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ロック陰陽師 作者:眞神 ユウ
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第17話 人形部屋

 山城の時は、彼が怯えていたせいか恐怖感を押し殺す事が出来たけど、もう限界かもしれない。こんな時間に、とても立花さんの所には行けないし……。
「だからって、あんな人形部屋なんかで寝れるかよ」
 ロミだわ腕がちぎれた手縫い人形だわ、胃が痛くなってきた。
「寒い……眠い……なんでこんな事に……」
 部屋と廊下を行ったり来たり、たまに福子を見たり。どれくらい経っただろう。

「動くな」

 廊下の奥から、男の声が響き渡った。物静かに聞こえるが、研ぎ澄まされた鋭さを感じる。俺は反射的に動きを封じられ、その場で固まるしかなかった。
 足音が、気配が近づいてくる。
 抵抗しようと、ゆっくりと後ろを振り返る。ちゃぽん、と水の音がした。

「あれ……なんだ、大神双牙君? 何してるの?」

 そこには、あの留学生――飛龍フェイロンが立っていた。
 さっきまでの威圧感は消えて、少し間抜けとも取れるような表情をする。
「あっ……いや、それが……うわ」
 彼の手には、茶色い大きめの酒瓶が握られていた。これが水音を立てていたらしい。
「酒瓶……」
「これは、薬用酒ですよ」
 飛龍フェイロンは、目の前に瓶をかかげて爽やかに答えた。健康に気を使っているんだろうか。
「物音がするから、泥棒かと思ったよ」
 彼が話している間も、俺は手元の瓶が気になって仕方が無い。目線に気付いた飛龍フェイロンは、何故か照れたようにこう言った。
「ああ、俺がいるのにいい度胸だと思って……」
「そう……」
 この飛龍フェイロンという留学生は、体格が良い。筋肉質で、なにか運動をしているような――それこそ、武術でもやっていそうだ。
「泥棒のほうが逃げ出しそうだな」
 俺の言葉に照れたのか、空いている方の手で頭をかいている。
「……で、大神双牙君はこんな時間になにをしてるんですか?」
「そうだ、それが――」
 思い出し、慌てて事情を説明した。鏡に張られたお札や、八体の人形のことを。
「大神双牙君は、怖いの?」
「怖くねぇよ!」
 カッとなってそう叫ぶと、飛龍フェイロンはニヤついた顔でモダン部屋のドアを開けた。
「それじゃあ行こう」
「え? 何でだよ……あ、そうか」
 そういえば、彼は陰陽師の弟子だった。立花さんみたいに、除霊とかして解決してくれるのかもしれない。
「弟子なのに、すげぇな。もう陰陽師の仕事とか出来るんだ」
「え? 出来ませんよ」
「は?」

 俺が目を丸くしていると、彼はずかずかと部屋の中に入っていった。
「ちょっと待てよ、今なんて――」
 仕方が無いので、追いかけるようにモダン部屋に入る。
 飛龍フェイロンは、まず福子のいる水槽を確認すると、次に化粧台を見た。そうしてゆっくりとした動作で箪笥の上を仰ぎ見る。八体の人形を見ると、ジャージのポケットからスマホを取り出して、人形に向けた。カシャ、という軽快な機械音が、モーター音の中で響き渡る。

「これは酷い」

 言いながら、もう一度、スマホのボタンを押している。
「……何で写真撮ってんだよ?」
「いや、僕は幽霊が見えないから。怪しいものは写真に撮っているんです」

 え……? 幽霊……見えない……?

 そして、八体目の人形――あの作りかけの人形を見ながら、こう呟いた。
「やっぱり離婚したから……」
「何の話だよ!」
 たまらなくなって、俺は叫んだ。
「ああ、僕はこの人形の持ち主……旭さんのお姉さんを、知ってるんですよ」
 俺の疑問に答えるべく、飛龍フェイロンはあのゴージャスなベッドに腰を下ろして話しはじめた。仕方が無いので、俺もソファに座る。部屋は相変わらず暖かい。

「彼女、好きな人が出来るたびに、人形を一体用意するんですが……」
「えっ……! 何のために? まさか、悪い陰陽師とか?」

 立花さんの姉は、人形を使って、呪術でもやっていたのだろうか。

「いえ、そういうのじゃなくて。僕も、彼女がいたころに、同じ事を聞いたんですけどね」
 飛龍フェイロンは、スマホをポケットにしまいながら続ける。
「子供の頃、好きな人が出来た時に、持っていた人形に話しかけていたのが始まりだそうです」
「それが何であんなことに……?」

 俺は真ん中あたりにある、アニメのフィギュアを指差した。

「それは、似ているキャラクターを買ってきたそうですよ」
「じゃあ、あの八体目は?」
「その頃には、手作りが始まっていたようです。あの人形は離婚した旦那さんですね。急に別れたから、途中で植毛をやめてしまったんでしょう」

 植毛って……ああ、あの髪の毛のことか。つい、あの手縫い人形に目をやってしまう。露出した頭皮が妙に生々しく感じたのは、生きたモデルがいるせいだろうか。
「腕は? もぎとったのか」
「あれも作り途中でしょう。完璧主義の彼女が、あんな状態で放置するなんて――それだけ、あの離婚は色々あったみたいですね……」

 ここまで話しておいて、急に飛龍フェイロンは言いにくそうに口をつぐんだ。
「雪華ちゃんのこともあるし」
「え? 雪華ちゃんって――」

 立花さんの……妹だよな、確か。何か色々事情があるんだろうか。気になるけど、こういのって聞いていいんだろうか。飛龍フェイロンの顔色を伺った。

「ここにいた人、雪華ちゃんの母親だったから」
「え? あの子、立花さんの妹じゃねぇの?」
 姉の子供だったら、姪っ子じゃね? 俺の疑問に、飛龍フェイロンは淡々と答える。

「複雑なんですけど、雪華ちゃんって、先生――旭さんのお父さんの養子になってるんですよね」
 一瞬、言っている意味が分からなくて口をつぐむが――頭の隅で、『捨てられた』という言葉が浮かんできた。

「この部屋にいた女、自分の子供を捨てたのか……」

「正確には、彼女の子供じゃなくて、別れた旦那さんの連れ子なんですけど。旦那さんが酷い人だったから、可哀想で引き取ってきたそうです」
「……? そんなことまでしたのに捨てるのか?」
「好きな人が出来たとか言って、出ていっちゃいました。だから、ほら」
 飛龍フェイロンは、化粧台を指差した。

「そんな彼女の、恋愛に対する執念が化粧台に染み込んでいたんでしょうね。それを旭さんは封印したんですよ」
 ――鏡の前で、誰かを想いながら化粧をしている女が、脳裏に浮かんだような気がした。普通なら可愛らしいものかも知れないけれど、人形や、子供を捨てた話のせいか、それは怖いものに感じられた。
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