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彼方からの声
作:古河新後



第4話:目覚めた世界で


「・・・たいして不味くないがな」

 配給施設の食堂でレイヴンは、シチューらしき黒い液体をぱくついていた。

 石造りの建物の中は、それなりの装飾が施されており、窮屈感を感じさせない配慮が感じられた。とはいえ現在、ここにいるのはレイヴンと、少し離れた所にいる老人だけである。

「いやー、まさか2人目のお客が来るとは思ってもみなかったよ」

 この食堂の管理者が上機嫌で新しく、なんか黒いお粥らしきものが入った器を運んでくる。

「この食堂の食料は、なぜこんなにも黒い?」

「お、よく訊いてくれたねー。実はこの中には、様々な栄養成分が凝縮されているからなのさ」

「詳しく聞かせてくれ」

「まず、蜂蜜だろ。滋養強壮の効果がある薬草をこれでもかと入れる。他にも○×▽Πとか、××の×とか、もうもりだくさんさ!!」

 普通の人間なら、決して食べ物として扱わないようなものの名前を自信たっぷりにスラスラと述べていく管理者だが、急にしょんぼりとなる。

「でも、どうしてかみんな食べに来てくれないんだよね・・・。こんなに、みんなの体のこと考えて作ってるのに」

 どうやら、自慢の栄養料理をお披露目できないのが、残念らしい。『そりゃ、そうだろ』と普通言うのだが―――レイヴンの舌も大概おかしかった。

「落ち込むな。初めて来たが、なかなかの味だ。また、来させてもらいたい」

「本当かい!?いやー嬉しいよ!やっぱり、そういう人が来てくれると、やる気が起こるってもんだよ!じゃあ早速、新レシピの制作を始めよう」

「期待させてもらっていいのか?」

「もちろん!君、最近ここに来たんだっけ?友達できたらまた連れてきてよ!」

「ああ、約束しよう」

「おいら、クックル=バレイ。よろしく!」

「レイヴン=ステイスだ」

 クックルが差し出した手をレイヴンが握り返す。変な味覚はいつの間にか友人関係を作り出していたりするのだった。


 一方、某喫茶店―――

「はぁ・・・・・」

 溜息をつきながらアルは、紅茶をすすっていた。堂々と鳴ったお腹の虫も、サンドイッチ3切れ食べただけでぴたりと鳴きやんだ。

「やっぱり、ひとりで食べるとねぇ・・・」

 ぼやきながら、最後の1きれを口に運ぶ。

「軽く後悔してる頃ね。あそこの料理のあまりのまずさに」

 実際は、変な味覚同士で友人関係が築かれていたりするのだが、それは彼女が知るところではなかった。

 質素な食事を済ませ、その場を立とうとした時―――

「こんちわー。しばらくぶりー」

 向かい側に、セーターにロングスカートの女性が挨拶とともに腰掛ける。

「アミーナ?」

「そう、私でーす。最近姿見なくなったから気になってたんだー」

 この明るいアミーナという女性は、アルがこの基地に赴任してきたときに【基地街】で出来た同年代で初めての友人だった。

 どうも、【基地街】創設当初からの人物らしく、この街について知らないことは、ほとんどないという。

「ちょっと仕事でね。退屈な5日間だったけど」

「そっか。その時に彼を連れてきたのね」

「彼って・・・レイヴンのこと?」

「レイヴンっていうの?なかなかカッコよかったよ。特にあのウェーブとストレートがいい具合に混ざった感じのショートカットヘアとか」

「どうも、記憶喪失らしくって身元もわからないのよ」

「ふーん。それで街を歩き回ってたんだ?」

「そうそう・・・・・・てなんで歩いてたの知ってるのよ?」

「へっへぇ。情報なんて5分で私の耳に入ったよ。『アルカイン=A=フィアレスが彼氏づれで歩いてる』ってね」

「彼氏じゃないわよ?」

「あっそうなの?基地内で付きっきりで看病してるって聞いたから、てっきり」

「ちょっと待って!なんで知ってるのよ!?」

「もう街中の噂よ?『あのアルに恋人が出来た』って」

「発信源はあなたでしょ・・・」

「あ、わかった?」

「何でそんな噂流すのよ!」

「だって、最近言い寄ってくる男また増えたんでしょ?表向きでも『彼氏がいる』てことにすればそんなのも減るでしょ?」

「だからって、なんでデリカシー0のレイヴンが・・・」

「デリカシーがないって・・・そう言われてみるとそのレイヴンって言う彼いないわね」

 アミーナが店内をきょろきょろ見渡す。

「配給施設でお昼食べるんだって」

「うそ!あそこに進んで行くのって、風邪ひいた人かファルドお爺ちゃんくらいじゃない!?」

「自分の食べ物は、自分で調達するんだって」

「なんというワイルドさ・・・だから珍しく小食なのね」

「普段、そんなにいっぱい食べてる?」

「ま、人の目からみたらね」

「ふーん。気をつけよ」

 そう言ってアルが席から立ち上がる。

「この後の予定は?」

「レイヴンとまた街巡り。記憶が戻らない場合この街に住むことになるからね」

「基地の中でアルの部屋に泊めてあげたら?」

「何で?」

「そこから、愛が芽生えたりするのよ?」

「泊めませんし、芽生えません」

「そーんな魅力的な体してるのに?」

「か、関係ないでしょ!?」

 アルが真っ赤になって、早足でレジへと向う。会計を済ませると、まだ座っているアミーナに別れを告げる。

「またね。アミーナ」

「ええ、また会いましょ」

 そう言って店を後にした。


                    ●


 同時刻、崩壊した某基地跡―――

 若い男が、機体のコックピットの中でこんな通信をしていた。

〈約束覚えてる?帰ったら真っ先にデートするって〉

 相手は金髪のナイスプロポーションな女性である。

「この胸にしっかり刻み込んでるよ」

〈本当?〉

「本当だとも。君との約束を忘れるときは、死んだ時ぐらいさ」

〈まあ!うれしい!〉

ピピッピピッ――――

「おっと、仲間からだ。また帰ってからな」

〈ふふっ待ってるわ〉

 そう言って通信が切れ、男は別の通信をオンにする。

「せっかく人がハニーと最後かも知れない会話をしている時になんの用かな?」

 気取った感じで、相手に話しかける。

『そのハニーとやらは彼女で何人目なんだ?最後の死を僕の手で迎えたくなかったらまじめに見張ることだ。ロイド=グレイアル』

 若いというより、まだ幼さが残る声が同僚に警告混じりに注意を促す。

「まあ、そうカッカすんなって。ちゃーんと警戒はしてるってルゥ殿」

『自分は真面目に働いている、と主張するわけだ』

「そういうこと」

『何かあって対応が遅れた場合、報告書には真っ先にお前が原因だと書いてやる』

「安心しろよ。地上、地中、空。全てにレーダーを巡らしてる。この基地がまだあった時と同等だ。俺様の守備範囲は広いんだぜ?」

 ロイドの専用機は、【ディオン】といい【オール・ガンズ】とは違い、戦争時代に開発された数少ない現存機である。全体のシルエットは【オール・ガンズ】に似るが、頭部センサーはシングルで、額にもうひとつ装甲に隠れたカメラがある。また、【オール・ガンズ】の比べ、全体装甲に隙間がなく。白いボディカラーも相まってより完成感のある機体だった。基本性能と索的能力が高く、後方支援を担当することが多い。

 その【ディオン】の直下では、作業員達が瓦礫の撤去作業を進めていた。

 数日前、この基地は正体不明の勢力に奇襲を受け壊滅に追い込まれた。

 戦争終結から15年たった今では、人々の関心は『平和』へと向かい始めていた。G・Fギア・フレームを所持する勢力は、ずいぶんと少なくなり、最新型兵器の所有は、各国の自衛軍と自分たちの所属する警察機関だけに限られており、厳重な管理の下に運用されている。つまり、現代において警察機構を攻撃し、なおかつそれを壊滅させるなど、そこらのテロリストには到底不可能のはずなのだ。

 しかし、目の前の光景はそんな常識が覆された結果として確かにそこにある。

『一体ここで何があったのか・・・』

「さあな。生存者がいれば―――ん?」

『どうした?』

「噂をすればなんとやら。生存者だ」

『本当か!?』

「【ディオン】の索的機能をそっちとリンクさせるから、見張りたのんだ」

『ああ、任せろ』

 【ディオン】が膝をつき、コックピットを開放する。

 医療班のテントでは、意識不明の生存者―――ソリス=J=フィアレスの口に酸素供給機があてられ、応急処置が始まっていた。

 そして瓦礫の中には、コックピットがこじあけられ、鉄くずも同然になった〈オール・ガンズ〉の姿。まるで主人を守って、こと切れたかのように大破していた。

 ロイドは、ありがとよ、という感じで眠りに就いた機体の装甲を叩いてやる。

「意識が戻ったぞ!」

 テントの中で喝采が響く。

 それを見てロイドはふっと笑い、静かに呟いた。

「どうやら・・・アルには、いい報告が出来そうだな・・・」


登場人物が増え、波に乗ってきた感じがしないでもありません。そろそろ、主人公機の出番をもってこようかな、と思う今日この頃です。ご意見・感想はぜひいただきたいと思っています。











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