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ロック陰陽師 作者:眞神 ユウ
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第18話 箪笥

 そんな話を聞いたら、余計に嫌になってくる、この部屋。
 そう思いながら、俺は箪笥の上の『八体目の手縫い人形』を見上げる。

「あれも途中放置か……せめて処分していけよ……」
「僕も、昔の恋愛を取っておくのはいかがなものかと言ったのですが」

 飛龍フェイロンは、片手で薬用酒の瓶を器用に回しながらこう言った。

「彼女のポリシーとして、思い出は形にして取っておくんだそうです」
「……俺、この人形、どっかやって欲しいんだけど……こんなもんある部屋でなんか眠れねぇよ」
 化粧台も呪われてるし。
「彼女の過去の産物ですから、気にしなくてもいいですよ。思い出なんて言っていたけれど、もう終わっているんです」
 飛龍フェイロンは、あらためて化粧台の方を見た。

「ただ、鏡の中に、彼女の美への執念が宿ってるみたいですね。彼女の家具で問題がある物は、今度休みの日に整理するって言ってたから――安心していいよ、大神双牙君」
 執念って……今日のロミといい、変な女ばっかりじゃねぇか……。
「もう女が怖ぇよ、俺……」
 俺がそう呟くと、飛龍フェイロンは俺の目を真っ直ぐ見据える。

「いやいや、男もそう負けてませんよ」
「え?」
「僕の通っている大学の女性の話なんだけどね――」
 彼は、真面目な顔でこんな話を始めた。


 体調が悪い――。

 まずは、そんな所からだったらしいです。彼女、ここでは名前を伏せてAさんと呼びますが……大学に通い始めて、一年を過ぎた頃。
 身体のだるさや頭痛、吐き気に襲われて、病院に通いはじめました。けど、症状が一向に良くならない。もちろん、病院も転々と変えたらしいですが、原因不明だったそうです。

 そうしている内に、付き合い始めた彼氏が交通事故に合って、入院してしまいました。Aさんもちょっとしたはずみで階段から落ちてしまい、怪我を負ってしまったそうです。

 とにかく不運が続く。
 おかしい――。
 なぜ、こんなに不運が続くのか……。
 理由はなんなのか?
 その日、Aさんは自分のアパートで友人に電話で相談したそうです。

 その晩――。
 Aさんがアパートの部屋で寝ていると。

 ごそごそ。
 こそこそ。
 どこからか、音がする。

 目をさましたAさんは、寝ぼけた頭をなんとか働かせて音の元を探そうと、耳を澄ます。

 ごそごそ。
 こそこそ。
 これは――人の話し声だ。

 とても、小さな囁き声だったけど、確かにそれは人の声だったそうです。Aさんは、慌ててベットから上半身をおこし、音の方向を確認しました。

 箪笥のほう……?
 そう思った直後。
 Aさんの背後、それも左耳に生暖かく、じめりとした人の吐息がかかって――。
 耳元で、誰かの声がしました。

「うねるような低音は、小声で何を言っているの分からなかったけれど、男の声だったそうです」

 無言で飛龍フェイロンの話を聞きながら、俺は小刻みに震えていた。
 全然、寒くないけど。部屋はうっすらと暖かくて本来なら心地よい温度だ。

 ……何でこんな気味の悪い部屋で、こんな話聞かされてんの?

 俺がそう思い、目をぎゅっと瞑ると、飛龍フェイロンは「寒いの?」と尋ねてきた。
 そうして、ベッドの毛布をはぎとって、俺にかける。
「これで暖かい?」
「……うん」
 本当はそういうのじゃないけど、怖がってると思われたくない。
 俺、見て分かるくらいに震えてるの? すげーイヤなんだけど。俺にだってプライドあるんだけど。
「全然怖くねぇよ。続き、ほら」
 それなら良かった、と飛龍フェイロンは話の続きを始めた。


 ……Aさんは悲鳴をあげ、その日は眠らなかったそうです。
 部屋に何かいる。そう思うと、怖くてとても部屋なんかに居られない……。だけど、現実的にすぐに引越しなんて出来ませんよね。お金もそうだし、新しい住処をさがさなきゃいけない。
 Aさんは、仕方なく部屋に戻ったそうです。
 何かが現れそうな恐怖と戦いながら――。

 昼間は特になんともないそうです。
 まるで悪夢でも見ていただけじゃないのかと思うほどに。

 だけど――。

 夜になると誰かの気配を感じる。それは電気を煌々と点けていても変わる事なく、深夜の決まった時間に、やはり同じ方向から人の囁く話し声が聞こえる。
 かと思うと、耳元に人の吐息と男の声――。
 相変わらず、何を話しているか聞きとれない……。
 来る全く同じパターンが続きました。

 何日も続くうちに、正体が分かったそうです。

 まずは、囁き声。必ず箪笥――それも引き出しの中から聞こえる。

「なんだ、それ……気持ち悪いな。中に人でもいんのかよ」
 ここまで、だまって飛龍フェイロンの話を聞いていた俺はつい口を挟む。
「引き出しに? それ、かなり薄い人だよね」
 俺の言葉に飛龍フェイロンは、柔らかな笑顔を見せてそう答えた。それから、また言葉を紡ぐ。


 ……Aさん、次の日に勇気を出して、昼間に箪笥を開けてみたそうですよ。
 全ての引き出しを開けて見たけど、洋服がたたんであるだけ。普段どおりで別に変わった様子はない。洋服を全て取り出して見たけれど、一段目、二段目、三段目、四段目……どこにも、なにもない。

 Aさんは、そこであることを思い出します。
 その箪笥――。
 元彼って言うんですかね。昔の恋人に買ってもらった物だったそうです。

 Aさんは、近畿地方の出身の子でね。大学入学が決まった時、遠方なので一人暮らしをする事が決まり、その時に付き合っていた年上の彼氏がプレゼントをくれたんですよ。

 はじめての一人暮らしという事もあり、不安と嬉しさでいっぱいだった時に、彼が奮発して高い箪笥を買ってくれた。
 別れた後も、一人暮らしはお金がかかるし、少し思う所がありながらもそのまま使っていた箪笥。

 遠距離恋愛が原因で、別れることになった……。
 はっと気がついて、もう一度、箪笥の引き出しをすべて取り外しました。
 Aさん、それを見つけた時、一瞬――息が止まったそうです。

 一番下の引き出しの裏側に、絵が描いてあったんです。
 彼の自画像。それと――。

 いつも見てるよ、という真っ黒い文字が。
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