化粧
不思議だ……。
「なぁ、アネキ。何やってんの?」
「見たらわかるでしょ! 化粧よ化粧!」
「それは見たらわかる」
「じゃあ、何故聞くのよ!? ってか、あんた! 何故ここにいるのよ! ノックは常識だって言ったでしょ!」
そう俺は今、不思議な事をやっている姉の横から話し掛けている。
『ノックを知らない女が、何が常識だって言うんだ!』
俺の姉はノックをしない。俺の部屋に入ってくる時も、気が付いたら近くにいる。
「アネキがそれを言うか……」
「うるさいわねぇ! 邪魔よ、化粧の邪魔!」
姉に手でシッシッとされた。
「なぁ、何やってんの?」
もう一度、同じ事を聞く。
「化粧だって言ってるでしょ!」
姉はうんざりした口調で答えてきた。
俺も飽きてきたので、部屋から出る事にした。一言残して……。
「何故、パックの上に化粧してんだ? それが疑問なんだよなぁ」
「うるさいわねぇ! 練習よ! 練習! ってあんたが余計な事言うから、ミスったじゃない!」
ドア越しに何か怒鳴ってやがる……。
『ほっとこ』
「またミスったぁ!」
遠くから、悲鳴に近い声が聞こえてきた。
『知らない。知らない』
練習って……。何故パックの上から?