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ロック陰陽師 作者:眞神 ユウ
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第19話 夜の終わり

 アクリル絵の具で描かれていましたね。あれ。
 水で薄めて何重にも重ねられた色彩は、暗い色と明るい色が混ざり合っては反発している。彼だけの独特の世界のように見えました。
 美大生らしくて、絵自体は上手いんでしょうけど……。
 何て言うんだろう。

 ――不快でした。

 神経質そうな痩せ顔にやや癖のある黒い髪。
 絵の彼は、口角をあげささやかな微笑みを見せているはずなのに、違和感を感じる。
 まるで、小虫がはえずるように、ざわつくんですよ。

 原因は、たぶん瞳――。

 口元は笑っているのに、彼の瞳は笑っていない。
 それどころか、異様にリアルなんですよ。髪や顔それに肌は服装は上手いけれど、絵だと一目ですぐに分かる。でも、眼球は生々しく水気があり、鋭い光を放っている。
 そこだけは彼の本当の瞳がはめ込まれているかのようでした。

「もしかして、目がリアルなのって、見てるからじゃねぇだろうな……」

「なるほど」

 飛龍フェイロンは俺の言葉に頷いている。

 俺は――扉や水槽、化粧台、箪笥の上に座る人形を一通り軽く見回した。それから、小さなため息を一つ零して、話の内容に思いを巡らせる。

 男は、Aさんを見張るつもりでいたんじゃないだろうか。
 監視したいという気持ちを、絵に込めて。その絵の中から。箪笥の中から、見えるはずのない目を埋め込むように。
 そう思うと、引き出しの裏に絵を描く、神経質そうな男の姿が見えた。

 ――やべっ、また拾った。

 男がどこかの洋室、たぶん自室だろう。椅子に座っている。部屋に張られている何かのポスターらしき物も見えたが、ぼやけてよく分からない。
 眼鏡をかけると、男は筆を取り、絵を描き始めた。
 何時間も何日も描いているんだろうと思った。時折、頭を傾けたり、目を見開いたりしながら筆を動かす。

 だんだん、男の身体の周りに、煙のような物が見えた。
 頭、身体、腕や足――男の全身にまとわりつく。
 絵に――。
 腕から、手に持つている筆にまで、執念が籠っているようだった。

「……っ」
 俺は、身体をぶるりとふるわせて、その映像を頭から追い払った。
 ……たまに、話を聞いているだけで、その映像が頭に入ってくる時があるんだ。
 怪談話をしていると『霊が集まってくる』なんて言うけど、それと一緒だと思う。

「それに、わかったそうです」
 飛龍フェイロンの言葉で、俺は我にかえった。
「え、何が?」
「いつも耳元で囁かれていた言葉ですよ。それは」

 イツモミテイルヨ――。

「絵の横に書かれていた言葉を言っていたんです」

 そこまで聞き終わって、うんざりしながらも俺は質問した。
「ずいぶん詳しいけど、実際に見たの?」
「ええ、僕の所に彼女が相談に来て、先生に対処してもらいました」
 俺はまだ会った事がないけど、先生はすごい陰陽師なんだろうな。

「それじゃ、Aさんも今の彼氏さんも大丈夫だったんだよな」
「ええ、それはもちろん。箪笥を引き取って、お払いをして……色々と、処理をして下さいました。先生が言っていたけど、かなり強い怨念がこもっていたそうです。その箪笥。それを媒介にして、彼の生霊が力を増していたのでしょう」

 生霊という単語を聞いて、俺の母親やバンドのボーカルを思い出す。

「ほら、男も負けてないでしょう?」
 そう言って、飛龍フェイロンはにっこりと笑った。
「お前……それが言いたいために、こんな嫌な話を……?」
「男も女も関係なしに、人柄で見なければいけないと言いたかったんですよ。良い男性も、良い女性もたくさんいますよ。だからそう荒まないで下さいね」
 そういえば、山城の時に、立花さんも似たようなことを言っていた。

「それじゃ、おやすみなさい。僕は部屋に戻りますね」
 話が終わったからか、飛龍フェイロンは急に立ち上がって部屋から出ようとした。

「ちょっと待て、お前ひどいぞ!」

 俺がとっさにそう叫ぶと、振り返って「怖いの?」と聞いてきた。
「怖くねぇ……っていうか、お前が余計に怖くしたんだろうが!」
「あれ、そうでしたか? ……じゃあ、僕がこの部屋で寝るから、大神双牙君は、僕の部屋で寝て良いですよ」
「えっ……? いや、うーん……」
 ありがたい申し出だが、なんだか悪いような気がする。それに、飛龍フェイロンはこの部屋が怖くないんだろうか。

「平気って言ってたけど、化粧台も不気味じゃねぇ? お札まみれだし」
「ああ、怯えてると道が出来て良くないですよ。僕は平気です。それに――」
 彼は、部屋をゆっくりと見回しながら、こう続けた。

「僕、霊感ないから、こういう邪念だらけの部屋で寝たらどうなるのかと思って。悪夢とか見るのか、自分で実験してみようかと」
 さりげなくすごいこと言ってる。

「霊感ねぇってどういうことだ……? 何で陰陽師の弟子やってんだよ」
「僕は勉強熱心だから、民俗学の勉強と一緒に学んでいるんです」
 そんな話をしている内に、窓の外が白んできた。夜が明けようとしている。
「――そうか、一人が怖いんですね」
 いきなり気が付いたように、目を見ながら言ってきた。俺は目をそらした。
「そんなことねぇよ」
「霊感があると、辛いでしょう」
「え……あ、いや……」
 見えない人間にそんなことを言われたのは、初めてだった。
「それじゃ、僕はソファで寝ますね。おやすみなさい、大神双牙君」
 さっきまで俺がかぶっていた毛布を手にして、飛龍フェイロンはソファに横になった。
「いや、俺がそこで寝るよ」
 そう提案した時には、もう動かなくなっていた。寝つきが良すぎる気もしたが、本当はすごく眠たかったのかも知れない。
 お札まみれの化粧台と、人形がある部屋は相変わらず恐ろしかったが――彼がいるおかげで、少しはマシになった。
人形部屋の話はこれで終わりです。お読み頂きありがとうございました!
投票もとても嬉しいです。頑張れます。
また、続きが出来たら更新しますので宜しくお願いします。
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