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ロック陰陽師 作者:眞神 ユウ
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第15話 帰路

「ロミ!」

 俺はつい大声でそいつの名前を呼んでしまった。奴は一瞬こちらを見たが、すぐに山城に視線を戻す。
「さっき渡したお札が効いている内は近づけません。早く、彼女と縁を切るよう宣言して下さい」

「わっ……私は――彼女と、縁を切ります!」

 立花さんの声に応えるように、山城は大きな声でそう叫んだ。
 しかし、目前のロミは消えなかった。俺はとっさに――。

「離婚しろ!」
 そう叫んだ。

「で、できません! ログインしないといけないし、お互いの合意がないと離婚は出来ないシステムなんです」
「じゃあもうパソコンぶっ壊せよ!」
「そうだね、そうしよう」
 静かな声。反射的にそちらを向くと、立花さんはパソコンの電源を全部引っこ抜いていた。

 液晶画面は真っ暗になっていたが、やはり一瞬だけ女の顔が見えた。そして、一言こう叫んだ。

『……マンデリン君……』

 甲高い声と、重たく低い声が折り重なった、恐ろしい声だった。でも。

「まんでりん君って誰だ……?」

「私の、キャラクター名です……コーヒー豆の名前なんですが」
 山城は、自分の手首を抑えながら、俺の疑問に答える。

「結局、お互いの本名なんて、知らないままでしたし……」

 そう呟いた彼の指からは、あの指輪の跡が消えていた。あんなに滴っていた血も、痕さえ残っていなかった。


「……メールは全部消しておきましたよ。これで少しは縁も弱まります。あなたも宣言したことだしね」

 立花さんの声に、俺はハッとした。パソコンを指さしながら、こう続ける。
「どうしますか? 除霊して売るか、捨てるかした方が良いですよ」
 山城は、頷いている。
「……捨てます」
 消え入りそうな声で、立花さんにそう伝えていた。
 その返答に、立花さんは優しそうな笑顔を浮かべる。
「物理的にも、精神的にも、完全に彼女と縁を切っていれば大丈夫だと思います。残っている瘴気を浄化して、念の為に部屋にも結界を張っておきますね。何かあったら、連絡を下さい」

「はい……ありがとうございます、立花さん。あの……ロミちゃん……彼女は、消滅したんでしょうか」
 パソコンに視線を向けて、山城は疑問を口にした。
「引いて、どこかへ行ってしまっただけです。また誰かを狙ってるかもしれない」
「彼女、自分は一途だって言ってたんですけど……」
 あんなことがあって一途とか言われても……。俺がそう思っていると、立花さんが眉を下げてこんなことを言う。

「……彼女が、初恋の人に似ていると言っていましたね。きっと、幻覚を見せられていたんですよ。演技でもなんでもね、あなたの好みの姿になっていたんでしょう。良くあることなんですよ」

「そう――そう、ですよね……」
「これはネットの世界だけじゃなくて、現実でも同じです。人間性を見抜かないといけない」

 山城は頷くと、無理にだろうけれど、笑ってみせた。
「お金、口座に振り込んでおきますね。ありがとうございました、立花さん。あと、君もね」
「俺、何もしてねーけど」
「お疲れ様、大神君。色々と助かったよ」
 言いながら、立花さんが俺の肩を叩いた。



「山城さん、大丈夫すかね?」
 帰りの車の中で、俺は気になっていたことを聞いた。

「ああ、彼はもう問題はないよ。彼女は、他に縁が繋がった人の所に行ったみたいだしね。最後に、彼女の指に他の人の赤い糸が見えたから……」

「えっ……。それ、やばくないですか」
 さっきの『一途』って一体……。

「ゲームで付き合っていた人が、一人じゃなかったんだろうね。私とやり合うなら、他の人がいるからイイやと思ったのかもしれない」

 車はラーメン屋の前を通り過ぎていく。
「また、山城さんの時と同じように、やり取りしてたPCに憑いて、そこから彼女が現れるかもしれないね。そしらぬふりして、横断歩道の信号待ちや、デパートの中とか。色々な形で」

 時計を見ると、もう十時を過ぎていた。カーショップはすでに閉まり、まだ営業している回転寿司屋の前を通る。のぼり旗には、『まぐろフェア』の文字が見え、食欲をそそる。しかしもうじき閉まるだろうから、寂しげに見送った。

「その……他の、赤い糸がついてる人って、大丈夫なんですか?」

 明るい看板が目に眩しい。こってり系のラーメン屋だ。
「ロミに会った時に、気持ちを持っていかれなければ問題ない。山城さんも言っていただろう? 可愛い――って。心の隙間というか、自分から受け入れてしまってたんだよ。振り返ると消えていたり、痩せてきたり。どう考えても異常だったのに」

 おかしいと思う所があったのに、受け入れた。
 そこが、問題だったね。

 立花さんの言葉に、さっきの山城を思い出す。いつの間にか、異常が普通になってしまったのかもしれない。

「縁って怖いんスね。俺、ネトゲやらなくて良かった」
「ふふ、現実でも同じ事だよ。相手の性格や、本質を見ないといけないよ。まぁ現実でもゲームでも、恋愛ごとは強いみたいだけれど。息抜きでやってもいいけど、付き合う相手は選んだほうが良い」

 またラーメン屋の前を通った。この辺りはラーメン激戦区なんだな。
 空腹のせいか、流れる風景の中に食い物屋ばかり目で追ってしまう。

 腹減ったよ……。

「縁は、悪い事ばかりじゃない。大神君――私と君が出会ったのも何かの縁だよ。縁は選ばないとね」

 そう話している間に、車がすーっとファミリーレストランの駐車場へ入っていった。

「あっ!」

「おごってあげるよ。ずっと空腹だったのに、悪かったね」
「やったあ! 師匠! あっ、先生のほうが好みですか?」

 俺は喜びを全身で表した。本当に嬉しい。正直に言うと、ショウガ飴に胃腸がやられて、車に揺られて、気持ち悪くなっていた。それくらい空腹だった。
「君って現金だね」
 立花さんは、明るい声で笑った。
プロローグと山城編は、今回で終了です。
お読み下さってありがとうございました!
投票やブクマも本当に嬉しかったです!
また続編ができましたら、宜しくお願いします。
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