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ロック陰陽師 作者:眞神 ユウ
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第10話 メール

「さぁ、山城さん。これで一先ず、あなたの恐れているモノは祓われました」
 立花さんは、少し大きめの声でそう呼びかけた。
「ただ、彼女は随分としつこそうだ。今後の為にも、お話を聞かせてください」
「は、はい」
 山城は、目が覚めたように、立花さんのほうへと近づいていく。
「ここは冷えるし、とりあえず、私の車へ移動しましょう」
「でも、窓が……あいつが……」
「今は大丈夫です。この駐車場よりも、車の中のほうが安全ですよ。守られていますから」

 山城の怯えた瞳は色を変える事はなかったが、立花さんに誘われるまま、車へと乗り込んだ。
 立花さんが運転席、山城が助手席、そして俺が後部座席へと乗り込んだ。今までずっと助手席だったせいか、何となく疎外感というか、不安に感じて辺りをうかがってしまう。
 またあの塊みたいなやつが出てくるんじゃないだろうなと、窓の外を確認するが、誰もいないようだった。
 すっかり冷えている車の中で、シートも冷たく感じられた。
 そうしている間に、前方から声が聞こえる。

「女……、女を連れて帰ったんです」

 全ての発端は、あの日から……と呟くと、山城は語りだした。
 長い話を。


 ……――会社帰りに、女を見ました。

 夜の七時を回り、空はすっかりと暗闇に染まっていて。
 毎日歩く交差点で、信号待ちをしていました。

 赤いランプが青色に変わって、周りの人は皆歩き出しました。だけど私は、なぜか動けなかったんです。どういう訳か、動く気になれなくて。
 私の横を、サラリーマンや、大きなバックを持った女子高校生が通り過ぎて行きました。でも、私はただ棒のようにたたずんでたんです。

 目線の先――。

 私がいる横断歩道の反対側に、女性が立っているのに気が付きました。
 長い髪と白いワンピースを風に揺らしながら――私の顔を見ると、彼女はにっこりと笑いました。

 あ、可愛いなって。思ってしまったんです。

 次の瞬間、私の足は横断歩道を渡っていました。
 あれだけ、動けなかったのに、まるで嘘のように足が前に進む。

 点滅する青信号――。

 彼女の姿はもう、見当たらなかった……。

 ああ、ぼやぼやしている間に行ってしまったのかな。
 ただの通りすがりだし、もう二度と会えない人だろうと思いました。

 でも、また彼女の姿を見る事になりました。

 ――私の部屋で。

「えっ、部屋に……」

 山城の会話を遮って、つい唇から言葉が零れてしまった。部屋にいたって、完全についてきてんじゃねえか。
 後部座席に一人でいるの、イヤなんだけど。立花さん、変わってくれねぇかな。
 あっ、山城が変われば良いんだよ。

「ああ、憑いてきてしまいましたか……」
 俺の心の声を代弁するように、立花が気の毒そうに呟いた。

 俺や立花さんが話しかけても、山城は虚ろな目でこちらを見て、頷くだけで――また、うわ言のように、続きを話し始めた。


 気が付いたのは、食事の時です。
 食事――といっても、一人暮らしだと何かと作るのも面倒なので、インスタントのカップ麺なんですがね。
 椅子に座り、パソコンを起動しようとしていました。

 液晶画面に反射し、何かが映っているのに気が付いたんです。

 長い髪、白いワンピース――。
 女の姿でした。
 起動していない液晶の画面は、真っ黒で。だから、その白い服はくっきりと映っていました。顔や表情までは確認が出来ないけれど――両腕を力なくだらりと垂らしていました。

 私の背後に……立っている。

 それも、すぐ後ろに。
 怖くて怖くて。
 ただ、ただ悲鳴を上げて振り返りました。

 でも、そこには。
 小さなテーブルを前に、ちょこんと座る女性がいました。
 液晶に映っていた姿は、確かに私のすぐ背後に立っていたのに。
 それは紛れもない、あの交差点の女性でした。
 艶やかな長い黒髪、均等が取れた顔立ちに吊り合う白い肌。

 彼女。
 私を見て、小さく微笑んだんです……。

 ああ、やっぱり可愛いな。

 そう、思った瞬間――私の目前にいたはずの彼女の姿は消えていました。

 どうかしてる。仕事続きで精神的に疲れが溜まっているのだ、だからあんな幻覚まで見るのだと、落胆しました。

 カップ麺を食べながら、いつものようにパソコンをチェックしはじめました。
 そしたら、メールボックスに、いつもと違うメールが来ていたんですよ。

 ……私ね、恥ずかしいんですが、友達がいないんですよ。だから、来るのは仕事のメールか、広告メールだけなんです。

 暇つぶしにネットのゲームで遊んだりして、そこで話す人はいますけど……そういう人って、友達とも言えないじゃないですか。私は、オフ会っていうんですけど――そういうのも、行ったこともないし。
 迷惑メールも、振り分けられているから、来ないんです。

 だから、そのメールのタイトルを――じっと、見てしまったんです。

 件名には……。 

『これからも、宜しくね』

 そう、書かれていました。

 ――それからです。彼女が私の部屋に住み始めたのは。

 初めは、たまに彼女の姿を見かける程度でした。
 ふとしたときに、気配を感じて振り返ると、ベットに座っていたり……帰ってくると、テーブルの前に座っていたり。
 すぐに消えてしまうんですけれど、いるんです。部屋の中に。

 おかしいんですよ。
 怖いことのはずなのに、いつの間にか、慣れてきてしまって。

 ――だんだん、当たり前になってしまって……。

 私は、アパートで一人暮らしをしています。自宅に帰ると、いつも部屋の中が暗闇で……でも。ある日、いつものように仕事から帰宅すると、消したはずの部屋の電気が煌々と付いていたんです。
 ドアを開けると、彼女がテーブルの前に座っていて、嬉しそうに「おかえりなさい」と私に言ったんですよ。

 それが、嬉しくて……。

 もちろん、彼女がその――幽霊だってことは分かってるんです。
 でもね、会話をするようになって……あっ、そうだ。メールも来るようになったんですよ。パソコンに。スマホには来ないんですけど……。


「スマホの方が、外でも見れるから、嬉しいんですけどね」
「……」
 俺は話を聞きながら、だんだん不快になってきた。 
 ――山城は、嬉しそうに説明していた。はじめの怯えた顔は何だったんだ。まるっきり意味が分からない。
 たまにチラチラと見える横顔が、半笑いで気味が悪い。まるで彼女の自慢話だ。

 立花さんの携帯にかかって来た、助けを求める電話。切羽つまった、危機感と恐怖の声。演技ではなかったはずなのに、忘れてんのかコイツ。
 それに――ウレシイか? 怖ぇだろ、それ。
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