085.命がけの覚醒
「いつになったら、覚醒とやらは始まるの~」
つま先で床を蹴っている、オルドの苛立ちは濃くなった。窮地に立たされているのに、ペルソナは現れない。
時間稼ぎしても始まらないと思ったわたしは、彼のポケットの膨らみを凝視し、
「わたしを撃ってください」
「ん、これで?」
小型のレーザーガン、ご丁寧に最新式だよという説明付きだった。
「はい」
「自分から打ってほしいってさ。クレイジーガールだね~」
銃口が向けられた。レーザーガンの威力は知らない。胃の辺りに違和感があった。
「待ってください。もし、彼女の言っていることが本当であれば、殺してしまっては懸賞金が……」
一人が止めに入る。でも、
「だって、あの子が望んでいるんだからさ~びびってるの?」
オルドがそう言うと、逆らう気は失せたかに見えた。
「いいんだよね?」
「お願いします」
わたしは、わたしの声が聞こえなかった。
でも、心は落ち着いていた。
強いわたしが現れないのに。
ゲイリーがもがいていた、きっと助けようとしたのだろう。
引き金の音、ガラスを引っ掻いた音に似た銃声、レーザーに色はなく、左肩を貫いた。
出血するはずの液体が、熱で凝固している。
血と衣服の焼ける匂いが混合し、どこか他人事だった。
さらに銃声、ふくらはぎを貫ぬき、床に黒い跡を作った。今度は明確な痛みが現れ、たまらず膝を付いた。
遅れて肩からの痛みが襲ってきて、力が抜けていった。
「ねえ、変わってないんだけど~」
つまらなそうにオルドが言う。ペルソナはささやいてもくれない。自分の身が危ないのを悟った。
「す、もうすぐ、ですから」
「女の子をいたぶるのって……楽しいよな~」
歩み寄ってきた。
こんな時に意識がもうろうとしてくる。
銃口がこめかみに当たった。
「嘘付いたから、遠慮はしないよ~」
もう避ける気力が残っていない。
喉が詰まって、悲鳴どころか言葉も出ない。
景色が回りだした。視線が百八十度反転する。目を閉じた。
気持ちが揺らいだ。目的を忘れ、状況を忘れ、残ったのは……
――お父さん、お母さん、皆、待ってるね。
あるのは死ぬ、覚悟だった。
高望みはしないから、ゲイリーさえ助かれば。
「死ね」
楽になっていた。痛みも消え、精神力も充実している。
死んだら無になるなんて、迷信だったのかな、本気で悩んだ。
息をしている。――現実の世界?
それに背中を支えている手? が温かい。温もりに包まれている感じ。
「良く耐えましたね」
わたしは恐る恐る目を開いた。温かい眼差しがある。つるつるの肌にかわいらしい顔。中性的な男性が持っている眼差し。
「誰ですか?」
「ゲイリーですよ」
――やっぱ別世界?
「うそ?」
――どうみても……二十代の男性なのに? 同名の人物?
「ごめんなさい。わかりません」
「我々は運よく覚醒したようです。フィッツロードの能力にです」
『我々』、すごく懐かしい響きに聞こえた。
「じゃあ、ゲイリーの別人格って……あなたですか?」
「ええ、一時的に若がえったらしいですね。初めての体験ですから、我々も驚いていると言いますか」
照れ笑いしてくる。その屈託のなさは美少年が含まれ……得体のしれないものが胸を打った。
「生きてるの?」
「そうですよ。回復もしておきましたから、立ち上がれるはずです」
穴が開いた服の上からそっと傷口に手を触れる。無かった。
前方にはオルドとゲイリーを囲んでいた男達が倒れていた。
「どうも力余っているらしく、彼らを生かす程度に攻撃するのが大変でしたよ」
「はあ」
立って見ると、ゲイリーの体格と変わらない青年だった。
「性格も、あまり変わっていないみたい、ですね」
「はい」
沢山の足音が聞こえてきた。
「出ましょう」
ゲイリーは手のひらを前に付きだしたかと思うと、大きな窓が跡かたもなく破壊された。
「さあ」
わたしの手を掴んで走り出す。
躊躇いもなく、窓があった空間から飛び降りた。
空中でわたしを背負う体制になった。
「しっかり捕まっていてくださいね」
着地から助走を付け、塀を飛び越えた。
「す、すいません。おろしてくれませんか?」
屋敷の男達が飛び降りてきた。走り出しながら、
「正面の門に仲間がいるので」
「わかりました」
わたしが先頭で塀を半周し、そこにオルージュ、パーグル、ダイリーが控えていた。
「あれ、どうしたの?」
「話はあと、すぐに逃げて」
竜が鳴き声をあげた。パーグルが、
「少しなら全員乗せれるってさ」
と通訳する。ダイリーは身をかがめ、背中に乗っていく。最後に、
「ゲイリー?」
元の姿になっていた。
「ん、我々の顔になにかついていますかな」
なんでもない、そう言うと離陸した。
屋敷の高さに到達したところで複数の銃声が向けた。
「おい、ダイリー!!」
ゲイリーがそう叫ぶ。でも銃声は止まらなかった。
屋敷から離れていく。
子供のように愛しているモンスターが、銃に当たってもびくともしない状態で、困惑していた。屋敷の男達も混乱しているに違いない。
オルージュはダイリーの全身に攻撃結界がはられているのから練っていた策を説明した。
わたしがおとりになり、二人が搬送されるところをダイリーが空から救出する。と同時にオルージュが用意した煙幕でかく乱する。もし計画が変更になった場合、普通の人間では聞きとれないパーグルの声と判断でダイリーにも伝えようとしていたのだ。
「そうでしたか。いやはや、生きた心地がしませんでした」
「ゲイリーを攫うなんて、相当な実力者だったね?」
口にしてみて、改めて逃げ切ったのがどれほどすごいのかを実感した。
「いえいえ、後ろから不意打ちを食らったので。正当な勝負だったら負けていませんでしたよ」
「強がっちゃって」
オルージュが言う。
「ばれました?」
ゲイリーはおどけた。
「てか、シエナミ、一人でゲイリーを救出するなんて、たいしたものだわ」
「いろいろあってね」
そう、はぐらかした。目の前で場所を指示しているゲイリーが覚醒し、助けてくれた思い出は、なぜかもうちょっととっておこうと思った。
わたし達をおろしたダイリーは、すぐさま空へと羽ばたいていった。
「まだ、安心できないわね」
宿に停車してあった自動車で出発した。
海沿いの街の景色が遠ざかって行った。
「ありがとう、ゲイリー」
「当然の行いですよ」
「のろ気は良いから、続きを話しな」
「なんの続き?」
「のろ気は否定しないのかい。って、とぼけるんじゃないよ。屋敷でなにがあったのか、どうやって逃げたのか」
パーグルも便乗してきた。わたしが困っていると、
「このジョブは便利ですね。国に追われてるきっかけであったのに、今や感謝していますよ」
ゲイリーはしみじみした感じで言った。自分の窮地では現れてくれないもう一人の自分、ちょっと考えてから、
「便利だね」
と言った。
その後、オルージュとゲイリーの口喧嘩が始まった。
下記URLに112話までの異世界MAPを載せています。登場人物リストも追加しました。
随時更新していきますので、参考にしてください。
http://plaza.rakuten.co.jp/kyouriyoshi/2004
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