>ねぇ知ってる?
>コックリさんって、
>漢字で書くと、
>“狐狗狸さん”
>って書くんだよ。
>それとね、
>コックリさんね?
>途中で儀式を
>中断しちゃうと――
「ねぇ!みんなでコックリさんやろうよ!!」
わたしのその言葉が、発端だった。
「コックリさん?いきなりどうしたのよ、由美」
「そうよ。そんな怖いこと……」
「なんかあったの?」
親友の美姫、幸恵、亜依香が順番に尋ねる。
「それがさ!……わたしの好きなヒト……知ってるでしょ?」
「あぁ、福澤君ね?」
「おっ!噂をすれば……」
幸恵が指差され振り向いた先には、わたしの思いを寄せる、福澤 恭介くんが教室に入ってきたところだった。
わたしはなんだか恥ずかしくて、顔を背ける。
「や、やめてよ……!!でね?福澤君さぁ、最近、雪原さんと仲いいじゃない?」
「うんうん!もっぱらの噂だもん」
見ると、クラスで一番の美人さんこと雪原さんが、福澤君に話しかけているところだった。
二人が他愛ない話を楽しそうにしているのを見ていたら、なんだか胸が苦しくなってくる。
その上、二人共美男美女のため、余計に嫉妬心が深まる。
「そう……。だから……」
「だから、二人の心の中を見たいと。でしょ?」
「うん……。でも、コックリさんって、普通四人でするものじゃない?それで……」
「成る程〜。まぁ、わたしはいいわよ」
好奇心旺盛な亜依香が、最初に納得する。
「わたしも!」
「楽しそうじゃん」
続いて、あとの二人も納得する。
「みんな……。ごめんね」
わたしはすまなそうに謝る。
「気にすんなって!!用意はして来たの?」
「一応、本なんかで調べて用意してきたけど……」
「じゃあ、今日の放課後、教室に誰も居なくなったら、実験開始ね!!」
このときから、わたし達の悲劇は始まっていた。
「じゃ、始めるよ……」
「うん……」
「なんか緊張〜…」
「静かに。いくよ…」
わたしたちは、空になった教室の一角の机を借り、コックリさんの儀式を始めていた。
わたしはすっと息を吸い、十円玉に指を乗せた。
みんなも、無言でそれに続く。
「コックリさん、コックリさん。いらっしゃいましたら、お返事ください」
すると文字盤の上の十円玉がすーっと動き、鳥居から抜けて言葉を発した。
“はい”
「う、嘘っ……」
「本当だったんだ……」
「どうしよ……」
三人が声を上げる。
「静かに。続けるよ」
それを短く制して、わたしはコックリさんに対して質問を続けた。
「あなたは、コックリさんですか?」
わたしの頬に冷や汗が伝うが、それにわたしは気付かない。
十円玉が、ゆっくりと動き出す。
“はい”
今度は、誰も声を発しなかった。
教室の中はわたし達だけの筈なのに、まるで誰か他の人がいるかのように、悪寒が走った。
しかし、気のせいだと自分に納得させ、儀式に集中する。
「それでは手始めに、……福澤君には好きな人がいるか、教えてください」
全員が、息を飲む。
四人の視線の中、十円玉はすっと音をたてて移動し、文字を写した。
“い・る”
ドキリと心臓が跳ねた。
「…誰も動かしてないよね……?」
「うん……」
「わたしじゃない…」
「わたしも……」
四人で顔を見合わせる。
誰も嘘をついていないことは、その表情から悟れる。
「…………」
このときは、みんなのような恐怖感というより、驚愕の方が大きかった。
まだほかの三人がざわついているみたいだが、わたしは夢中になって質問を続けた。
「……では、その人は、誰ですか……?」
“ゆ・き・は・ら”
それを見たとき、わたしは反射的に立ち上がっていた。
「なによこれ!!」
「由美!」
「落ち着いて!」
「騒いだら駄目だよ!」
三人の声など耳に入らず、わたしは無我夢中で文字盤を破った。
「由美!!」
三人が止めに入るが、わたしの手は止まらない。
十円玉を投げ捨て、学校から駆け出した。
その途中、路地を駆けるわたしの背中を、一匹の狐が暫くじっと眺め、その後消えたことに、わたしは気付かなかった。
「嘘に決まってるわよ………。あんな予言。……そうよ、コックリさんなんかいるわけない……」
虚ろな目で川原に体操座りをしていたわたしは、壊れた人形かのように言霊を紡ぐ。
「コックリさんなんて……」
そこでプツリと、記憶は閉ざされた。
「「「「コックリさん、コックリさん。いらっしゃいましたら、お返事ください」」」」
“はい”
「キャー!!本当に動いた」
「誰も動かしてないよね!?」
わたしははしゃぐ少女らの声を聞きながら、形無き涙を流した―――…
>ねぇ、知ってる?
>コックリさんの
>儀式を途中で
>中断したら、
>コックリさんが
>怒って、
>自分と同じ
>コックリさんに
>しちゃうんだって。
>怖いでしょ?
>………え?わたし?
>……わたしはね…
…コックリさんだよ…
プツン―――…
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