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ロック陰陽師 作者:鑑祐樹
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第22話 眠れない夜

お久しぶりです。
お読みいただきありがとうございます!
今回は少し短めのお話になります。
よろしくお願いします。
 暗闇に支配されている間、耳に入り込む音だけが世界を唯一確認できる手段だ。

薄くかけた暖房の規則正しい機械音、水槽から聞こえる泡の音、柱時計の振り子が時に合わせ踊る音。時折聞こえる外からの寒々しくも強い風音。
 ベッドに入ってから、もう何度瞳を閉じ、開けたか分からない。
 サイドテーブルの上にあったリモコンを手探りで探し、照明をつける。

「落ちつかねぇなぁ」
 山城とロミのことでもうクタクタなのに、ちっとも眠れやしねぇ。
 あの後。立花がおごってくれたから、空腹も気持ちも多少回復できた。帰宅してから、部屋を案内してもらい、ようやく心身ともに休めると思ったのに――。

 頭上の小さなシャンデリアをにらみつけ、改めて室内を見回した。広さは十二畳位だろうか、赤みを帯びた滑らかな木製のアンティーク家具で統一されている。いかにも高級志向の女が住んでいた、という印象だ。カーテンやカーペットは全て鮮やかな花柄で、もちろん俺が寝ているベッドもそうである。刺繍がほどこされており、プリント柄ではない。高そうだ。屋敷の外観通りというか、まるで中世風の高級ホテルにいるようだ。

 片隅に置かれている俺の荷物。ベースやアンプ、スポーツバックが見事にアンマッチしていて、どこか寂しげに感じた。

 この部屋は、俺の新しい住まいだ。

 立花の姉が住んでいた部屋らしい。
 半年ほど前に出て行ったばかりと言っていたが、まるで夜逃げしたかのように生活感が残っている。家具は何も持っていかなかったのだろうか。
 高そうなのに。

 どうも自分には世界が違っていて落ち着かない。今日は寒いからと言って、出て行く前につけていった暖房さえ電気代が気になって仕方ない始末だ。

 ゴージャスなベッドから逃げるように立ち上がり、キャビネットの上に置かれている小さな水槽に向かう。
「福子、良かったな」

 金魚一匹には十分な豪邸だ。俺が本日、山城事件に巻き込まれている間に、飛龍フェイロンと雪華が閉店間際のホームセンターで買ってきてくれたものだ。
 金魚――と、彼らに言い残しておいて良かった。

 大きさは30センチ程度、値段は2980円の初心者安全キット。
 帰宅したらすでに設置してあった。飛龍フェイロンにお金を払うと言ったら、いらないと言われた。
「後でお金をおろしてきて、返さないとな……」

 環境が変わっても福子は元気そうで安心した。広い水槽でかえって寂しそうに見える。
今度、何匹か買ってこようかな。

 福子の様子を確認した後、そわそわとした目線を左に向ける。そこに、俺の気がかりのモノがあったからだ。部屋のやや左に位置する場所に、それは大きな白い布が被せられていた。
 部屋の案内をしてくれた立花が、去り際に「ああ、その大きい布は気にしないで良いよ。色々変なモノがあるかもしれないけど、姉の私物だから。後で整理するよ」と言っていた。
 詳しい説明はなかったが「見てはいけませんよ」と言われているようで、逆に気味が悪い。変なものがありそうだ。
「まぁ、これも家具だろうけど」
 こんなもの怖がるなんて、俺もまだまだガキなんだなぁ。なんて思いながら、布を思いっきり引いた。
「うわっ……」
 口から、声が漏れた。

 そこにあったのは、いかにも高そうなアンティークの化粧台だった。

 大きい。彫刻や飾りのせいか、まるで祭壇のようにも見える。
 恐ろしいのは――にぶく光る鏡に、沢山の札がはってあったことだ。
 ロミの時にも、立花から札を貰ったが、その時は一枚だけだった。
 そして今、目前に貼られている札とは明らかに違う。色も赤墨で書かれており見た目が目立つ。何の文字なんだろうか? まるっきり読めない。模様にも見える。札には小さな四角がたくさん書かれていた。もしかしたら漢字の「くち」なのかもしれない。

 その場で足が固まってしまい、ただ化粧台を眺めた。

 鈍い回転しか出来なくなった俺の頭が、布を取ってしまった事に後悔しはじめた頃――視線を感じた。
 振り返り、危険を察するように部屋を見回す。

 ゆっくり。
 見逃さないように――。
 ゆっくりと。
 視線は高い位置で、止まる。
「勘弁してくれ……」
 俺は、喉の奥から声を絞り出した。

 西洋箪笥の上に、たくさんの光る目があったからだ。

 良く見たら、ガラスだ。人形の目。長いまつげの下、見開かれた青い瞳が、ありえないことなのに光って見えた。生き物みたいに。
 人形は、八体あった。
 左端にある人形は、やや大振りのアンティークドール。フランス人形らしい金色の髪が、やや湿気を帯びて乱れ、はねあがっている。

 それが右に移動するにつれ、四体目から漫画やアニメのキャラクターらしい男の人形……フィギュア? になった。スポーツ選手のような格好をしている。
 最後の人形――右端の人形に至っては、頭の一部の皮膚部分がむき出しになっており、髪が半分だけ生えている。良く見ると、手縫いの人形のようだった。やはり男のキャラクターで、大きな瞳に太めの眉、むっとしたような口が刺繍されている。スーツ姿……いや、白衣だ。腕が中途半端な位置でなくなっている。まさか……もいだのか?

 この部屋の主、手縫いの人形の腕をもぎとっている!

 モダン部屋は急にホラーになり、暖かいはずなのに、寒気がした。
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