続・変態生徒会長とオレ。(59/79)PDFで表示縦書き表示RDF


続・変態生徒会長とオレ。
作:木立久美子



イロコイ文化祭。(6)


 校門から校舎までの並木道にはいくつもの模擬店が並び、お客さんや生徒達の楽しそうなざわめきがずっと聞こえている。その人波は、中央棟とクラブハウスの間にある中庭まで続き、そこに置かれたベンチは既にカップルや親子で埋まっていた。
 昨日に引き続き、空は快晴だった。秋とは思えぬ暖かさで、上着を脱いでも平気なぐらいだ。

 そういえば先ほど擦れ違った生徒達が、

「やっぱ温暖化の影響かなー」
「地球やべーな」
「でも寒いよりマシだよなー」
「そーだなー」

 と、少し微笑ましいような馬鹿らしいような会話をしていた。
 思い出すと笑えてくる。昔は自分もあんなふうだったのかと、年寄りのようなことを考えて目を閉じた。
 懐かしい、母校の匂い。
 ゆらゆら揺れる並木道の木漏れ日も、ひっかき傷や落書きだらけの壁も、後輩達の笑い声も懐かしい。

 今日は使われていない第2体育館の入り口前に腰を下ろし、小さく息を吐いた。
 信じられない。1年前―――…いや、半年ちょっと前まで、自分がここにいたなんて。

 ぼんやりと空を仰ぐと、碧色の雲が風に乗せられ、ゆっくりと流れていった。
 穏やかな秋の空。あたたかい母校。
 懐かしい友。かわいい後輩達。

 何1つ変わっていない。
 きっと変わったのは自分だけなのだ。
 過去から目を背け、必死に逃れようと足掻いているのは、きっと―――…。




「こんなところにいらしたんですね、花瀬さん」



 突如、凛とした声が響いた。
 聞き覚えのある、甘く落ち着いた女の声。
 思わず目を見開き振り返ると、やわらかそうな髪がふわふわと風に揺れていた。
 品良く整ったその顔には何の表情も浮かばず、ただ真っ直ぐに自分を見つめている。 


「君は…」

「随分と探しましたわ。てっきり校舎内にいらっしゃると思ってましたのに」

 
 彼女の声は記憶の中のそれと全く変わらない。
 今時の女子高生にしては酷く丁寧で、それでいてどこか高圧的な口調。
 我に返った花瀬は、その懐かしさに思わず笑ってしまった。

「久しぶりだね、宮子ちゃん。元気だった?」

「やめてください。宮子ちゃんだなんて馴れ馴れしい。私を名前で呼んでいい男は、家族以外で宗吾だけです」

 憮然として言い放つ。
 そんな態度ですら懐かしくて嬉しくて、花瀬は緩んだ表情を引き締めることが出来なかった。

「相変わらず手厳しいな。そういう毅然としたところも好きだよ」

「そちらこそ、相変わらず口説き文句がお上手ですこと」

「唯一の取り柄なもんでね」
 
 肩をすくめて、花瀬はゆっくりと立ち上がった。
 ジーンズの埃をぱんぱんと払いながら、彼女の後ろを見やって目を細める。
 異様な光景が広がっていた。

「…なんだい、物々しいな。お嬢さまってのは、お供がいないと出歩けないのか?」

「今日は特別ですわ」
 
 そこで初めて、彼女はクスリと笑みを浮かべた。
 女子高校生には不相応な自信に満ちた表情。
 白磁の肌に、弧を描いた薄紅色の唇がよく映える。

「―――…ご安心を。今年は、去年のようにはさせません」

 私の名誉に誓って、ね。
 そう呟いた彼女の背後には、スーツを着た強面の男達が、従属するかのように控えていた。











「で、なんでオレたちがお化け屋敷に入らなくちゃいけないんですか…!」

 あのあとオレと竹下は、天宮兄弟に引きずられ、2年C組の教室前までやってきた。
 そして何故か、問答無用でお化け屋敷の中に放り込まれそうになっている。

「往生際が悪いね。怖がりすぎだよ」
「すっごく楽しいのになぁ。俺達のお化け屋敷」

 どうやら2人はオレたちを逃がさないつもりらしい。
 仲直り記念に遊んでいきなよっつーか遊んでいけ。と言ってオレの腕を放さない皐月先輩に対し、五月先輩はさりげなく竹下の背後に立って逃げ道を塞いでいた。双子の微妙な性格の違いがよく現れている行動だ。

 目の前にある2−Cの教室は窓という窓に暗幕がかけられ、扉から首を突っ込んで覗いてみても、中は何も見えないほど真っ暗だ。入り口の横にはミイラ男が立っていて(おそらく2−Cの生徒の仮装だろうが、先ほどから微動だにしないので少し不気味だ)、本物のお化けが出て来そうな雰囲気は充分だった。

 お客さんは一本ずつペンライトを渡され、それを頼りにゴールを目指し歩いていく。広めの教室内は板で仕切られて、迷路状になっているらしい。

 正直言って、あまり暗闇が得意ではないオレは、どうにも気が進まず扉の前でぐずっていた。入らずに済むものなら入りたくない。っていうか双子を押しのけて今すぐ逃げたい。
 ちらりと隣に目を向けると、どうやら竹下もオレと同じ気持ちでいるらしく、顔色があまり優れなかった。どうにか逃げられないものかと、双子の隙をうかがうように視線をあっちへこっちへ動かしている。

 そんなオレたちに対し、双子は眉ひとつ動かさずグイグイと背中を押してきた。

「いいじゃん、ちょっとくらい」
「人助けだと思って入ってよ。お客さんが少なくて、みんな暇してるんだよ」

「だからって、なんでオレたちが」

「ごちゃごちゃ言わない。少しはうちの売り上げに貢献してよね」
「さっき止めてあげたでしょ。ジュースも買ってきてあげたじゃん。それのお礼くらいしてくれても良いと思うんだけどな」

「「…」」

 そう言われちゃあ、断ることが出来なくなる。
 先ほどの缶ジュース代プラス手数料といい、双子は結構お金にがめつい。

 ってか、手数料まで取ったくせにまだお礼を求めるのかアンタら。


 オレと竹下は顔を見合わせ、仕方ないなぁと頷き合った。まぁ確かに、他には特に行きたい場所があったわけでもないし、お腹は少し減っているけど、ちょっとくらい先輩たちのところに寄ったって別に構わない。
 昼飯は後でゆっくり採ればいいだろう。
 それに、今ここで断って双子の機嫌を損ねる方がはるかに面倒くさい。

(我慢できないほど怖いわけじゃないしな…まぁいいか)


「わかりましたよ。入りますよ」
「お手柔らかにお願いします」

「おお、さすが我が後輩達」
「よっしゃー2名様ご案内ー」


 皐月先輩が口に手をあてて言うと、入り口の横に立っていたミイラ男がズズズと動き(竹下が隣で小さな悲鳴を上げた)、教室の中に向かってカランカランとベルを鳴らした。多分、中にいる脅かし役の生徒達に、お客が入ることを知らせるためのものだろう。

 な、なんか、ちょっとびびってしまう。

「お…緒方ぁ…」
「情けねー声出すな!」

 竹下を叱りつけるように言って、小さく息をつき呼吸を整える。
 いくぞ、と自分に気合いを入れるように呟いて、ゆっくりと暗闇に足を踏み入れた。


「いってらっしゃい」

「楽しんできてね」


 背後から、クスクスと笑う双子の声が聞こえて、背筋を冷たいものが駆け抜けた。















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