続・変態生徒会長とオレ。(52/82)PDFで表示縦書き表示RDF


続・変態生徒会長とオレ。
作:木立久美子



種明かしと理由。(後)


「あの…だいたいのことは分かったんだけどさ、少し質問してもいいかな」

 話の途中、鳴沢先輩が控えめに手を挙げた。

「五月と藤野さんは…体育祭が全て三杉さんの予測どおりになるよう行動した…んだよな?」
「そうだけど」
「でも、それだと2つほどおかしいことが出てこないか?」
「おかしいこと?」

 渡瀬会長が怪訝そうな顔をする。
 鳴沢先輩はコクンと頷いて、だってほら、と藤野さんの方を見やってこう言った。

「さっき渡瀬は……白組がバトンを奪われること、三杉さんが予測できなかった、って言ったけど。でも、藤野さんは知っていたはずなんだよ」
「「え?」」

 オレと渡瀬会長が同時に聞き返す。
 鳴沢先輩は、言葉を探すようにゆっくりと続けた。

「いや…というか、キリヤがそれを予測して、藤野さんに教えていた、っていうのが正しいかな。シミュレーションなら、俺達だってやっていたんだ。三杉さんと同じように、必要な情報を全てパソコンに打ち込んで、起こりうる全ての事態に対応できるよう計算を繰り返して…」
「で、その結果、白組がバトンを奪われる可能性が出て来たの?」
「うん…まぁな。おそらく俺達が祭の主催者である分、持っている情報量が三杉さんのものよりもほんの少し多かったから、計算がより確実になったんだと思う。つーか白組に限ったことじゃなく、紅組にも危険はあったんだよ。シミュレートの結果、バトンを奪われる可能性は、両チームとも50%ずつだったんだから」
「へぇ。それじゃあ、もし紅組がバトンをとられていたら、君たちどうするつもりだったのさ」
「どうもしないよ。好都合だからって放っておくつもりだった。…まぁ実際は、奪われたのは白組の方だったけどな」
「んで、キリヤが藤野さんに頼んでバトンを取り戻してもらった、と?」
「そういうこと。事前に打ち合わせはしておいたんだよ」

「…」

(な、なんかすごい話をしていらっしゃる…)

 オレは黙って聞いているだけで、頭がぐちゃぐちゃになってしまった。
 たかが体育祭のリレーに、そんな精密な作戦を立てていたのか、桐谷先輩。負けず嫌いにも程があるだろ。

 やがて話の矛先は当事者である藤野さんに向き、どうしてそのことを三杉さんに教えなかったのかと、渡瀬会長が理由を尋ねた。
 藤野さんは肩をすくめ、別に他意は無かったわ、と言った。

「バトンを奪われたのが紅組であれ白組であれ、私が取り戻しに行けばいいだけの話だもの。わざわざ三杉さんに報告する必要はないわよ」
「でも…へたに動いたら、キリヤに気づかれる可能性があったじゃないか」
「――あら、大丈夫よ。私がそんなヘマするわけないでしょう?」
「――ああ、それもそうだね。これは失礼」

 にっこり。
 にこにこ。

 互いに微笑みあう藤野さんと渡瀬会長が、なんだかすごく怖かった。


「あ、あの、鳴沢先輩。それで、もうひとつのおかしいことって…?」

 慌ててオレが話題を変えると、鳴沢先輩もホッとしたような顔で口を開いた。

「あー、えっと…藤野さんと五月のメリットだよ」
「メリット?」
「うん」

 鳴沢先輩は大真面目な顔で続けた。

「だってさ、考えてもみろよ。いくら三杉さんの頼みとはいえ、あの面倒くさがりな五月が、何の見返りも求めず他人様のために動くと思うか?」

 それは…

「思えません」

 オレが即答すると、鳴沢先輩は「だろー?」と笑った。

「他人と協力し合ってる五月なんて、地球が逆回転し始めるくらい有り得ないよなぁ」
「確かに…ニホンザルが英語で喋ったって方がまだ信じられますね」

「――…大人しい顔して結構言うじゃん2人とも」

 五月先輩が冷めた声で呟いた。


見返りメリットならあったわよ。ねぇ鈴子?」

 藤野さんがクスリと笑って、鈴子さんに目配せをした。
 鈴子さんもそれに答えて「はい」と頷き、にっこりする。
 どういうこと?、と渡瀬会長が尋ねると、腐女子2人は待ってましたとばかりに立ち上がって、どこからともなくデジタルカメラを取り出した。しかも数台ずつ。(四次元ポケットでも持ってるのか…?)

「なんですか、それ」

 オレが問いかけると、鈴子さんはその可愛らしい顔をニヤリと歪めながら(怖!)振り向いた。
 そしてこう言った。


「今日一日の、渡瀬さんと遼平くんのイチャイチャらぶらぶ写真集です!!」





 ・ ・ ・ 。





「はぁぁぁぁぁッ!!!??」

 硬直している相沢さんや鳴沢先輩たちの気持ちを代弁し、オレは「なんじゃそりゃー!」とテーブルをひっくり返さんばかりの勢いで叫んだ。そりゃあもう腹の底から叫んだ。

「やだ、もう。遼平くんったら、驚いた顔も可愛いですわ♪」

 そう言いながら、またカシャッと一枚。
 って勝手に撮んな!!

「へぇー、よく撮れてるね。あとで僕にもプリントしてくれる?」
「もちろん。いくらでもどうぞ」

「オイちょっと待て!! 肖像権の侵害だぞアンタら!!」
「かたいこと言わないのー。ほら遼平、すっごく綺麗に写ってるよ」
「うぎゃ―――!!! 自分のラブシーンなんか見たくないぃぃぃぃッ!!!」

 なんで平然としてんだよこの変態生徒会長!

 デジタルカメラに写っていたのは、応援合戦のあとオレが渡瀬会長に抱きすくめられているシーンや、昼飯の前にたまたま隣に立っているシーン、そしてリレーの真っ最中に渡瀬会長がオレを抱きしめて何やら囁いているシーンだった。

 一体いつの間に撮ったんだよこんなもん!!


「今日は…まるで夢のような一日でしたわ…。渡瀬さん、リレーの間中ずっと遼平君のこと心配していらしたんですよ。草葉の陰から見守る私にも、その思いがひしひしと伝わってきて…とうとう我慢できずにストーカーもどきのことまでしてしまいました」

「もどきじゃねーよコレは! 間違いなくストーカーですよ鈴子さん!!?」

「萌えとお姉さまのためなら私、どんな悪事に手を染めたって構いませんわ!!」

「そんな真剣な表情で言わないでーッ!!!」

 泣きそうになるオレをよそに、鈴子さんのテンションはどんどん上がっていった。
 頬をほんのり紅くし、うっとりしながら目を細める鈴子さんは、そりゃもう反則的なぐらいに可愛らしい。考えている内容がボーイズラブのことじゃなければの話だが。

「迫りくる敵…2人を引き裂く様々な壁…それら全てを乗り越え、ようやく一緒になれた少年達…。しかし、そこにまた新たなる魔の手が!!」

「ちょ、鈴子さん、」

「正体の見えぬ敵に翻弄され一度は離れ離れになった2人…けれどもうこの手は離さない! 真実の愛で結ばれた2人はとうとう…………きゃっ///」

「きゃっ、じゃねーよ!! 何考えてんだこの妄想爆発腐女子ー!!」

「駄目だよ緒方。それ多分この人にとっては褒め言葉だよ」

 叫ぶオレの肩に手を置いて淡々と言う五月先輩。
 それを見た渡瀬会長は少し面白くなさそうな顔をして、すかさず五月先輩の手をオレの肩から払い落とした。

「痛…」
「ああごめんごめん。ハエがとまってたんだよ。遼平の肩に」
「それってつまり俺がハエってことじゃないですか」
「あははは」

 三杉さんと桐谷先輩は、そんな渡瀬会長を見ながら「相変わらず嫉妬深いんだなぁ」と苦笑していた。
 相沢さんと鳴沢先輩は、腐女子の毒気にあてられて未だ硬直していた。

 そして、藤野さんは。

「これで今夜のおかずは決定ね♪」

 上機嫌でデジカメをいじっていた。






 わけのわからないドタバタ劇が収まった頃、ようやく室内は元の正常な状態に戻った。
 だがしかし残念ながら、腐女子の手からカメラを没収することは出来ず、オレはやけに上機嫌な3人(女子+渡瀬会長)を恨みがましく見つめていた。

「…なるほど。つまり藤野さんは、三杉さんに協力することで自分の『欲しいもの』を手に入れたわけか」

 話(というかオレのための説明会?)は大分進んで、渡瀬会長がまとめに入る。
 藤野さんはデジタルカメラを大切そうに仕舞い込みながら、その言葉に微笑を浮かべて頷いた。

「ええ、そうよ。ピンチを共に乗り越えてこそ愛は深まるのだもの。フツーの体育祭じゃあ、こんな良い写真は撮れなかったでしょうね。三杉さんが引っかき回してくださったおかげだわ」

 女優並みの優雅な仕草で、藤野さんが頬に掛かった髪を払う。

「ま、利害の一致とも言うかしらね」
「それで…ずっと俺達を騙していたわけだな。あたかも味方であるような演技までして…」
「うふふふ。ごめんなさいね、宗吾。怒ってる?」
「別に…」

 桐谷先輩がそっぽを向いた。
 それを見てクスクスと愉しそうに笑ったあと、藤野さんは渡瀬会長の方を見た。

「それにしても、渡瀬君の洞察力はさすがね。大した情報もなかったのに、あそこまで詳しく理解できたなんてすごいわ」
「そんなことないよ。騙される前に気づけなきゃ意味が無い。…ねぇ、キリヤ?」
「…」

 桐谷先輩は相変わらず不機嫌そうだったが、やがて深く息を吐くと、「そうだな」と呟いてメガネを押し上げた。

「――まぁ、三杉さんが相手なら仕方ないだろう。今回のことは、良い勉強させてもらったと思って諦めるさ」
「お。君にしては前向きな発言だね」
「怒り続けるのにも疲れたんでな」

 溜め息混じりに言う桐谷先輩。
 その横で、鳴沢先輩があからさまにホッとした顔をした。


「じゃあ、五月は?」

 それまでずっと黙っていた皐月先輩が、唐突に口を開いた。
 自然とみんなの視線がそちらに集中する。

「五月は、三杉さんに協力して、何を手に入れたの」
「―――」

 弟の問いかけに、五月先輩は無言で目を伏せて、やがてゆっくりと口を開いた。

「別に…何も」
「まさか」
「本当だよ。三杉さんには借りがあったから、今回それを返しただけ」
「借りって?」
「…」

 五月先輩は何やら考え込んでいる表情だったが、暫くしてから「大したことじゃない」と呟くように言った。

「でも、俺にとっては大事なこと」

 その言葉に、皐月先輩が眉を寄せて五月先輩を睨む。
 三杉さんが微かに苦笑する気配がした。














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