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大いなる古の背より
作:男里 翔舞



第三章・第一話:里へ……(前編)


 高原を超え谷を超え
 我はひたすら西へ行く
  友の敵の西竜を
 遥かな黄泉へ送る為
  (琥珀之西討伝 序章)


    ‡    ‡

 契約を結びし彼らは、自らの力を引き出す為に、それぞれの「里」へ戻ることにした…
 それぞれの目的を果たす為には、必要な準備だったからの…
 そこから、彼らの戦いは始まったのだった……

    ∽   ∽

 俺は、疾風(はやて)の背に登ろうと必死になっていた。
 あいつが乗れって言ったからこそそうしたんだが…
 鱗が滑るし、疾風自身が伏せてもかなり高ぇし…
 かなり登るのに時間がかかっちまった…
 結局疾風の足からよじ登って背中に乗ったが…
 鞍も無ぇのに飛ぶのかと思うと…正直不安だった…
 「…落ちねぇだろうな…疾風…」
 俺は思わず聞いた。
 [心配するな…]
 疾風はそう呟いた。
 「でもよぉ…揺れるだろ…?
 しかも…風圧とかかかるだろ…?
 本当に大丈夫なのかよ…?」
 [我が妖術にて周りに結界を結ぶ…風で飛ばされぬようにな…]
 「って…揺れの対処どうすんだ…!」
 「知らぬ…我の角にでもしがみついておれ…!]
 「ちょ…待て…まだ心の準備が…うわぁ…!」
 ………こうして、俺の初めての飛翔は始まった………



 黄金色の竜と俺は、不死の山から彼の故郷へと飛び立った…

 上からの眺めというものは、さほど悪いものでもなかった。
 いや、それどころか、かなり爽快だった。
 疾風の術のお陰か、風は俺の髪を(なび)かせる程度にしか吹かなかった。
 多少の揺れはあるが、逆にそれが心地良く、揺り椅子に座りながら映画の一部分に入り込んだ様に、飛び去る木々や川を眺めることが出来た…

 [どうだ…洋輔…?
 空を飛ぶのもなかなか良かろう…?]
 「ああ…最高だよ…疾風…!」
 俺はぎゅっと疾風を抱きしめた…というよりもバランスを崩してさっとしがみついたと言った方が正しい…かもしれない…
 [ふふっ…油断するでないぞ…ほれ…!]
 「ちょ…疾風…止めろ…止めろって…!」

  …予想以上に楽しい初めての飛翔は…
  思いがけない形で終わりを告げた…



 下方に、赤く染まる街が見えた。
 それと同時に黒い煙に包まれた。
 「な…何だ…?」
  [知らぬ…とにかく降りるぞ…!]
 「ああ…!」
 俺達は、ひとまずその街へと降り立った…

 決して小さい街ではなかった。
 あちこちにあるビルは窓が破れ、民家や小さな建物からは火の手が上がっていた。
 そして、あちこちに転がる血だらけの骸…
 銃を持った警官、子供を庇った母親、恐怖と苦痛でおぞましい形相の若者…
 その誰もに…何かに切り裂かれたかのような、噛み殺されたかのような傷が深々とついていた。

 [『(ぬえ)』の仕業だな…
 この傷は…]
 腹立たしげに尾を地面に振り下ろし、疾風が言った。
  「鵺…?
 あの、源頼政が射落とした、あの鵺か?」
 [左様…その鵺は小さな一族の長であった…
 だが…これだけの仕事となれば…]
 「…数が多いってか…?
 まぁ…ピストル持った奴さえもかなわねぇ位だからなぁ…」
 [彼らは素早い…
 如何に飛び具とはいえ、仕留めるのは至難の業…
 かなわぬとも不思議ではない…]
  そう言うと、疾風は警戒するように唸りながら、口元の髭を横一文字に伸ばした。
  それにより、辺りの妖力、殺気を感じるらしい。
  [辺りには居らぬらしいな…
  それとも、身を隠しておるか…]
  「…鵺…闇に溶け込む者…か…」
  俺は、辺りを見回した。

  ふと、黒い塊が目の前を横切った気がした。
  同時に、疾風が叫んだ。
  [洋輔!乗れ!囲まれておる…!]
  俺は、ひたすらに疾風に走り寄った。
 それに反応するように、黒い塊が次々と現れ、物凄いスピードで追って来やがった…

  まだまだ間に合わねえ。だが黒い塊の爪が俺の服を切り裂いた、その時だった。
  ふと、体が宙を舞った。
  そしてすっと、疾風の背に(またが)っていた。
  [時間が無い…我の妖術で手助けしてやる…]
  そう言うと、疾風と俺の周りに風が巻き起こった。
  黒い塊は動きを止め、ずるずると後ろに飛ばされた。
  [我…聖竜鋼牙の名において…契りより導かれし風を舞わさん…抄風刃(しょうふうじん)…!]
 そう叫べば…黒い塊は吹き飛ばされ…溢れる血が辺りを彩った…

 辺りには、猿の顔、虎の手足、狸の胴、蛇の尾の魔物が転がっていた。
 「これが鵺かよ…こんなのにこの街が落ちるなんて…
 ってか…強いな…疾風…」
 [使い馴れてはおらぬ技故…少々疲れたわ…
 人間は…脆い生き物だからな…仕方あるまい…]
 そう言うと、疾風は丸まり、うとうとし始めた。
 「ちょ…待てよ…里まで行かねえのか…?」
 [急ぐ旅でも無かろう………]
  そのまま疾風はぐっすりと寝込んでしまった………




俺達は、その焼け落ちた街で結局一日を過ごした。
[仕方無かろう…疲れておっては何も出来ん…]
それが疾風の言い分だった。
しかし…さっきまで化け物がうようよいた場所でよく落ち着けるもんだ…
俺はそう思いながら、懐のバタフライナイフを手に、眠れぬ夜を過ごした………



翌朝━といっても五時ぐらいだが━俺達は再び飛び立った。
日の光が差し込んで空が美しく色づく頃、警察のものと思われるヘリが町の上空を舞い始めた…
[元々は我等の空であったものを…]
そう呟きながら、疾風と俺は西へと向かった…


山を越え、街を越え、脇を通り抜けるジェット機に驚きながらも、俺達は飛び続けた。
昼頃には名古屋、京都、大阪を越え、二時ぐらいには目的の場所へとたどり着いた…
「疾風…お前意外と遅いんだな…」
到着の前、思わず俺は言った。
[ふふっ…普段は妖力の使用を抑える為に速度を落としておるだけのこと…
あのような鉄の塊…簡単に追い抜けるわ…!]
そう言うと、疾風は思い切りスピードを上げ、俺はたてがみを掴まねぇともう少しで吹き飛ばされそうになった………



竜使いの里…
そこはまるで時代劇に出てくるような、それでいて何とも不思議な…そんな印象を受ける街だった。
あちこちに藁葺きや板葺きの屋根の建物が並び、街の真ん中には大きな瓦葺きの建物があった。
あちこちから聞こえる人の声、鍛冶屋の音、馬の(いなな)き…
そして…あちこちを飛び回る竜達…
その全てが、不思議な世界観を作り出していた…

[良いか…?]
疾風は里に降り立つ前に、俺に話しかけた。
[里の者は礼儀にこだわる…最低限、竜と契約者に対する挨拶を教える…]
「ああ…分かったよ…
もし守れなかったら…?」
[最悪…里を追われる羽目になろう…]
俺はその言葉にゾクッとした。
まだ何もわからねぇ俺があの竜に追われるなんて…ごめんだ…
俺は真剣に、疾風の話に耳を傾けた…

[契約の時に十字傷を入れたな…?]
「ああ…こいつか?」
俺は手のひらを疾風に見せた。
[それだ…
その十字傷は竜と人間…即ち契約者を表す…
挨拶の際にはまず胸の前で左から右へ右手を振り、次に上から下へ振り下げ、左手のひらを打つ。
それで十字が書ける筈だ…
これが挨拶の基本だ…]
「こうか…?」
俺は言われたとおりにやった。
すると、何か手の先から軽く光が出た。
「疾風…何なんだ?この白い光…」
[その光はその者の属性を表す…
しかし…白とは…成る程…]
何やらぶつぶつ呟きながら、疾風は此方を向いた。
[挨拶さえ最低出来れば問題はない…
細かい礼儀は向こうで教える…
挨拶されれば返さねばならぬぞ…
後は、目上の者には敬語は基本だ…
私以外の竜にもな…]
そう言うと、疾風はすっと村の広場へと降りていった………



[沙羅殿はおられぬか…?]
疾風は、降り立つと直ぐに大きな瓦葺きの建物へと近づき、叫んだ。
「あら、疾風…久しぶりじゃない…
あんたも契約者を見つけたんだねぇ…良かった良かった…」
奥から━こう言ったら失礼だろうが━少し太めの中年女性が出てきた。
「岸城 洋輔です。一応…彼の契約者です。」
俺は軽く自己紹介してから、十字を切った。白い光が走った。
彼女は一瞬びっくりしたようだが、すぐさま十字を返した。赤い光が走った。
「…あんた…無属性かい…」
[ああ…こいつはどうやら…その様だ…]
疾風は軽く頷きながら言った。
「あたしの名前は福田 千枝(ちえ)…この聖竜堂の巫女だよ…よろしくね…」
そう言うと、千枝はさっと手を差し出してきた。俺はそれを握り返した。
「そうそう、沙羅だね…今は出かけてるんだよ…狩りに…
あの子…入族の儀があるかもしれないって言ったけど聞かなくてね…
言わんこっちゃない…」
[仕方あるまいな…いつ頃には帰られるだろうか…?]
「多分三時ぐらいかねぇ…出たのが昼前だしねぇ…」
[そうであるか…すまなかったな…
ならば此処で待とうか…洋輔…見せたい物もあるしな…]
そう言うと、疾風はさっと奥に入った。俺も続いて入った。


そこには、八体の竜の像が並んでいた。
それぞれ色が異なる木で彫られ、今にも動きそうな迫力だった。
[聖八竜…我々東洋竜の祖だ…
そして…この場所で入族の儀を行うのだ…]
疾風は軽く解説した後、さっと直立し、すぐさま伏せた。
どうやらそれが祈祷の仕方らしい。
俺はその様子をじっと見つめた。
祈祷が終わると、疾風は俺に軽く入族の儀の作法を教えた。
静かに正座すること…祈祷の際には頭を下げ十字を切れば良いこと…契約に使った刃物を差し出すこと…
その説明が終わったちょうどその時、三時の鐘が響いた………


後半何だか微妙だなぁ……
また暇な時に手直ししよう……











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