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ロック陰陽師 作者:鑑祐樹
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第20話 指輪

「山城さん、大神君。下がっていて下さい」

 立花はそう言うと、椅子に座ってパソコンに向かった。
 デスクトップの画面は、急に明るくなったり暗くなったり、点滅を繰り返している。
「……メールボックスは、インターネットを開いて下さい。すぐに分かると思います」
 山城が苦しそうに説明する。
「これですね」
 立花が、マウスをクリックする。

 その時、一瞬だけ――液晶画面に女の顔面が映って見えた。落ちくぼんだ目に、開いた口。何故か白黒だった。
 俺は息を呑んだが、二人は反応がなかった。見えなかったのだろうか?
 直後、パソコンがフリーズした。

「ちっ」
 小さく舌打ちすると、立花は指を動かしながら何事か呟きはじめた。

「……青龍、白虎、朱雀、玄武、空陳くうちん南寿なんじゅ、北斗、三体、玉女ぎょくにょ……」

 少しの時間をおいてから、パソコンは大人しくなった。それを確認すると、立花はこう続ける。

「電化製品は、やられやすい。霊障で電磁波が乱れるし――憑くんです。山城さん、あなたのパソコンに彼女は住んでいたんですよ」
 話しながらも、時折指を動かしている。 

「あなたが望んでもスマホにメールをよこさなかったのは、生前、ロミとやりとりしていたのがパソコンのネットゲームだったからでしょう。彼女はインターネット回線を通して、あなたの所へ来ていたんです」
 立花の手元からマウス音が聞こえる。

 生前という言葉に、俺も山城も反応してしまう。特に山城は、思うところがあるのだろう、一度だけ首を振った。
 確か、ロミは2、3ヶ月前からばったり来なくなったと言っていた。

 じゃあ、その時から――彼女は幽霊になっていたのだろうか。


「ロミという女性はパソコンに憑いていて住んでいる。家に入る前に、赤い糸が消えたのも、一時的に撤退して、私達を監視するためです」

 そこまで言うと、パソコンからひときわ大きな音がした。
 画面には、メールボックスが映っている。しかし、そこにある文章は、全て記号の羅列だった。一見すると、バグが起きているように見えるが――。

「これが、彼女からのメールですね」

 立花は、呪いのメールを消す作業を始めた。

 話をしている間、山城の指はさらに悪化している。苦しそうに呻いているので心配して覗き込むと、指におかしな模様が浮かんでいるのが見えた。

「何すか、それ――」

 ローマ字で『ROMI』と、浮かび上がっていた。まるで、刻印のようだ。
 怨毒のような、瘴気のようなモノを放っている。やばい。何なんだ一体。

「これ……ゲームの中で、お互いに送りあった結婚指輪……」
「ええ……」
「お互いの名前が彫ってあるっていう設定で……」
 もうどうすれば良いのか分からなくなり、立花の方を見ると、彼は大きな声でこう告げた。
「山城さん、未練を捨てて、自分の強い意志で――『縁を切る』と宣言して下さい」

 その時。
 蛍光灯が弾けたような、大きな音がした。
 見ると、茶黒の塊が――いつの間にか山城の背後に立っていた。

「ロミ!」

 俺はつい大声でそいつの名前を呼んでしまった。奴は一瞬こちらを見たが、すぐに山城に視線を戻す。
「さっき渡したお札が効いている内は近づけません。早く、彼女と縁を切るよう宣言して下さい」

「わっ……私は――彼女と、縁を切ります!」

 立花の声に応えるように、山城は大きな声でそう叫んだ。
 しかし、目前のロミは消えなかった。俺はとっさに――。

「離婚しろ!」
 そう叫んだ。

「で、できません! ログインしないといけないし、お互いの合意がないと離婚は出来ないシステムなんです」
「じゃあもうパソコンぶっ壊せよ!」
「そうだね、そうしよう」
 静かな声。反射的にそちらを向くと、立花はパソコンの電源を全部引っこ抜いていた。

 液晶画面は真っ暗になっていたが、やはり一瞬だけ女の顔が見えた。そして、一言こう叫んだ。

『……マンデリン君……』

 甲高い声と、重たく低い声が折り重なった、恐ろしい声だった。でも。

「まんでりん君って誰だ……?」

「私のキャラクター名です……コーヒー豆の名前なんですが」
 山城は、自分の手首を抑えながら、俺の疑問に答える。

「結局、お互いの本名なんて、知らないままでしたし……」

 そう呟いた彼の指からは、あの指輪の跡が消えていた。あんなに滴っていた血も、痕さえ残っていなかった。
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