084.屋敷の拷問
絶対に冗談を言っているんだ。わたしを起こすために。
メンバーのなかでも、ゲイリーが一番しっかりしているし、誰かに攫われるなんで……だって歳もいってるし。
本当だったら、もっと深刻そうにするものだと思う。これが男を手玉にしてきた嘘なの? と考えていたら、眠気が吹き飛んでいた。
「支度するから外で待ってて」
「早くしてね~」
鏡に映った自分の顔は、引きつっていた。頬をあげようにも、邪魔をする筋が皮膚の内部に住みこんでいるかのようで、寝癖の付いた髪の毛が気にならなくなっていた。
明らかに鼓動が高鳴っている。
寝起きのぼやけた感覚がない。
わたしはパーグルに留守番を頼み、急いで出口に向かった。
オルージュは床に腰をおろしていた。
「ペットちゃんは一緒じゃないんだね?」
「うん、ゲイリーがどうなったか、詳しく聞かせて」
「歩きながら言うわ。これを被って」
服の中から、耳まで隠れる毛皮の帽子を取り出し、勧めてきた。サイズが大きいのか、目元まで隠れる。
「似合うわ。行きましょう」
確かに外は冷えるものの、薄着のオルージュが被るべきじゃないのかとも思った。帽子の意味は、その時まったく知らなかった。
宿を出て、街灯が灯る人気のない通りを歩いていると、口を開いた。
「あのおっさんもフィッツロ―ドだったとはね……」
「そう、本人は端くれですって言ってた」
「カーバインで問題を起こしていたそうじゃないか。懸賞金がかけられている」
オルージュが指を差した場所に、ポスターが貼られていた。
駆けよった。
ゲイリーの顔がアップで、わたしの顔も遠くで映り込んでいる。
捕まえたら懸賞金50万ドーン、これでは犯罪者扱いだ。
「ひどい……襲ってきたのは向こうなのに……」
「あなた達が悪さしないことぐらいわかっているよ」
と宥め、わたしの頭をなで、いきさつを説明してきた。
オルージュは酒場で飲んでいる時、他の客が話をしているのを聞いた。ポスターの犯罪者が捕まったという話、慌てている様子を悟られないよう、そっと店を出て、このポスターを見つけたのだ。
「言いにくいんだが……」
オルージュは唇を引っ込めた。
「どうしたの? 教えて」
「捕かまえた奴が、ここでは有名な組織らしい。実力者の集まりで、国からも一目置かれている。しかしやっていることは正義の仮面を被った悪なんだ」
偶然居合わせた客からの情報だというから、かなり知れ渡った話なのだろう。ゲイリー程の実力者が、いとも簡単に攫われるのならば、レベルも計り知れない。悪の組織、話で聞いたこと位しか。
「……そんな」
「懸賞金をかけている国に売り渡すのが常識だけど……」
「この内容だと殺しはしないでしょ?」
幸いと思っているのが残酷な言葉だとは知らず、
「ゲイリーが死んだら懸賞金もらえないもの。悪の組織だって知っているはず」
「でもな……」
オルージュが躊躇っているのは、きっとわたしの思いつく点と同じだと思う。
「ゲイリーを痛めつけて、わたしの居場所を聞きだそうとするに違いないよ」
彼女の肩をゆすり、組織の場所を知っているのと問いかけた。目線を反らされた。
「ねえ、知っているんでしょ? お願い! 教えて!」
「しっ、大きな声だすんじゃないよ」
そう言われ、地べたに座るよう、誘ってきた。
「国に引き渡されたら最後だから。時間はないと思う」
「なら、早く行かないと」
「落ち着いて。策があるんだ。上手くいけばきっと助けられる。それにはシエナミの協力が必要なの」
策を聞き、パーグルも呼んだ。街に入るので危険にさらされているダイリーも。
「その呪文はダイリーにつかってあげて」
「しかしシエナミも危険な目にあう……」
「わたしは大丈夫。命までは狙ってこないから。それに、二回使ったら効力薄まるでしょ?」
じっくり考え、
「何かあったら悲鳴を上げるんだ。いいわね?」
オルージュはさっき訪れたらしい屋敷の門前には、いかにも用心棒らしき体格の良い男二人が立っていた。
短髪を立てている男、額に傷のある男、警戒しないで歩いて来るわたしを見て、鋭い目になった。
「ここをどこだか知っているのか?」
額に傷のある男が声をかけてきた。
「はい」
「子供がうろちょろする場所じゃない」
「用事があるんです」
「はぁ~」
二人で爆笑しだした。
「わたしはフィッツロードです」
笑い声はぴたりとやんだ。
「おいおい。なめてるのか?」
声が荒っぽくなった。
「違います。捕まっているゲイリーさんと会わせてもらえればわかると思います」
短髪を立てている男はわたしの背後にまわり、腕をとり、手の甲が背骨に当たった。関節に響く痛み、我慢した。
屋敷の中に入り、レッドカーペットが敷き詰められた廊下から階段を上った。
鋭い視線、不気味な笑いを受け、震えを抑えるのがやっとだった。
階段を上った先に扉、そこにも用心棒らしき男が立っていて、前を歩いていた短髪を立てている男が耳打ちで事情を話した。
扉が開く。
「失礼します」
ゲイリーが居た。
手足を縛られ、あちこちから血を流している。
囲んでいる四人の男たちの隙間からわたしをチラっと確認し、瞬間目を見開いた。
「オルド様、報告致します。彼女がフィッツロ―ドらしく、こいつに合わせればそれが証明できるとおっしゃっております」
ゆったりしたソファーで足を組んでいる男に、短髪を立てている男がそう言った。
「あらま、これは運がいいね~」
ちっとも信用していない態度。あまりにも気の抜けた声に足を滑らしそうになりながらも、
「ゲイリーさん」
と呼んだ。わたしの正面に大きな窓、オルージュの言った通りだ。
「知り合いかい?」
「違いますよ。この様なお嬢さんとは面識ありません」
「えっ?」
ゲイリーの背中に蹴りが入った。
鈍い音がし、前のめりで苦しそうな息をしている。
「止めて! ……ゲイリー、何を言っているの。わたしよ」
身を起こしたゲイリーは、咳払いし、血の付いた唾を吐いた。
「人違いされているんでしょうな」
痛々しい笑みをしてから続けた。
「いくらあなた達であろうと、かわいらしいお嬢さんまで攫うのは犯罪ですよ。我々が密告すればあなた達だって捕まる。直ぐに帰してください」
「クックックッ」
奇妙な笑い声を上げたオルドは、ゲイリーの目前に立った。
「可笑しいな~。薄々気が付いていると思ったんだけど、期待して損したな~。フィッツロードのおっさんよ。この組織は国と繋がっているんだよ。多少の悪さをしたって帳消しだ」
そう言い終わる前に、ゲイリーの頬に拳を叩きこんだ。囲んでいる男達も攻撃を加える。
「止めて、お願いです!」
オルドは手を止めるよう命令し、白けた顔で向かってきた。
「どっちが嘘をついてんのかな~?」
「わたしが覚醒するのを証明します」
「生でか、いいね~」
オルージュの策とは違った流れになっていた。でも、他に方法も、なかった。
下記URLに112話までの異世界MAPを載せています。登場人物リストも追加しました。
随時更新していきますので、参考にしてください。
http://plaza.rakuten.co.jp/kyouriyoshi/2004
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