梅雨を終えた向日葵の並木道は、初夏の太陽の下で輝いている。
僕の半歩前を彩が歩いている。
「夏だねぇ。」
「ああ、容赦なく暑いよな。倒れそうだ。」
「運動部なんだから喜びなさいよ。」
「いいよな、文芸部は図書室って結構涼しいし。」
いつもの掛け合い。
一年の時は冷やかされたけど・・・。
『ほっときゃいいのよ、すぐに飽きるわ。』
まったくその通りでした。
(それに・・・。)
僕は彩が好きだった。
だから、あえて変えようとしなかった。
いつから?そんなのは分からない。
昔から一緒にいて気が付いたときはもう手遅れ。
べた惚れなんだけど。
中途半端にかなり仲がいいので告白しづらい。
半ば公認といえども逆にきっかけが・・・。
「・・・どうかした?」
気が付くとまじまじと見詰めていたらしい。
「デリケートだから暑さに参ってたんだよ。」
「はぁ?何いってんの。むしろあたしの台詞だし。」
また、変わらない一日が始まってゆく。
その日は突然に訪れた。
いきなり家に来た彩。
「行くよ。」
有無を言わさずに手を掴んでどこかに向かおうとする。
母、曰く。
「頑張りなさい。」
フツーに家から放り出された。
学校の屋上には見知った顔がちらほらと集っていた。
梅雨明けが早かったので、牛飼い座流星群という聞き慣れない物が見えるそうだ。
「用事って、これか。」
振り返った彩は、当然という顔をしている。
「いいじゃん、こういうのも。いい思い出になるでしょ。」
「ま、いいんだけどね。」
(二人っきりならさらに。)
そういえば、彩は星を見るのが好きだったな。
去年もペルセウス座流星群を見たし。
午後十時頃から、微かな流れ星がポツポツと見えた。
天文部の部長は今回は当たりと言っていたが、それはとても弱い光だった。
ただその儚さが、蛍のような幻想的な輝きだった。
夜も更け、僕たちは学校に泊まる部活の連中と別れ家へと帰る。
自然と繋いだ手が嬉しかった。
なんとなく、言うのは今のような気がした。
やっぱり、この夏は恋人として過ごしたい。
「彩、好きだよ。」
考える前に、口をついて本題が出てしまった。
目をパチパチさせる彩。
「なんだよー、本気なんだって。」
「あのね、啓・・・。」
(・・・だめなのかなぁ。)
「すっごい、今更って感じだよね。」
「・・・は?」
「確かに告白してないけど、普通分かるでしょ。
ていうか、これだけべったりしてて嫌いなわけないじゃん。」
何考えてんの?と言わんばかりだ。
「・・・その、なんつーか。」
僕のほうが困ってしまう。
「・・・そっか。」
くっついてきた彩、戸惑ってるうちに抱きしめられキスされた。
「えへへ、こういう事?」
言葉に困ってしまう。
でも・・・。
ぎゅっと抱きしめる。
「それならそうと、早く言え。」
「困ってる啓が微妙にかわいかったし。えへへ、私も大好きだよ。」
告白の意味は確かにあったよ。
いつも、好きだと伝えられる。
夏休みに入っても、猛暑は続いている。
グラウンドでの練習を終え、僕は図書室に向かった。
「彩、帰ろう。」
「はーい、じゃ行こうか。」
いつも通りのやり取り。
「ねえ、明日の夏祭りどうする?」
「もちろん行く。」
「そうじゃなくて、私が聞きたいのは待ち合わせの場所と時間。」
「そうだな、鳥居に七時でどうかな?」
「うん、りょうかい。」
そしていつも通り、テレビや部活の話を続けた。
その会話に意味なんてない、ただ彩と話すだけで満たされる。
こうして今日も一緒に過ごしているのに、帰ると声が聞きたくなる。
(我ながらあきれるくらい、本気で好きなんだよな。)
そして受話器を取り、いつもの番号を押す。
十分前にも関わらず、鳥居の前には浴衣姿の彩が待っていた。
「遅い。」
「いや、むしろ早すぎだろ。」
「私より遅いと遅刻なの。」
腕を組んで、上目遣いに見つめてきた。
(かわいいな。)
「浴衣、似合っているよ。」
「ありがとう、惚れ直したかな?」
組んだ腕はそのままに歩き出す。
金魚すくい、射的に林檎飴。
一通り回ったところで花火が始まった。
「ちょっと移動しようか?」
祭りの喧騒から少し離れ、高台の公園へ向かう。
ここから花火が見える事に気付いている人は少ない。
ちょっとした穴場だ。
芝生に腰を下ろすと、彩が身を寄せてきた。
「・・・・・。」
「なによう、何か言いなさいよね。」
ちょっと拗ねたような、甘えるような顔でくっついてくる。
触れ合う肩に彩を感じる、それが心地よい。
微笑を返すと、照れて黙ってしまった。
大小様々な花火が空に輝く。
「あ、今のすごい綺麗。光の軌跡が流れてる。」
空に向けられた彩の顔は、物憂げで大人びていてドキッとしてしまった。
だんだんと打ちあがる間隔が長くなる。
祭りの終わり、楽しい時間にもいつか終わりがくる。
未来は分からない。
まだ、中学の僕らには不安が多すぎる。
やっと恋人になれたばかりなのだ。
だから・・・。
花火が終わる前に、そっと抱き寄せた。
「大好きだよ、これからも一緒にいよう。」
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