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ロック陰陽師 作者:眞神 ユウ
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第12話 赤い糸

 どん! どん! どん!
 女が激しく窓を叩く。

「なんでこっちに居るんだよ!」

 思わず叫んだ。背筋の下から気色の悪い冷気が這い上がってくる。
 真っ赤に血走った女の目から逃げようと、反射的に距離をおく。とにかく、これヤバイだろ。殺意とか負の感情というのだろうか、そういうのがアリアリだ。

「た、立花さん! ちょっと、何か俺んトコ来てるんだけど!」
 慌てて助けを求める。
 すると立花さんは不機嫌そうに、腕にしがみついていた山城を強引に剥がした。
「邪魔」
 低い声で言い放つと、運転席のシートから顔を覗かせて、俺に向かって「大丈夫だよ」と手を振った。

 どん! どん! どん!

 女が血走った目で窓を叩く。その度に、山城が小さく悲鳴を上げている。
「大神君、車内には入れないから安心しなさい。彼女がまた来るのは分かっていたから、車に乗り込んだんだ」
 そうは言っても、こんな状況、心臓に悪い。
 ずいぶん余裕だけど、それなら早く何とかしてくれよ。それに何で、また来るって分かったんだ?

「山城さん。おかしいんですよ」
 立花さんが、助手席で震える男に問いかける。

 どん! どん! どん! ――ぎいぃ……!

 不快な音に目を向けると、あの女が窓ガラスに爪を立てていた。まるでもがき苦しんでいるようだった。地獄絵図だ。
「ひぃい」
 山城が、口から情けない声を漏らす。
「ほら、あなたの肩に乗っていた彼女を、一度払ったでしょう。でもね、何と言うか――手ごたえがおかしいんです」
 立花さんは気にも留めない様子で話を続けた。
「単刀直入に言いましょう。山城さん――あなた、彼女と縁が繋がっていませんか?」
「え、えん……? ど、どういう事です」
「あなたのお話だと、彼女に初めて出会ったのが、横断歩道でしたよね。それ以前――彼女の生前に、会った事はありませんか?」

「うぅ……横断歩道で会ったのが、初めてだと思うんですが……もしかしたら仕事先や、カフェですれ違ったりとか、どこかで話した事くらいははあったかもしれません……」
「いや、その場だけの単発的な縁ではないんです。もっと強く――繋がっているんです」

 薄暗い車内で二人の会話だけが響き渡る。

 俺はと言えば、じっとりとした嫌な汗をかきながら、一人で警戒態勢を続けていた。
 立花さんの話だと……山城はその女と、知り合いって事なのか?
 生前と言われると、ガラス越しの女が、改めて本物の幽霊なんだと実感する。
 見たくもないけど、目を逸らすと持っていかれそうで、逆に凝視してしまう。

 ぎぃぃぃ、ぎぃぃぃぃ。

 ぺた。ぺた。べた。

 女は血走った瞳で口元に微笑みを浮かべていた。ガラスを引っ掻いていたが、そのうち手の平をぺたぺたとガラスに押し付けてくる。

「うわ……」

 血が――。

 車の窓ガラスに血の手形がべったりと張り付いていた。
 いつの間にか女の掌が、真っ赤に染まっている。
 しかも、それだけじゃない。

 血が染め上げられた左手の小指から、赤い毛糸のようなモノが垂れ下がっている。
 太さが疎らで、太い所と、細い所がある。時折、どろりとした液体を滴らせたその糸は、血液そのものにも見えた。
 それが、前の座席に長く続いている。俺は息を呑むと、おそるおそる山城を覗きこんだ。
 身体が震える。そこに。

 赤い糸が――ツナガッテいた。

 山城の右手の小指に、真っ赤な血のような糸が巻きついている。
 血をぽたり、ぽたりと滴らせながら――どういう訳か、落ちたと同時にそれは消えていった。
「な、なんだよ、それ……!」
 山城は、とてもヤバイ状態になっているんじゃないのか。
 そう思うと、どうしようもなく怖くなって、震えた声を出してしまった。
「どうしたの?」
 立花さんが振り返った。
「山城さん、手――!」
 俺の声に、山城は自分の手を確認する。瞬間、悲鳴を上げた。
 その、絡みついた『赤い糸』を見て。

「……山城さん。相当強い縁があるようですね。本当に心当たりは無いんですか? これは、運命の相手や、結婚しているレベルですよ」
 立花さんの問いかけに、山城は首を振りながら、自らの手首を押さえ込んでいる。 
「本当に、本当に分からないんです! 私の記憶だと……横断歩道で初めて会った記憶しかないんです!」
 涙声で、そう叫んだ。
「――分かりました。では、行きましょう」
 立花さんは、発した言葉と同時に車のキーをまわす。エンジンが音を立て、車は急に走り出した。
「行くって、どこに?」
 俺の問いに、立花さんは静かな声で応じた。
「山城さんのアパートだよ。気になる事もあるしね」
「えええ……」
 こんなやばそうな幽霊と一緒に住んでたアパートになんか行きたくない。
 そう思いながら、窓の外を見ると、コンビニの前で二十代すぎのカップルが、こちらを見ているのに気が付いた。今まで余裕がなくて、外の様子に気が付かなかったが、男二人で震えてたり、随分と不審な車に見えただろう。この女は、俺たち以外には見えていないようだった。

 バックミラーを見ると、女がコンビニの駐車場に突っ立っているのが見えた。
 うな垂れたまま、何を考えているのか分からないその姿――動かない女は、動いている時よりも更に不気味に感じた。
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