挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ロック陰陽師 作者:眞神 ユウ
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

3/21

第3話 古民家

 午後の日差しがガラス障子をすり抜け、年月を経た長い廊下を眩しく反射している。
 細長い網目状の影と、透き通る眩い光。
 つい、しゃがみ込んで見つめてしまう。
 胸元に『鮫』とプリントされた、借り物のジャージに身を包み、手には雑巾を握りしめて。
 結局、昨晩はあの男に付いて行った。

 あの男は『立花旭たちばなあさひ』と名乗っていた。

 ……この家に着くまで、徒歩で四十分から一時間程だったかな。
 その間、色々と会話した。「君は何で家出したのか」とか、「バンドでもやってるのか」とか、そんなことを聞かれ、簡潔に答えた気がする。闇に飲まれていた月も、雲から背中を押され、淡い光を放ちながら顔を出していた。月明かりに照らされ、ぼんやりと外装が見えたのを覚えている。

 独特の雰囲気を持った、古民家――。

 日本家屋に、洋館が二棟建ちになっている。和モダンとか和洋折衷とか言うのかもしれないが、和と洋の別の建物がくっついて一体になっていた。家は、闇夜に染められながらも、家主の帰りを明かりを一つ二つと灯して待っていた。
 それ以外は、あまり覚えていない。色々ありすぎて……錆付さびついた歯車みたいに、思考が回転しなかった。何より、眠くてぶっ倒れそうだった。

 一夜の宿を借りられたお陰で、俺も福子もようやく腰を据えて休むことが出来た訳なんだけど。

「夜中に見ると、雰囲気のある家って怖えんだな……」

 立花旭という男は、格好だけでは飽き足らず、自宅までも明治時代だ。

 独り言を呟きながら、雑巾を掴んだ両手に力を込めた。そのまま、勢い良く廊下を蹴りあげる。まさか、卒業した後も雑巾がけをするとは思わなかった。
 あの手から助けて貰った恩もあるし、泊めてもらったんだ。「ご飯を食べたら、雑巾がけを頼むよ」――と言われ、断れなかった。

 廊下の角までたどり着くと、洋風の小さな木製のアンティークテーブルがあった。
 花瓶代わりの流木が乗せられている。中には不規則に伸びる枝や紫・白・黄色の花や蕾が青々とした緑の葉を携え咲き誇らせていた。
「……すげぇ、テーブルから枝が踊りだしてんじゃん」

 花の綺麗さに眺め続けていると、背後から落ち着いた声がした。立花だ。
大神おおがみ君、ご苦労さま。話があるからおいで」
「あ……どうも」
 雑巾をバケツの淵に掛けると、男の後に続き、廊下を歩く。
「そうがって言うのは、どういう漢字なんだい?」
「ああ――双子のふたに、牙で、双牙です。良く訊かれるんですよね……」
 そこまで答えて、違和感を覚える。
「あれ、下の名前まで言いましたっけ?」
 俺の問いに答える代りに、男が足を止め障子を開けた。

 昨晩と同じ花の香りが艶やかに匂いたつ。見れば、座敷は十二畳程だろうか。床の間に白と紅色の花が、彩り鮮やかに飾られている。
 沈丁花じんちょうげだ――。
「まぁ、座りなさい」
 男はそう言うと、美しい木目の座卓の前に腰を下ろした。枯草色の着物を着流してる。年の頃は二十代半ばくらいに見える。
 端整な顔立ちだが顔色が悪く、青ざめている。
 血の巡りが悪いんじゃないかと思ったが、髪の黒さと相まって絶妙なバランスを保っていた。和装が映えていて落ち着いた大人の男、といった風情だ。

「改めて、自己紹介をするよ。立花旭だ。立花書道教室の講師をしている」

「どうも、知ってる大神双牙です」
 あ、やべ。知ってるみたいですが――って言おうとしたら、変な事を言った。
 そんな俺の様子を見て、立花がうっすらと微笑みを浮かべた。
「君ね、肩に霊が憑いてるよ」
 立花はゆっくりとした動作で、俺の右肩を指差した。

「は? ……霊!」
 その言葉に、逃げるように身を引いて、右肩に視線を向けた。
「昨晩から、君の後ろに二人の生霊が憑いて来ていた」
 立花は構わずに説明を続ける。
「一人は女性。年齢は、君の母親くらいかな。小柄で、ゆるいウェーブのかかった髪を後ろで一つに結んでいる。渋いベージュ色の、花のバレッタをしていたね」
 聞いていて、自分でも血の気が引いていくのが分かった。
「もう一人は男性で……気配が薄いんだけど。君より二つ三つ程、年上かな。髪を茶色に染めて、今時の髪型というのかな? 服装は、黒のジャケットだったよ」

 額からスーっと熱が、体温が抜けていく。
 ひんやりとした感覚だけが、全身に浸透する。

 ――女の方は、間違いなく俺の母親だ。ここの所、購入したばかりの渋いベージュ花のバレッタを気に入って、毎日のように髪につけていた。
 男の方は……多分ボーカルのことだ。
 名前を吉村祥よしむらしょうと言う。立花が言った通り三つ年上で、いつも黒いジャケットを着ていた。

「そ、それで……何で俺の名前が分かるんだよ……?」

「ああ、それはね。二人とも『そうが』とか『そうがくん』とか、繰り返して言っていたんだ。だから、下の名前だろうと思ってね」
 そう言うと、低く含み笑いをしている。何で笑うんだよ。

「霊って……」
「死んではないよ、生霊っていう奴さ。強い念を飛ばしているって言えば分かるかな?」
 ――君は霊感があるんだしね、と立花は続けた。

 なんだこの男。書道教室の講師とか言ってるけど、おかしい。霊媒師かよ。
 立花は腕組みをすると、微笑みながらこう続けた。
cont_access.php?citi_cont_id=276060669&s
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ