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ロック陰陽師 作者:眞神 ユウ
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第20話 バンドメンバー

※物語の前半部分(7話まで)を、
大幅に修正しました。
お読み下さった方々、ありがとうございました!
よろしくお願いします。
「あいつ絶対に許さないんだから!」

 ジュースの入った紙コップをテーブルに力強く置きながら、目の前で女が切れている。
 天気が良く、暖かい午後だった。バーガーショップの店内には明るいポップスが流れていて、平日のせいか客は少ない。
「双牙も連絡つかなくなっちゃって、ホントどーしようかと思ったわ」
 ハンバーガーの一番大きなサイズをかじりながら、彼女はため息をつく。 

「本当にな。心配したぞ、双牙」
 隣に座る大柄の男が、穏やかにそう言った。

「ごめん………」
 ポテトをつまみながら、俺は小さく謝った。夕べ、バンドメンバーに連絡をしたら、今日会おうという話になったのだ。
 結局俺は、二日間ほど音信不通になっていた。バンド内でモメた直後だったせいか、いらない心配をかけてしまったらしい。

「ホントよ! 自殺でもしたらどーしようかと思ったんだからね!」
 バンドの仲間――ギターの女、夏目加奈なつめかなは、とっくにハンバーガーを平らげて、オレンジジュースを一気に飲みほした。
「しねぇよ……加奈さん、大げさっすよ」
 俺は、さっきから頭の近くに飛んでいる小虫を手で払いながら、返事をした。物騒な会話に聞こえるのか、店内にいるサラリーマン風の男がこちらを見ている。

「……家出して、住み込みで働くなんてすごいじゃないか。バンドは続けられるんだろう?」
 ギターの隣に座る、彼女の恋人――ドラムの男がブラックコーヒーを飲みながら、そう話を振ってきた。名を藤堂清虎とうどうたかとらといい、俺の先輩に当たる。トラを連想させるのは名前のせいか、それとも強面の顔立ちや、目つきのせいだろうか。初対面の人によく怖がられているが、見た目に反しておっとりしている。

「ああ、うん。シフト、融通利かせてくれるって」
 大人びた声でそう尋ねられ、俺は小さく返事をした。ポテトの塩気が利きすぎている気がするが、美味しく感じる。
「あたし、絶対に解散なんてしないんだからね!」
 今日は暖かいとはいえ、まだ三月だ。それなのに、ジャケットの下はパンク風な七分袖である。店内は寒くないけど、なんでこの人こんな元気なんだろ。
 やわらかくウェーブがかかった栗色の髪は、自然と肌に馴染む。それが、彼女が動くたびに振り乱れる。顔だけ見ると知的でキレイなお姉さんなんだけどなぁ。

「加奈。落ち着けよ。まずは新しいボーカルを見つけないと」
 彼の言葉に、加奈さんが反応する。
「双牙、聞いてよ。清虎ってば、ボーカル見つかんないと解散かも……とか言ってんのよ」
 彼の真似をしているのか、口を尖らせて低い声を出す。そんな彼女の様子を気にも留めないで、清虎先輩はこう続ける。
「メジャーデビューできないんだったら、就職しないと駄目だろう。お金溜めたいし……その点、双牙はしっかりしてるよな。見直したよ」
 笑顔でそう言ってくれたけど、実際には親とケンカして家出して、公園で霊に襲われていたところを陰陽師に助けられただけだ。
 けれど、そんなこと説明できない。

 加奈さんは、隣の彼氏を睨み付けて憤慨している。
「なんで吉村が抜けただけで空中分解するのよ。みんなそれぞれファンからプレゼントもらったりしてたじゃん」
 ボーカルの苗字を呼び捨てにしているが、元々そうだった。彼女は言葉が荒い。

「プレゼント……」
 そういえば、女の子の客から真夏に手編みのマフラーをもらったことを思い出す。あれは何だったんだろうか。

「どっちにしろ、ボーカルいないと始まらないだろ」
 清虎先輩の声に、現実に戻される。
「ボーカルか……そんなすぐ見つかるかな。やっぱ、吉村先輩捕まんないんすか?」
「自宅にも行ったし、連絡つかないんだよ。ひょっとしたら、スマホ破棄してるかもしれない」
「え! そこまで?」
 さすがに驚いた。
「吉村の奴、何か悪いことでもしたんじゃないの?」
 今度はアップルパイをかじりながら、加奈さんがふて腐れている。よく食うなぁ。
「いいよ、あんな奴。あたしたちだけでプロ目指すんだから。あたし、雑誌とかに募集かけてみるから、清虎と双牙もボーカル探してみてよ」
「俺は、大学の知り合いに声かけてみるよ」
「俺も……」

 とはいうものの、俺の方は音楽やってる友達っていないんだよな。顔見知りくらいだし、そもそも清虎先輩のバンドに入れてもらったから、彼の方が知り合い多いし。
 でも、そんなこと言ってないで探してみるか。
 バンドを始めた頃は、自分たちでチケットを買い取って、知り合いに配ったりしていた。それをようやく売り上げを出せるようになって、人気も出てきたんだ。
 やっぱり解散したくない。

 考えていると、加奈さんの頭に小虫が止まっていた。立ち上がって、軽く手で払うと、彼女は「どうしたの?」と不思議そうな顔をした。
「いや、虫が」
「こんな時期に、店の中にいるなんて珍しいな」
 清虎先輩が、きょろきょろと辺りを見回したが、もう虫の姿は確認できなかった。


 街路樹を揺らす、冷たい風に首をすくめる。朝夕の温度差で風邪を引きそうだ。電車で三駅移動して、まだ慣れない道を歩いていくと、今は俺の自宅兼職場になった、立花家が見えて来た。

 玄関に、初老の女性の姿があった。皺まじりの手に塵取りとほうきを持っている。白髪混じりの髪は、白と灰色が混ざり合い細やかな絹糸のようだった。割烹着姿がよく似合う。
「あら、お帰りなさい。大神さん」
「あっ……初さん。ただいま、帰りました」
 俺が反射的に頭を下げると、彼女も同じようにお辞儀をした。
「寒かったでしょう、お疲れ様。どうぞ」
 上品なたたずまいで扉を開き、家へ入るように促してくる。

「あの、俺が庭掃除やりますよ」
「まだ大神さんの時間じゃないでしょう。気にしないで、中に入っててね。あとでお茶も淹れてあげるからね」
「いやぁ……」
 こんな優しい家政婦と話したことがないので、戸惑ってしまう。初さんは、立花家の家政婦になってから、ずいぶん経つらしい。一応俺の先輩になるが、陰陽師ではない。一般の人だよ、と立花さんが言っていた。
 俺も彼女のように、皆に茶を振舞わなくてはいけないのだろうか。彼女の仕事ぶりを見て、参考にすればいいのだろうけど。

「……お茶の淹れ方、教えてもらって、いいっスか?」
 俺がそう言うと、初さんは一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに笑って「難しくないから大丈夫よ」と言ってくれた。
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