続・変態生徒会長とオレ。(9/82)PDFで表示縦書き表示RDF


続・変態生徒会長とオレ。
作:木立久美子



いつだって常識人ばかりが苦労する。(前)


「遼平に会いたい…」

 拗ねた顔で椅子に座って、子どものように足をぶらぶらさせている友人。
 そんな彼をちらっと横目で見やりつつ、生徒会執行部書記長――…鳴沢涼は、盛大な溜め息を吐き出した。

「渡瀬。それ、何回目だよ」

 おそらく、通算16回目の溜め息。





「ったく…透、わがままを言うな。いったい誰のために、こんな今まで類を見ないほどのハイスピードで仕事を片付けてると思ってるんだ」
「あーハイハイそうですねー言い出しっぺはボクですねー自分勝手なことばかり言ってすみませーん」
「…ふてくされるのか謝るのか、どちらかにしろ」
「ふてくされてないもーん誠心誠意で謝ってるもーん。キリヤのバカバカばぁーか」
「おい涼。どっかそのへんに、人を殴り殺せそうな鈍器とか金属バットとか置いてないか?」
「置いてないよ…っていうか落ち着け2人とも!」

 今にも本気で殺人事件が起きてしまいそうなほど張りつめた空気の中へ、鳴沢は顔面蒼白で飛び込んだ。
 まったく。こいつらの言い合いは、たまに本気なのか冗談なのか分からなくなってしまうから困る。
 ケロリとした顔で「冗談だ」などと のたまう桐谷に、鳴沢はどっと疲れた表情で肩を落とし、そのまま大きく溜め息を吐き出した。…あ、17回目。

「頼むから、下級生たちがいる前ではやめてくれよな。執行部トップがこんな状態じゃあ、委員会の志気まで下がっちゃうよ」
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ、涼。キリヤの外面の良さは天下一品だから。みんな、面白いぐらいにコロッと騙されてるし。2年生は、うすうす気づき始めてるみたいだけどね。まあ、口の堅い連中だから問題ないでしょー」
「…頭が痛い」
「あははっ、バファリン飲む?」
「いらない!」

 暗い気持ちを振り払うように大声を出して、鳴沢は書類の束をバサッと渡瀬の前へ置いた。
 一般生徒や各委員会からの要望、そして次の校内行事の企画案だ。膨大な量だったが、もともと資料作りの得意な鳴沢は、小1時間もあれば全部きれいにまとめてしまう。

「んー、さすがだねー。うわぁ、わざわざ表やグラフまで使って…わかりやすーい」
「賛辞はいいから、さっさと目を通してくれよ」
「はいはい」

 割と素直に、渡瀬はパラパラと書類を繰りはじめた。
 打って変わって真剣な表情。
 意外かもしれないが、渡瀬はもともとこういう仕事が好きなのだ。スタートするまでに時間は掛かるが、一度仕事モードに入ってしまえば、彼以上に頼りになるリーダーはない。その集中力の高さと管理・処理能力において、渡瀬透の右に出る者はいなかった。

 その、渡瀬が紙をめくる音と、隣で桐谷が書き物をするカリカリという音以外は、一切の物音がしなくなる。しんと静まった生徒会室を見渡し、再び渡瀬の方へ目を戻した鳴沢は、先ほどとは別の理由で小さくフッと息を吐く。

 そうやって黙っていれば、緒方遼平にあそこまで嫌われることもないんじゃないだろうか。

 ふとそんなことを考えた鳴沢は、急に目の前のこの友人が可哀相でたまらなくなってきた。
 どうして、別の方法を思いつかなかったんだろう、彼は。
 あんなふうに無理矢理せまったりせずに、少しずつ近づいていけば、緒方だって彼の方へ歩み寄ってきてくれたかもしれないのに。

「もったいないよなぁ…」

 小声で呟くが、書類に集中している渡瀬と桐谷の耳には届かなかった。
 ―――…本当に、もったいない、と思う。 

 渡瀬は元来きれいな顔立ちをしているし、同性の目から見てもその美貌は賞賛に値する。
 特に、普段から潤いの少ない男子校では尚更だ。彼のように貴重な美少年タイプは周囲から持てはやされるし、実際そのとおりだった。我が校に、渡瀬透を嫌う生徒など存在しない。

 1年B組、緒方遼平。
 ただひとりを除いては。





 
「…うん。だいたい分かった」

 やがて書類から顔を上げた渡瀬は、満足げに微笑む。
 いつのまにやら書き物を終えていた桐谷が、じゃあ確認するぞ、とその手から書類を受け取る。


「体育委員会の予算不足について」
「んーと…広報委員会と応援団の分配金が少し余ってるみたいだから、そっちを回そう。去年の繰越金も残ってるし、特に問題はないよ。ただ、上乗せした分の予算を何に使うのかは、後で詳しく報告書を出してもらわないとね」
「わかった。そのように伝えておく。…じゃあ次、生徒会選挙の仕組みについての意見」
「ああ。それはボクらだけで処理するわけにはいかないから、今度の生徒総会で議題にしよう。三学期の選挙までに間に合えば大丈夫なんだし」
「了解。次、校則の緩和について」
「えーっと…確か、前回も似たような意見があったよね。――…涼、ファイル取って」
「はいよ」

 棚から青いファイルを取って渡瀬に手渡してやり、鳴沢は内心で苦笑した。

 こういう真面目なところを、緒方にも見せてやればいいのだ。
 そうすれば、彼の渡瀬に対する考え方だって変わるかもしれない。

 ―――…そう理解していながら、そうすることが出来ない渡瀬。
 器用なのか、不器用なのか。どちらにしろ可哀相な奴だ。

 胸が締めつけられるような思いがして、鳴沢は溜め息を吐き出す。18回目。


 まったく。
 友人の恋には、首を突っこむものじゃない。

 自分まで、つらい思いを味わわなければならないから。




 <後編へ続く>












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