな声が響く。

「しょ、瘴気って何だよ……」
 俺の方は、全くもって穏やかじゃなかった。
 今日、二回も知らない奴に首を掴まれ、しかも一人は生きてさえいない。
 何が何だかわからず、黙り込む俺に、男は追い討ちをかけてきた。

「ところで、君は先ほど霊に襲われていただろ? 何か、見えたかい?」

 男の顔も表情は暗闇に染まっていてよく見えない。ただ、この男は確実に見えてるし理解してる。

「……(もや)の手が見えました。その中にすげぇ痩せている、棒みてぇなのがいて、首を絞められて――」

 ――この人が、あの忌まわしい靄の手から俺の事を助けてくれたんだろう。

 だったら、お礼を言おう。そう思い顔を上げたら「いいね、中々良い」なんて、嬉しそうに言いやがった。

(こっちは襲われて、首まで絞められて、マジで死ぬかと思ったのに――……!)

 とっさに怒りが溢れ出してきた。文句を言おうと墨色に染まる男を睨み付けた。

「家へおいで」
「は?」

「いく所が無いのだろう? 君も金魚も」

 時計の針が、音もなく止まったようだった。

 深夜の公園の静寂のせいなのか。違う――男の言葉がそう感じさせたんだ。

 実際に、時間は動いている。
 ひんやりと頬を撫でる風。
 男のシルエットが動く。手を差し伸べている。
 俺には分からない、あの――爽やかで、何とも言えない香りを漂わして。
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