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ロック陰陽師 作者:眞神 ユウ
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第2話 外套の男

続きをお読み頂き、ありがとうございます。
※2017/10/9に、大幅に内容を修正しました。
「……!?」
 ――急に、身体の自由が戻った。

 細長い長方形で、短冊のようなものが、俺の首に――いや『手』に、吸い込まれていくのが見えた。

 首の周りから、あの手は消えうせていた。
 ぷつりと緊張の糸が解け、全身から力が抜けていく。ベンチから半ばずり落ちた状態で、金魚のように口をぱくぱくさせた。

「手、手が……」

 ようやく押し出した声は上擦っている。自分でも何を言ってるか分からなかった。
 力を失った両腕からベースが滑り落ち、闇色に染まった芝生に落ちた。その音と衝撃で、完全に目が覚めて、大事なことに気付く。
「福子! 大丈夫か、福子!」

 ベンチから跳ね上がるように飛び降り、狭くなった福子の仮宿――虫かごを、両手に引き寄せた。プラスチックの虫かごは、転倒する事無くふたはしっかりと閉められている。
 恐る恐る中を覗き込むと、透き通る水と、赤と白の模様を浮き上がらせた金魚が見えた。
 眩い光に照らされて、激しく動き回っていた。

 生きていることに安心した途端、唐突に眩い光にさらされた。
「うっ……!」
 声を上げると共に、冷え切った芝生に尻餅をついてしまった。両手で抱え込んだ虫かごが、ぴちゃりと音を立て水面が揺れる。

「――何だ、無事そうで良かったじゃないか」

 目の前に、男が立っていた。物静かな落ち着いた声は、深夜の公園に低く浸透するように響き渡った。
 その男はどうやら懐中電灯を持って、俺と福子を照らしているようだ。

 が――眩しさでそれだけしか分からなかった。
 てのひらで光を遮ると、それに気が付いたのか、光の筋が左に反れた。刺さるような眩しさから開放され、男の姿が視界に入る。
 停止した空気が、息を吹き返したように動き出す。
 ふわりと風に舞い、知っているような香りが鼻腔びこうをかすめた。

「……!」
 男の姿に、心臓が跳ねる。夜色に紛れているが、はっきりと分かった。
 着物を着ている。
 その上に、外套を羽織っていた。まるで、明治や大正時代に生きていた過去の人間に思えた。さっきの今で着物の男なんて、また幽霊かと思ってしまう。

 俺の心情とは裏腹に、着物の男は落ち着いた声で言った。
「君ね、丑三うしみつ時にこんな処で何をやってるんだい? しかも虫かごを持って。早く家に帰りなさい」
 先生のような口調だ。
「……帰る所がないんで、家出してるんで」
 目線を男の足元にやりながら、何とか答えた。

「家出か……困ったね。せめて、コンビニでも時間を潰せば良かったじゃないか」

「初めはコンビニの駐車場に居ましたよ。でも……何かずっといるのも悪いから」
 そう言って俺は、シルバーアッシュの髪をかきわけた。デビューするからと気合を入れて、奮発ふんぱつして美容室で染めて来たものだ。
「……ふふ」
 男は低く、くぐもった声で笑う。
 驚いたのと、だんだん尻が痛んできたので、俺は慌てて立ち上がる。
 それに合わせるように、懐中電灯から生み出された光の筋が、俺の身体を下から上に当たる。
 首に差し掛かったとき、光が動きを止めた。
「ああ、すまない……まだついてるな。体調を崩したくないなら、動かない事をお勧めするよ」
 徐に、俺の首に男の指先が触れた。
 逃げようと首を反らしたが、奴の左手が、掌がそれを許さなかった。
 俺の首は包み込まれた――追い詰めてくるその指に。

 直後、何かを引き抜くように摘み取った。
 また、首を絞められると思った。一体、この男は何をしたんだ。
「な、なんだよ、何すんだ!」
瘴気しょうきつかみ取っただけだ」
 静寂の公園に、穏やかな声が響く。

「しょ、瘴気って何だよ……」
 何が何だかわからず、黙り込む俺に、男は追い討ちをかけてきた。

「ところで、君は先ほど霊に襲われていただろう? ……何があった?」

 男の顔も表情は暗闇に染まっていてよく見えない。ただ、この男は確実に見えてるし理解してる。
「……知らない誰かに、首を絞められました。それから、虫の羽音が聞こえて……」

 ――この人が、あの忌まわしい手から俺の事を助けてくれたんだろう。
 だったら、お礼を言おう。そう思い顔を上げたら「いいね、中々良い」なんて、嬉しそうに言いやがった。
 こっちは襲われて、首まで絞められて、マジで死ぬかと思ったのに!
 とっさに怒りが溢れ出してきて、文句を言おうと男をにらみ付けた。すると、男は急にこんなことを言った。
「家へおいで」
「は?」
「いく所が無いのだろう? 君も金魚も」

 時計の針が止まったようだった。
 深夜の公園の静寂のせいなのか。違う――男の言葉がそう感じさせたんだ。
 ひんやりと頬を撫でる風。
 男のシルエットが動く。手を差し伸べている。
 俺には分からない、あの――爽やかで、何とも言えない香りを漂わして。
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