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ロック陰陽師 作者:鑑祐樹
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第10話 電話

「洋館の部屋を案内するよ。丁度、姉が住んでいた部屋がある。家具があるから、そのまま使えるよ」
 立花はそう言うと、右の通路に爪先を向けた。
 その瞬間だった。涼やかな和風の着信音が鳴る。
「ああ、これは携帯の方だな。悪い、ちょっと待っててくれ」
 立花が懐から黒の携帯電話を取り出している。

 そうだ、携帯の事、忘れてた。早く携帯充電しなきゃな。
 解散のことでごちゃごちゃしてたから、バンドのメンバーから、着信やメールが来てるだろう。
 ふと横を見ると、退屈そうに片足をぶらつかせ、玄関に活けられた花を見てる雪華(せつか)が目に入った。
 唇を(くちばし)みたいに尖らせてる、すねてんのか? 
 子供らしいなと微笑みながら、視線をくるりと反対側に向けた。

 あれ?

 不意に見た立花の様子がおかしい。
 一言も喋らず、耳に携帯をあてている。それだけでは、別に大した事じゃねぇんだけど……。
 携帯から、がぁがぁと機械に混じる声というか、潰れた音が漏れ出していた。

 雪華(せつか)も異変に気がついたのか、振り返って不安げに立花を見つめている。携帯の相手が何を喋っているのか分からないが、かなりの音量だという事だろう。

 立花が、溜まらず携帯を耳から遠ざけた。

 聞こえた――。

 引き離された携帯から、異様な空気と共に漏れ出す男の叫び声。

「たすけてくれ――頼む……たすけて女、あぁぁ女おんなが――」

 全身が凍りついた。

 その声は、極限まで追い詰められた魂の叫びに聞こえた。
 切羽つまった危機感が、ぞくりと身体を震わせる。

 立花がもう一度、耳に携帯を寄せると「大丈夫、落ち着きなさい」と強い口調で言った。
 それから俺達に背を向けると、引き戸の奥に吸い込まれて行くように姿を消した。俺と雪華(せつか)は、その場に立ちつくすしかなかった。

 静寂の中に、ちくちくと柱時計の音だけが反響して聞こえてる。
 何だよ、あれ。良くわかんねぇけど……やべぇ感じなのは分かる。

 子供が怖がってんじゃね?
 俺が雪華(せつか)に、声をかけようとした瞬間だった。背後から、カラカラと軽い音と共に若い男が玄関に入って来る。
 黒のジャケットに灰色のパーカーとジーンズという出で立ちで、茶色の髪は短く自然体で流していた。全体的にがっしりしていて、力強そうだ。気が強そうな目をしてる、というのが第一印象だった。
「あれ? お客さんか?」
飛龍(フェイロン)お兄ちゃんお帰り!」
「ただいま」
 雪華(せつか)が言うと、微笑んでそう応えた。

 顔だけだと日本人と変わらないけど、名前からすると中国の人だろう。そういや、立花が留学生が居るっていってたよな。

「あの、俺は大神双牙といいます。今日から、この家で住み込みで働く事になりました」

 男は、今度は目線を俺に合わせて口を開いた。

「こんにちは、俺は黄飛龍(ホァンフェイロン)と言いなす。中国から来た留学生です。ここでホームステイさせて貰っています」

 「言いなす」ってすごく真面目な顔で真剣に言うものだから、顔がほころんでしまった。
 他は、ちょっと発音の癖があるくらいで、日本語を上手にあやっている感じだ。

「あれ、俺の日本語おかしい? 自信あるんだけどなぁ」

「いや、上手だよ。一箇所だけおかしいだけ」

 何となく、二人で笑った。それをきっかけに、彼と玄関先で話し込む。

 彼は十七歳の時にも、この家でホームステイした事があって、これが二度目らしい。
 話を聞いてると、個人的なホームステイみたいだ。今は大学生だそうだ。

 俺の方は、「大学落ちたんだよ」とか、「バンドをやってるけど解散予定」とかそんな話をした。
 向こうがガンガン質問してくるもんだから、こちらも応戦して答えてやった。

 雪華(せつか)が俺と飛龍の服を後ろから掴んではぐいぐい引っ張って来る。

「大神双牙さん、さっきの怪しい電話の事は?」

 あっ、ヤベ。そうだった。あれから、まだ立花は姿を見せていない。

 だからと言って、追いかけて行って良い雰囲気でもなかったんだよなぁ。だから、俺も雪華(せつか)も何となくここで立ち往生してたんだった。

飛龍(フェイロン)お兄ちゃん。変な電話が、旭お兄ちゃんの携帯にかかってきたの!」

 雪華(せつか)飛龍(フェイロン)にも説明した。
 俺も、閉ざされた引き戸を見つめながら、さっきのことを彼に話す。
「携帯から声が洩れててさ……切羽詰まった男の声で、助けてくれって叫んでたんだよな」

 あの男の声が脳内で再生され、ぶるりと身震いがした。

「見て来る」

 飛龍(フェイロン)が短く言うと、年期の入った床を早足で踏み鳴らす。
 それと同時に、まるで、会話を聞いていたと言わんばかりのタイミングで引き戸が開いた。
 ゆっくりと――。
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