続・変態生徒会長とオレ。(51/78)PDFで表示縦書き表示RDF



今回の話は、読みたくない方は読まなくてもいいです。
延々と説明してるだけですから。
続・変態生徒会長とオレ。
作:木立久美子



種明かしと理由。(前)


「つまり、三杉さんの目的は、自分の“予言”をボクらに実行させることだったのさ。協力者達と手を組んで、巧妙な罠をいくつも仕掛けてね」

 ぷしゅ、と缶のプルタブを開けながら渡瀬会長が言った。
 先生たちの差し入れのジュースを、鈴子さんが全員に配ってくれたのだ。
 本来なら一番下っ端であるオレの仕事なのだが、心優しい鈴子さんは「遼平君は疲れてるでしょうから座っててください」と言って、自分から進んで動いてくれた。良い人だ。

「でも、どうして三杉さんはそこまでして…予言者ゲームに勝ちたかったんですか?」

 オレが問いかけると、三杉さんは静かに微笑んでこう言った。

「どうしても欲しかったんだよ、桜雛祭のチケットが。…オークションで手に入れようとも考えたけど、俺はまだ学生で金も無いし、それよりはこっちの方が確実だと思ってね」

 ジュースは余分にあったので、三杉さんと相沢さんにも配られている。
 一口飲んで、缶をテーブルにコトンと置いてから、三杉さんは言葉を続けた。

「会いたい人がいるんだ。そのために、どうしても桜雛祭に行かなくちゃならなかった」

 俯いた表情は酷く儚げで、その“会いたい人”が誰なのかは、尋ねることが出来なかった。








「三杉さんはまず、学園祭が始まる前から五月に連絡を取り、体育祭の内容やリレーの詳しい情報を聞き出して作戦を考えたんだ。誰が選手として出るのかとか、コースはどうなっているのかとかね。そのための資料は全て生徒会室に置いてあったし、五月は役員だから、いつでも持ち出して閲覧することが出来た。…たぶんコピーか何かして、三杉さんに渡したんだろう」

 まるで推理小説の探偵役よろしく、渡瀬会長が淡々と言う。
 その言葉を、五月先輩は黙ったまま否定しなかった。どうやら事実らしい。

「じゃあ…五月先輩は最初から三杉さんのために…?」
「そういうことになるね。じゃなきゃ説明できないことが沢山ある」

 オレの質問に頷きながら、渡瀬会長はこう答えた。

「まず、三杉さんは、紅組ボク白組キリヤの作戦を全て把握していた。…こんなの、内部の人間でないと知り得ないはずだろう。特にキリヤの考えた作戦は、本人を除くと、涼・五月・藤野さん以外の人間は一切教えられていなかった。つまり…」

「五月先輩と藤野さんが、キリヤ先輩の作戦を全て三杉さんに横流ししていた、と?」

「正解」

 頷いて、渡瀬会長はチラリと隣へ目を向けた。
 桐谷先輩はさっきからずっと不機嫌そうに腕を組んで、むっつりと黙りこくったままだ。
 それを見て肩をすくめながら、会長は、今度は皐月先輩の方を見やった。

「…おおかた紅組の情報は、お前が五月に喋ったんだろう?」
「はい」
「はい、じゃないよ。ちょっとは悪びれろ」
「だって五月が知りたいって言うから」
「だからって教えるな。今回は敵同士だって言ったじゃないか」
「俺はいつでも五月の味方です」
「…このブラコン」

 渡瀬会長は諦めたように、はぁ、と溜め息を吐いた。
 皐月先輩は憮然としながら三杉さんに目を向けた。

「でも、どうして五月だけに協力させたんですか。俺だって、三杉さんの頼みならいくらでも聞くのに」
「だってお前、あんまり役に立ちそうになかったんだもん」
「…」
「五月に比べて単純だし、それに渡瀬にばれたら元も子もないからな」
「………」

 ばっさり斬って捨てられた皐月先輩は、無表情のまま暫く固まっていた。
 少しだけ、可哀相に思えた。


 渡瀬会長はゴホンと咳払いをしてから、再びオレの方を見て説明を再開した。

「――…まぁ、思えばおかしかったんだよ。本部に提出されたアンケートは、係の人間が手分けしてチェックするんだけど…」

 そう言いながら渡瀬会長は、一枚の紙を取り出して、オレの方に回した。

「それが、三杉さんの答えたアンケートさ。読んでごらん」

 オレは言われたとおり、その用紙に目を通した。
 すると…。



Q1.紅組と白組、優勝はどちらだと思いますか?
A1.紅組

Q2.点差はどれくらいだと思いますか?
A2.20〜30点

(中略)

Q11.午前中はどちらがリードすると思いますか?
A11.僅差で白組

Q12.午後のリレーは、両チームとも完走できると思いますか?
A12.はい

Q13.時間はどれくらい掛かると思いますか?
A13.一時間半から二時間くらい

Q14.その他、予測できそうなことがあればご自由にお書き下さい
A14.最後は両チームアンカーの一騎打ち。



 ――…オレは、ぽかんと口を開けて固まった。
 これはまさしく予言だ。三杉さんの回答の全てが、実際の結果と一致していた。これが事前に書かれたものだなんて、とてもじゃないが思えない。
 まるで、今日の結果を先取りして、事実をそのまま書き写したかのような―――…。

「まぁ、ある意味では先取りしたってことになるのかもね」

 オレの考えを読んだかのようにドンピシャのタイミングで、渡瀬会長が言った。
 っていうか読んだんだろう実際。この異常多能力者め…!

「違うよ。君が分かりやすすぎるだけだよ」
「まッ、また読んだ!!」
「読んでないって。君、考えてることが全部口に出てるんだよ」
「マジ!?」
「うん。そりゃもう駄々漏れ」
「…っ…」

 恥ずかしさで顔を真っ赤にするオレを楽しそうに眺めながら(変態!)、渡瀬会長は説明を続ける。

「遼平。世の中にはね、いろんな能力を持った人がいるんだよ。それこそ、未来を予測する能力を持った人だって、少なからず存在する」
「へ?」
「もちろん、超能力だとか占いだとか、そういう非現実的な話じゃないさ。でもね、充分な情報さえ揃えば、それは間違いなく可能になるんだ」

 悪趣味な変態生徒会長は、混乱しているオレの顔を見てニコニコしながらこう言った。

「三杉さんは、その必要な情報を全て把握していたんだよ。
 チーム構成および各競技の出場選手、生徒1人1人の能力と行動パターン、当日の天候。おまけに両チームの大将が考えた作戦まで知り尽くしていた。これだけのデータがあれば充分さ。
 それらを数値化してコンピュータに打ち込み、何度もシミュレートを繰り返せば、かなり確実な未来予測が可能になる」

「は…!」

 途方もない作業に、オレは目眩を覚えた。想像しただけで頭が痛くなりそうだ。
 
「え、ちょ…待ってください」

 ぐちゃぐちゃになりそうな頭を整理する。
 おそるおそる、その人物の方へ視線を向けた。

「まさか…三杉さんは、そんな凄いことをたった1人でやったんですか…!?」

「えへ☆」

 笑顔で肯定された。
 っていうか、19歳の男性が可愛らしく小首を傾げて「えへ☆」は無いだろう「えへ☆」は…!
 オレの中の三杉さんのイメージが音をたてて崩れていった。

「ほら、俺って肉体労働が苦手だからさ。それに比べれば、こんぐらいの計算をこなす方が遥かに楽なんだよ」
「そ…そうなんですか…?」
「うん。大学のコンピュータ拝借すれば一週間もかからないし」

 にっこり。
 やわらかく微笑む三杉さん。その笑顔がやけに神々しく見えるのはオレの気のせいだろうか。
 なんか、絶対に逆らっちゃいけないような気分にさせられる…!

 オレは隣の席に座る皐月先輩の袖を、つんつんと引っ張った。

「あ、あの、皐月先輩?」
「何」
「三杉さんって…もしかして物凄い頭良い人なんじゃ…!」
「あー、うん。中等部から高等部卒業するまでの6年間ずっと首席をキープしてた上に、某有名私立大学の理3に現役で楽々合格したらしいよ」
「凄すぎ!!!」

 化け物かよ!

 冷や汗を流すオレに、渡瀬会長は更に追い打ちを掛けた。

「そして勿論、万が一のときのための保険も欠かさなかったわけさ」
「ほ、保険…ですか」
「そう。もし体育祭の結果が、予測した未来とは違う方向へ進みそうになったら、それを修正しなくちゃいけないだろ?」

 のんびりとジュースを飲みながら、渡瀬会長は言う。
 多分もう、説明するのさえバカらしいのだ。

「藤野さんと五月は、そのために動いてたのさ」

 2人は三杉さんの協力員だった。
 三杉さんの予測したデータと指示を元に行動し、体育祭を裏から操作していた。
 そして、事態が予測から外れそうになった場合は、すぐさまそれを修正していたのだ。

「まず、三杉さんが予測できなかったことは2つある。1つ目は、何も知らないゲーム参加者が、白組のバトンを奪ってしまったこと。このままでは白組が完走できなくなる。…これを修正したのは、おそらく藤野さんだね。妨害者の手からバトンを取り戻して白組に返しただろう?」

「その通りよ」

 藤野さんが頷いた。
 どうやって取り戻したのかは、怖いので追求しないことにした。

 渡瀬会長は続ける。

「もう1つのバグは、皐月だ」

「え…俺?」

 バグ扱いされた皐月先輩が、きょとんとする。
 渡瀬会長は頷きながら苦笑いした。

「お前、競技が始まった後も五月にべったり引っ付いてただろう」
「そうですけど」
「三杉さんは、それを予測できなかったんだよ。おそらくキリヤの性格上、作戦に邪魔なヤツはどんな手を使っても全て排除すると読んだんだろうけど…今回は、キリヤはそれをしなかった。後輩の世話や人員配置の管理は、ぜんぶ涼に押しつけ…じゃなくて、任せていたからね」

 空になったジュースを、からんとテーブルの上に置いて、渡瀬会長はクスッと笑った。
 そして、卒業生たちの方に目を向ける。
 
「キリヤは完璧主義だけど、何でもかんでも1人で背負い込むようなヤツじゃありません。…昔はどうだか解りませんが、少なくとも、今の・・こいつはそうじゃない。そこを読み間違えましたね三杉さん」

 三杉さんは無言で肩をすくめた。
 桐谷先輩は相変わらずムスッとしているけど、ほんの少しだけ機嫌が直ったように見えるのは、オレの気のせいじゃないと思う。

 話を聞いていた皐月先輩が、隣の五月先輩をチラッと見た後、わずかに眉を寄せながら口を開いた。

「…つまり、それで? 今度は五月が、計画に邪魔なバグを取り除いたってことですか?」

「いや。それは違うよ」

 何かを言おうとした渡瀬会長を遮って、三杉さんが発言した。 
 そして、黙りこくっている五月の方を見やりながらこう続ける。

「こいつには、弟を追い払うなんて出来なかったと思う。…多分、直接的に手を下したのは鳴沢ってことになるんじゃないのかな」
「え? 俺ですか?」

 話を振られた鳴沢先輩が、びっくりして目を瞬く。
 隣にいる桐谷先輩が怖いのだろうか、少しビクビクしながら「どういうことですか」と三杉さんに問い返した。

「もちろん、お前には自覚がなかったんだろうけど。でも、競技の途中で、皐月を迎えに行っただろう?」
「あ…はい。競技の邪魔になるといけないんで…」
「その行動が、結果的に俺の計画を助けることになったんだよ。正直、五月に会いに行って、皐月まで一緒にいたのを見たときは結構焦ったんだ。お前が取り除いてくれて助かったよ」


「…なんだよ。みんなして俺をコンピュータウイルスみたいに…」


 皐月先輩が拗ねたように呟く。
 五月先輩がその頭を撫でようとしたが、珍しく本気で怒っている皐月先輩は、その手を鬱陶しそうに振り払った。五月先輩が次の瞬間、驚いたように目を見開いた表情が、なんだか少し痛々しく思えた。
 ――…後で、深刻なケンカにならなきゃいいんだけど…。


 一部始終を見てしまったオレは、気まずくて目をそらしてしまった。















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