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ロック陰陽師 作者:眞神 ユウ
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第1話 家出

長篇となります。どうぞ宜しくお願いします。
※2017/10/9に、大幅に内容を修正しました。
 ボーカルの裏切りにより、メジャーデビューが決まっていたはずのバンドがデビュー取り消しとなってしまった。
 突然の「僕、バンド抜けます」というメール。それっきり、電話も繋がらなくなった。ドラムが家まで行ったらしいが、すでに出て行ってしまったと家族に聞かされたそうだ。
 そのことをプロデューサーに伝えると、「ボーカル君の顔が良かったからね……悪いけど、今回のデビューはなかったことで」とのことだった。
 顔かよ!

 俺のベース、他のバンドメンバーのギターやドラムはどうでもいいってか。


 そのことを母親に報告すると、切れられた。
「だから大学受験しなさいって言ったでしょ!」
 俺も切れる。
「あんた、メジャーデビューなんて金持ちになれるわって喜んでたじゃねぇか!」
 大体、うちに大学行く金なんかねぇだろうが! そういい返すと、母親は額に手を当てて首を振った。
「あの人と離婚しなければ、私だってお金持ってたわよ」
 母親は一年前に離婚している。それからは、小さなアパートで、二人で細々と暮らしていた。
「大体、何で一人抜けたくらいでデビュー取り消しになるの?」
「だから……ボーカルの顔が良かったから、あいつが抜けるなら、プロの話はないって……プロデューサーが」
 俺もこんな説明はしたくないので、途切れながら答える。
 それを聞くと、母親は眉を吊り上げながらこう言った。

双牙そうが、あんただって顔は悪くないでしょ。あんたがボーカルやんなさいよ」

 彼女は金と顔にこだわりがある。特に金。

「ベースがねぇと音楽になんねぇよ。それに俺、ボーカルやるほど歌えねぇし……」
「あんた音楽やってるくせに歌も歌えないの?」
「うっせえよ!」
 さっきから怒鳴ってばかりで疲れて来た。相手も同じらしく、ずっと眉根を寄せてため息ばかりついている。
「再婚相手にも言ってあるのに、息子は音楽のプロだって……」
 その言葉にカッとなった。
「じゃあ出てってやるよ!」


 ――そう叫んでから、五時間が経過した。


 暗くなった公園のベンチに座り、プラスチック製の虫かごを胸で抱えた。ペットの金魚と水が、俺の震えと一緒に虫かごのなかで水音を立てている。
 少量の荷物が入ったバッグとエレキベースをその横に置くと、せまいベンチはぎゅうぎゅう詰めだ。
 昼間はわりと大きな公園なせいか、小綺麗に整備され、陽射しに照らされた緑の木々が輝いて見えていた。同じ場所だと言うのに、こうも違うのか。

 公園の灯りはすでに消えている。とっくに夜の十時を過ぎたらしい。今は背後の常緑樹も足元の雑草も闇に染まり、ぼやりとした輪郭しか見えない。
 公園全体に生気が感じられなかった。

「……三月の上旬って、こんなに寒いっけ……?」
 震える手でネックのボタンを閉めた。
 ライダースパーカーは気に入っているが、今の寒さを防ぐには荷が重い。ベンチを伝わり尻から迫り上げてくる冷たさが、さらに拍車を掛ける。

 手元の虫かごに声をかける。
「ごめんな、福子。帰る所ねぇんだ」
 金魚というには、やや身体の大きい福子に枯れた声で謝った。慌てて狭苦しい虫かごに入れたから、もちろんエアーポンプも無い。
 ただ『酸素を出す石』というものがあるから、それが入っている。これは一ヶ月くらいもつから、しばらくは大丈夫だと思うけど……心配になって顔を近づけて覗き込む。
 月の灯りが福子の姿を辛うじて灰色に映す。寒さのせいか、全く動く気配が無い。ただ、震える俺の身体の振動に合わせて、ぴちゃぴちゃと冷淡な水音を響かせるだけだ。
 なんで連れて来ちまったのかと後悔するが、今更どうにもならない。

「……今日は最悪の日だった」
 昨日は卒業式で、メジャーデビューが決まってたから最高の日だったのに。
 空いている手で、バッグに入れっぱなしだったデモ音源を取り出す。そのうち店頭に置かれるのかと、楽しみにしてたのに。そう思うと目頭が熱くなってきた。
 悲しさに背筋を丸め込んで、抱えていた福子を慎重に足元に置いた。

 ポケットから、携帯電話を取り出す。スマホはいまだに持っていない。強張った手で画面を開いたが、もう何度も開いた画面は相変わらず真っ暗で、変わる事はなかった。
 これでは電話も、ライト機能も使えない。

 冷え切ったベンチに死んだ携帯を放り投げると、寝かされてあったベースケースに落ちた。少しでも気が紛れればとケースに手をかけた、が――すぐに間違いだったと後悔した。
 アンプに繋いでいなくでも、弦を鳴らす音はする。
 メロディーを担当するギターと違い、ベースはリズムを担当する楽器で低音を出す。
 ダダダダダ……と、四弦から奏でる低い音が自分でも怖い。

 身体の芯が冷える寒さなのに、風がない。草木もなびかない。
「……? あれ?」
 何だ? 身体が動かねぇ……声も出ねぇ。
 高音の耳鳴りが、警報を鳴らす。
 今までの寒気とは違う何かが、全身を包み込もうとして来る。冷気が地を這い、じわじわと身体をよじ登って来る。
 ベースを抱えたまま、微動だに出来ない。どうにか動こうと、身体に精一杯の力を込めたが、指一本さえも動かない。

 金縛りか――?

 沈黙を破るように、叩きつけるような荒々しい水音が、足音から響く。福子が暴れてる! 福子に何かあったんだ。
 確認したくても出来ない。動けない。
 福子を連れて逃げなければ。助けなきゃ。助けなきゃ、福子が――。
 そう思っている内に、辺りを響かせた水音が消え――ベンチの上の携帯が、今まで聞いた事がない音と共に、一瞬だけ強い光を出した。
 やべぇ……来る。
 いや、もう来てる。俺は、『これ』を知ってる。

 ――思い出したくない。もう、治ったんだ。

 首筋に、何かが纏わり付いてくる。未だに視界は、真っ暗な上に動かせない。
 それなのに、それが何なのかが分かった。

 手が……――!

 見えなくても、『誰か』の指が首をなぞり、絡みついているのが分かった。それから耳元に、虫の羽音のようなものが聞こえた。ハエのようなものが、時折首や頬に当たる。
 気持ち悪い。吐き気がする。
 羽音と重なって、キーン……と、高音の耳鳴りが、けたたましく響く。
 金属音のようなソレは、先ほど聞いた耳鳴りとは比べようのない大きさだった。
「……!」
 苦しい。首を絞められてる。息ができない。
 『誰か』の指に力が入る。強烈な悪意を感じた。首に食いこむ。
 イヤだ……俺、まだ死にたくねぇ……!
 せめて、あらがいたい。そう思った瞬間、何かが――白く淡い光を放った。
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