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ロック陰陽師 作者:眞神 ユウ
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第13話 アパート

 山城の案内で着いたアパートは、車で五分程度の場所だった。

 黒茶の女から遠ざかるにつれ、山城の右手に絡みついた血の糸は見えなくなった。それを確認すると、だいぶ落ち着いたようだ。

「すみません、立花さん。うちのアパートは、来客用の駐車場がないので、端の方に止めてもらえますか。駐車禁止の場所じゃないんで、しばらく止めてても大丈夫です」
 言われて立花さんは、わりと広い道路の端の方に車を寄せる。


 車から降りる時に、あの女がいるんじゃないかと緊張したが、今のところ来ていない様だ。

「私の部屋は、あのアパートの二階の、階段を昇ってすぐの所です」
 山城が指差した方向を目で確認すると、立花さんは着物をなびかせて、駆け足でそこに向かった。
「うう……腹減った……」

 俺の小さな呟きは、雑踏に紛れて二人には聞こえなかったようだ。

 束の間かもしれないけど、安心したら、何だか胃が気持ち悪くなって来た。しばらく何も飲んでないし、俺だけでもコンビニで何か買えば良かった。続けて「きもちわるい」と一人でぼやいていると、立花さんが俺の前に手を差し出してきた。
「飴でいい? これしかないんだ、ごめんね」
 聞こえてたのかよ。
「どうも……」
 一礼して受け取ると、ジンジャー味と書いてあった。
 ショウガか……。
 そう思いながらも、包装袋を破って口に放り込もうとした瞬間――。
 山城が突然、悲鳴を上げた。

 本人の容姿とは不釣合いな、甲高い声には恐怖の色が滲み出ていた。俺はびくりと身体を震わせてしまい、危うく飴を落としそうになる。
 落とすまいと、すぐさま飴を口に入れた。甘さの後から、辛みが追いかけてくる。
「どうしましたか? 山城さん」
「で、でんき……外出する時に消したはずなのに」
 立花さんに聞かれて、山城は震えた声で答えた。
 目前にはアパート。
 外灯照明が階段を照らし、二階の一番手前の――さっきの説明にあった山城の部屋から、光が零れていた。

 辺りは真っ暗で、部屋の明かりがぽつりぽつりと浮き上がっている。さっき車内で確認した際には、もう夜の八時半だった。いくつかの部屋には人が居る様子だ。

 でも、何故だろうか――。

 山城の部屋の灯りが、ひときわ明るい。明るいのに、冷たくて無機質に感じた。
 作り物の暖かさのような違和感がある。

 そう思っていると、山城が何かに引き寄せられたかのように、一歩足を踏み出した。

 瞬間――。

 再び、赤い糸が山城の小指に絡みついていた。
 ごわごわに固まったそれは、時折鮮明な血を垂らしながら、何処かへ伸びている。
 階段があって見えないけど、行先がわかった。山城の部屋だろう。
 俺は、その場で固まった。
 ただでさえ寒いのに、急激に身体が冷えたような気がする。冷や汗をかいていることに気が付いた。

 あの黒茶の女が待ってるんだ――あの部屋で。

「なんで……それじゃやっぱり、彼女は……いや、そんなはずない……!」
 山城は、へなへなと道路に尻餅をついてしまった。

 俺は、なんて言っていいか分からなくて、言葉が出なかったから無言で手を差し出した。
 山城は沈黙のまま、俺の手を取ろうとはしない。代わりに立花さんが、俺の背中をぽんと軽く叩くと山城に話しかける。

「山城さん、お気持ちは分かりますが――今、行かなければいけませんよ」
「うあぁ……く、車の中に居ちゃ駄目ですか? 部屋にはあの女が居るんですよ!」

「どこに行ってもついてきますよ」

 その言葉に、山城は硬直する。
「見てお分かりのように、その赤い糸はタチの悪いものです。何故だか分かりますか? 赤い糸は、彼女と――山城さん……あなたの方からも結ばれているんですよ」

 立花さんは、山城と部屋を交互に指差す。

「つまり、自分の意思で縁を繋げているという事になる。これでは、私がいくら祓っても彼女は再び、あなたに取り憑く。いつまでもね」
「縁を結んだ記憶なんて……結婚もしてないし、彼女だっていないのに!」
「あなたの記憶にないにしろ、確実に彼女とあなたの縁は繋がっている。物事には理というものがあります。なぜ、繋がっているのか――理由があるはずです」

 立花さんの言葉は、さほど大きくなかったが暗闇の中に浸透するようだった。

 それでも、山城は嫌々をするように頭を振る。血の糸が結ばれている右手の手首を黙って握り締める。

「死にたくないのなら、立つんだ。早く」
 立花さんは痺れを切らしたのか、時間がないのか。口調が厳しいものになった。どちらかは分からないが、俺もいい加減に此処から動きたかった。

「山城さん、俺も怖えけど、一緒に行くからさ。ここにいたって仕方ねぇし、時間が経つと、もっとヤバイ気がするし……」

「……」
 しばらく黙っていた後、ようやく山城は重い腰をあげる。
「分かりました……行きます」
 辛いのだろう、足元を見たら膝が震えていた。
 俺も人の事言えないんだけど。寒いし肩が震えてた。
 立花さんが足を進める。俺の横を通る時、小声で「ごめんね」と言っていた。何の事だかわからなかったけど、曖昧に頷いておいた。

 アパートの階段に足をかける。やけに音が響いた。俺が緊張しているからだろうか。
 足踏みしていると、立花さんが何か寄越してきた。山城にも同じものを渡している。
 それは――なにかのお札のようなものだった。縦に長くて……そうだ、初めて会ったときに、深夜の公園で見たのと同じものだ。
 お守りってことだろうか?

 そうこうしている間に、部屋の目前まで来ると――おかしな事に、山城の赤い糸は消えていた。
「二人とも見て下さい! 赤い糸が消えたんです。お札のおかげでしょうか」

 山城は嬉しそうに、立花さんに貰った札を掲げている。俺も一瞬そうなのかと思ったが、彼は首を振った。
「いえ――その札は護符だから、縁そのものが切れたわけじゃありません。別の理由で消えたんだと思います」

「そうなんですか……」
 いくぶんガッカリしたような声で、山城がドアのカギを差し込んだ。焦っていたのか震えていたのか、少し時間がかかったが、しばらくすると恐る恐るドアが開かれる。

「――えっ……?」

 部屋の灯りが消えていた。

 さっきまで、窓から明かりが漏れていたはずなのに――真っ暗になっていた。
「なんで……!」
 慌てて電気を点けるが、山城は困惑した様子で室内を見廻した。
 確かに誰かが潜んでいるような気がして、俺もつい同じ動きをしてしまう。が、もちろん誰もいなかった。

 部屋の中は小綺麗で、あまり物がなかった。洗濯物が、部屋の真ん中で小さな山を作っているくらいだ。
「山城さん、確認したいことがあります。パソコンを起動して下さい」
 立花さんの声にそちらを見ると、俺の横を通り過ぎて部屋の奥へと向かう。
 ベッドの脇の机の上に、少し大きめのパソコンが置いてあった。
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