挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ロック陰陽師 作者:鑑祐樹
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

2/26

第2話 靄の手

続きをお読み頂き、ありがとうございます。
 声が出ねぇ。
 高音の耳鳴りが、ヤバイ、ヤバイと警報を鳴らす。
 今までの寒気とは違う何かが、全身を包み込もうとして来る。冷気が地を這い、じわじわと身体をよじ登って来る。
 ベースを抱えたまま、写真の中にいるように微動(びどう)だに出来ない。
 どうにか、動こうと身体に精一杯の力を込めたが、指一本さえも動かない。

 金縛りか――。

 ただ恐ろしい無音だけがあった。
 それを破るように、叩きつけるような荒々しい水音が、足音から響く。福子が暴れてる! 福子になんかあったんだ。

 確認したくても出来ない。動けない。

 福子を連れて逃げなければ。助けなきゃ。助けなきゃ、福子が――。

 辺りを響かせた水音が消え、ベンチに投げていた、死んだはずの携帯が。

 一瞬だけ、今まで聞いた事がない音と共に、強い光を出した。

 あれは悲鳴だ。高くもあり、低くもある。
 携帯の機械音は、甲高い断末魔(だんまつま)にも聞こえた。

(やべぇ、やべぇ……来る)

 いや、もう来てる。俺は、『これ』を知ってる。

 忘れたい記憶が、古びた箪笥(たんす)の引き出しから飛び出してきそうだった。

 ――思い出したくない。もう、治ったんだ。

 充電切(じゅうでんぎ)れの携帯は今は元の姿に戻っている。
 気味の悪い(もや)を飲み込んだ、黒墨の闇の中に紛れて――『そいつ』は、もう立ってたんだ。

 無音で俺の背後に。

 首筋に、何かが(まと)わり付いてくる。
 未だに動かない視界は、真っ暗な上に動かせない。
 それなのに、それが何なのかが分かった。

(手が……――!)

 黒い(もや)で出来た手が、俺の首にじっとりと(から)みつく。

 自分の首なんて、絶対に見えるはずなんてないのに。
 まるで別カメラで写したように、黒い手が。自分の首を絞めているのが、自分の視界と重なって見えた。

 気持ち悪りぃ。吐き気がする。

 (もや)の指に触れられた首に、ぞくぞくと何かが這いずり回る。
 それは(うごめ)いてた。生き物みたいに。

 その手は、異常に(やせ)せていた。
 骨とか筋が浮き出てて、まさに病人の手だ。闇に染まって見えないが、たぶん身体も同じだ。生気もなく、やはり微かに(うごめ)いてる。
 キーン……と、高音の耳鳴りが、けたたましく響く。
 金属音のようなソレは、先ほど聞いた耳鳴りとは比べようのない大きさだった。
 苦しい。首を絞められてる。息ができない。
 指に力が入る。強烈な悪意を感じた。首に食いこむ。

(怖ぇ……俺、まだ死にたくねぇ……!)

 こんな、命の危険に(さら)されても、眼を閉じる事も、身動きする事も出来ない。

 せめて、(あらが)いてぇ。

 そう思った瞬間、何かが――白く淡い光を放った。

「……?」

 早くて定かではなかったが、それは細長い長方形で、短冊のように見えた。

 その短冊のようなものが、俺の首に――いや、(もや)がかった手に、吸い込まれていく。

 ――同時に、身体の自由が戻った。

 あの(おぞ)ましい靄の手は消えうせていた。

 まるで悪夢のようだった。
 ぷつりと緊張の糸が解け全身から力が抜けていく。ベンチから半ばずり落ちた状態で、口を金魚のように、口をぱくぱくさせた。

「手、手が、もやの……」

 ようやく押し出した声は上擦(うわず)っていた。
 自分でも何を言ってるか分からなかった。
 理解してないんだ、頭が。

 力を失った両腕からベースが滑り落ち、闇色に染まった芝生に落ちた。
 その音と衝撃で、完全に目が覚めた。

「福子! 大丈夫か、福子!」

 ベンチから跳ね上がるように飛び降り、狭くなった福子の仮宿――虫かごを、を両手に引き寄せた。プラスチックの虫かごは、転倒する事無く(かな)はしっかりと閉められている。

 恐る恐る中を覗き込むと、透き通る水と、赤と白の模様を浮き上がらせた金魚が見えた。
 眩い光に照らされて、激しく動き回っていた。

「うっ……!」

 闇の中、唐突に眩い光が現れた。

 吃驚(びっくり)して、声を上げると共に、冷え切った芝生に尻餅をついてしまった。
 両手で抱え込んだ虫かごが、ぴちゃりと音を立て水面が揺れる。

「何だ、無事そうで良かったじゃないか」

 目の前に、男が立っていた。

 物静かな落ち着いた声は、深夜の公園に低く浸透(しんとう)するように響き渡った。
cont_access.php?citi_cont_id=276060669&s
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ