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ロック陰陽師 作者:眞神 ユウ
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第11話 目

 山城の話はつまり――。
 交差点で一度見かけた、知らない幽霊の女が後を付いて来て、いつの間にか自宅のアパートに住み着いてるってことだろ。
 ヤベェよ。完全に幽霊にとり憑かれてるよ。
 俺は救いを求めて運転席の立花さんに視線を送った。後部座席からでは、横顔しか見えない。薄暗くて表情までは分からないが、何故か、だんまりを決め込んでいる。

 俺は山城の後頭部に視線を戻した。
 だんだん腹が立って来たのは、山城の態度が不愉快だからか、空腹のせいなのか分からない。我慢できなくなって、少し荒っぽく声をかけた。

「それじゃ、山城さんが電話で言ってたアレは何だったんすか? ほら、助けてくれ、女が――って言ってましたよね」

 山城は俺の言葉が合図とでも言うかのように、身体を縦に振るわせた。

「あ、あぁあ……」
 唇から零れ落ちた声と共に、山城が頭を振る。何度も、何度も。
 なにがしたいんだよ。
 自分よりも十歳以上は年上に見える山城が、幼稚園児に思えてくる。これでは、まるで駄々をこねる子供だ。

「ふ……山城さん、あなたがそんな風だから、ほら……」
 ふいに立花さんの静かな声が、車内に響き渡った。
「彼女が迎えに来ましたよ――」
 そう聞いて、俺の思考は止まってしまった。

「うっ、わぁあああああああ!」

 だが、突然の絶叫に現実に引き戻される。見れば、山城が立花さんに抱きついていた。

 山城の視線の先――。
 フロントガラスの向こう側に、あの黒茶と白の塊がいた。いや、良く見るとそこには顔がある。埃と湿気で固まっているのだろうか、ワカメのように固まった長い髪に覆われていて、その表情は見えない。
 そいつは、車のボンネットに音もなく乗っていた。

 荒々しい呼吸に合わせて両肩を上下させながら、微かに移動している。
 黒ずんだ肌、枯れ枝のようにカラカラに干からびた長い両腕、その先についている尖った指先は、まるで吸盤でも付いているかのようにフロントガラスに張り付いていた。

 それに反比例して、純白のフリルのワンピースが白光りしている。目に痛いくらいに。
 化け物のような動作や姿に矛盾したその衣装は、何かを主張するかのごとく、ふわふわと柔らかく夜風に揺れている。まるで、着ている本人の姿に抗うようだった。

 ――まさかコイツ、山城の部屋に住んでるっていう、例の『彼女』じゃねぇだろうな。
「山城さん。あなたは、認めたくないんじゃないですか? 自分が見たものを」
 俺の思考を読んだかのように、立花さんが言葉を紡いだ。

「これが、彼女の真の姿だっていうことを」

 助手席の山城がうめき声を上げ、立花さんに必死にしがみ付いている。
 女は――フロントガラス越しに静かに揺れていた。

 ゆらり。
 ゆらり。

 海中に揺れる藻のように。

 頭を垂れたまま、髪に隠れて顔は見えない。俺は、それをただ、口を半開きにして見つめていた。自分の鼓動の音だけが、やけに大きく聞こえる。

「大神君、大丈夫だよ。君はそこで見ていなさい」

 じっとりとした汗が、急速に冷えていく。
 そんなこと言われても、じっとしているのも怖い。何なんだよ山城は、いつまで立花さんにしがみついてるんだよ。

「山城さん。そんなに怯えなくても大丈夫ですよ。予め、この車には結界が張ってあります。彼女は、車内には入れません」

 言われてみれば確かに、女は長い両腕を伸ばしたまま、石像のように停止している。
 さっきまで、ボンネットの上で小さく揺れていたのに。

 それでも、やはり気味が悪い。
 じっとしている彼女の姿からは、何らかの意図を強く感じる。

「……いつまで怖がってるんですか、山城さん。いいかげん離れて下さい」

 立花さんはそう言うと、彼の身体を片手で押しのけた。しかし山城は、心底怖くて堪らないのだろう。それでも立花さんの腕に顔面を押し付けながら、離れようとしない。目前にいる彼女を見たくないのかもしれないが。

「落ち着いて下さい。私に電話をした時に、何かあったんでしょう? それを教えてくれませんか」
「……分かって、いたんです……」
 山城は、立花さんの腕に顔を埋めたまま、話し出した。

「交差点で出会った『彼女』が、私の家に現れるようになってから、体調が悪くなって。やつれてきたって、同僚にも、言われて……」
 それなのに――。
 会社に行くとき、彼女が見送ってくれる。幸せだなって、思ってたんです。
 でも、ふと見た鏡や、窓ガラスに……変な影が映っていて。それが、その……そこにいるボンネットの上の……女が……。


 山城は、呟きながら、黒茶色の塊――女を指差した。


「電話を、した時は……鏡に映っていたんです。その女が、私の……」

 私の頭を……、食べていたんです。
 慌てて、止めようとして頭を触ったけれど、何もなくって。実際の体は、傷ついてなんかないんです。
 でも、鏡の中で私は、どんどん食べられていて……。
 その女が、私の肩に足を乗せて、しがみついていた。
 鏡の中の私は、血まみれでした。頭が、女の歯にかじり取られて行くんです。見ている間に、どんどん、どんどん無くなっていって――。
 胴まで無くなった辺りで……電話、しました……。

「つーか、その茶色いの、どう考えても交差点の女ですよね。あんたと住んでるヤツ」
「違う! 彼女はあんなのじゃない! あんな化け物じゃ――」
 俺の言葉に、山城は物凄い剣幕で反論した。
「だって他にいねぇし……あれ?」
 反論しようと思って、ボンネットの上を見ると、いつの間にか女の姿がなくなっていた。

 ……なんだ? 入れないから諦めたのか?

「あー……良かったぁ」
 急に肩の力が抜けて、車のシートにもたれかかった。すると――。

 バァン!

 左耳が裂けるかと思うほど、大きな音がした。
 反射的にそちらを見ると、俺の目の前――車の後部座席の窓ガラスに、あの女が張り付いている。
 そいつの目玉が。俺を見つめている。
「うっ……!」
 かと思えば、黒目だけをぎょろぎょろと動かしはじめた。顔の位置は固定しているかのように微動だにしない。
 今まで長い髪で覆われて見えなかった顔面が、露になっていた。
 痩せこけた顔は生命力を感じさせない。それなのに、目玉だけがぎらぎらと、強い我執のようなものを放っている。
 青白く歪む唇。俺を見つけて、笑っていた。

 まるで、獲物を見つけたかのように。
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