トリック・オア・トリック
いつからだろう。日本でハロウィンが流行りだしたのは。
俺の家は菓子屋だから、両親は「特需」だと喜んで早出していった。
一方、俺は普段は話しかけられないクラスメートから菓子をねだられる面倒くさい日に感じていた。
せめて、仮装ぐらいしてこいよ。と言ったらねだる連中は減ったけど。
菓子屋の息子だからと言ってもいつも菓子を持っているわけでもないし。
非常用に飴をいくつか持っているくらいだ。その飴もほとんどが隣家の幼なじみ、ユズハに持っていかれる。
「おはよー」
高校に入ったにも関わらず、「カンタの寝坊が心配だから」とユズハは毎朝迎えにくる。
せっかくだからと、俺はハロウィンの菓子を用意して、忘れないよう玄関に置いていた。
「おはよ。なんだ猫耳なんかつけて流行りか?」
「とりっくおあとりーっく」
彼女なりのハロウィンらしい。
「イタズラしかしねーのかよ」
「うん。カンタにはいつも飴貰ってるからね」
そう言ってユズハは俺の肩をバンバンと叩く。
「イタズラ終わり!」
「痛いよ! それイタズラでもなんでもないから! ただの暴力だから!」
言って俺たちは学校に向かった。
ユズハは学校につくなり友達と「トリックオアトリート」と言い合い、菓子交換をしていた。
なんだよ。俺だってユズハにだけは今年も菓子を用意してたのに。
「とりっくおあとりっく」ってなんだよもう。
俺は天真爛漫で可愛い幼なじみがとろけるような顔で菓子を食う姿が好きだった。
甘太なんて名前でも、甘い物が苦手でも、菓子が嫌いになれなかったのはユズハのせいだ。
よその菓子なんて食べるな。
今日は俺の手作りだったのに。
その思いが自分勝手なのはわかっていた。
でも俺の菓子を食べて欲しかった。
今年は珍しく誰からも菓子をねだられなかった。
さすがに高校生だからなぁ。
興味も減ったか。俺のイライラが伝わってしまったか。
「将来は客商売なんだから笑顔笑顔」とユズハに言われる程度に強面になったからか。
でも、やたら振り返られた気はしたな。なぜだ?
「ただいま」
少し考えながら、うちの店の前を通る。
「ふふ、ユズハちゃんたら」
母の声が後ろから聞こえた。
「母さんどうしたの?」
「あんた、物理的にも鈍いね」
「ん? 足は速い方だぞ? 陸上部だし」
店の手伝いのために、部活を休んで早めに帰ってきたのにヒドい親だ。
「まあ、いいわ。さっさと着替えてきな」
俺は制服を脱いだ。
なんだコレ!?
肩に近い背中に紙がくっついていた。
『 ミツモリ菓子店のお菓子が欲しい方は店舗へどうぞ。
今年のハロウィンのお菓子はパンプキンシュークリームがオススメ!
なお張り紙はカンタに知らせないように! ユズハ』
「ユズハ!!」
隣に怒鳴り込むと、どうやって入手したのか俺の作ったパンプキンパイの包み紙が机に転がっていた。
ユズハはふにゃふにゃと柔らかい笑顔で
「カンタのお菓子おいしかったよ」
と言った。
弱った。だから嫌いになれない。