続・変態生徒会長とオレ。(49/78)PDFで表示縦書き表示RDF


続・変態生徒会長とオレ。
作:木立久美子



走れば○○も罠にはまる。


 一体何を考えているのか、その表情からは全く読むことが出来ない。
 人形は、ふと思い出したように足下を見やると、そこに倒れている人物に向かって肩をすくめた。

「遅かったじゃないですか」

 淡々とした声で人形は続けた。

「しかも、着いてみれば瀕死状態だし。けっこう根性ないんですね、先輩?」
「…うるせっ…障害物越えるの…結構、大変…っ…なんだぞ…!」
「渡瀬会長は軽々と飛び越えてたらしいですけど」
「あいつと…一緒に…すんなッ」

 息も切れ切れの白組第5走者が、ごろんと地面に大の字で寝転がっている。
 それを見下ろしながら、人形はコトンと首を傾いでみせた。

「あれー、機嫌悪いんですか? …まぁいいけど。後は俺の好きにやらせてくださいね」

 俺が勝たないと、うちの大将、怒っちゃうから。
 そう言って人形はまた嘲笑わらった。
 それが、恐怖のレース再開の合図。
 







 ええと。
 だからつまりどういうことなのかというと。

「あんたが変なことしてる間に白組第5走者が追いついて来ちゃったってことですよ!!」

「変なことなんかしてないよー。ただちょっと欲情しただけ…」

「あぁもういいから黙れお前!!」

 恥ずかしさのあまり、ぎゃーと叫び声をあげながらオレは走り続けた。
 途中、あーそこの草むら罠が仕掛けてありそうだから気をつけてねーとか、あのロープは危ないから触っちゃ駄目だよーとか、渡瀬会長からの有り難いご指示が聞こえてくる。
 それに従いながらの全力疾走だから、我ながら大した運動神経だよなぁと、頭の片隅でオレは思った。
 勿論ただの逃避だ。

「くっそぉ網から解放された後すぐ走り出してれば今頃グラウンドに辿り着いてるはずなのに…っ!」

「まーまー過ぎたことは忘れなくちゃ」

「アンタが言うな――ッ!!!」

「あ、そこ気をつけて落とし穴」

「!」

 間一髪で穴を飛び越える。
 それを見た渡瀬会長がニッコリした。

「ボクがいて良かったでしょ?」
「…う〜ッ」

 悔しいけど、否定は出来ない。
 たぶん今、オレの顔は真っ赤っかだ。
 それを見てクスクスと愉しそうに笑う渡瀬会長。いまだに呼吸は乱れていないし、疲れた素振りさえ全く見せない。ホント化け物だなこの人は…。

「だいじょうぶ。もうすぐゴールに着く。僕らがゴールして紅組の逆転優勝だよ」
「はぁ」

 そのときオレは眉をひそめた。
 急に、そういえば、と妙なことに気づいたのだ。
 同時にわずかな胸騒ぎ。

「ちょ…渡瀬会長、止まりましょう」
「えっ、どうして?」
「いいからストップ!」

 会長の腕を掴んで、強引に止める。
 怪訝そうな顔をして何か問いかけようとしてくる相手を制し、オレは周囲を見渡した。
 しん、と静まりかえる敷地内。前方に見えるグラウンド以外からは、全く人の気配がしないのだ。
 オレは、緊張感でゴクンと喉を鳴らした。

「変…ですよ」
「ん? ボクが?」
「いやまぁ確かにそれも否定しませんけど。…でも、そうじゃなくて。この状況そのものが変じゃないですか?」
「どういうこと」
「さっきから妨害者が1人も来ない」
「!」

 渡瀬会長の顔つきが変わる。
 オレたちは、互いに視線を交差させた。

 …まさか…。


「安心しなよ。罠なら無いから」

「「!」」

 唐突に響いた声。
 振り向くと、グラウンド脇の木陰に人形が立っていた。
 渡瀬会長もオレもビックリして硬直する。

「お前…」
「い、五月せんぱ―――…」

 その名前を言いかけて、オレは気づいた。
 違う。五月先輩じゃない。この人は…―――。


「皐月先輩!?」

「ぴーんぽーん」

 するりと木陰から出て来た皐月先輩は、のんびりとオレたちの方に近づいてきた。

「緒方よく分かったねぇ。俺、今ハチマキ付けてないのに」
「あ、えーと、なんとなく雰囲気違うかなって」
「…そう」

 どこか憮然としながら皐月先輩は頷いた。
 何だよ、間違えて欲しかったのかよ。

「っていうかアンタ、本部にいたんじゃなかったんですか」
「泣いてる鳴沢先輩が鬱陶しいんで抜けてきた」
「は?」

 なんで鳴沢先輩が泣いてるんだ。
 オレは訳が分からず眉を寄せた。ホントこの人は理解不能だ。
 
「そんなことより皐月。時間がないから手短に話してくれ。どうして罠じゃないって解るんだ?」

 渡瀬会長が訊くと、皐月先輩は何てことないとばかりに肩をすくめた。

「さっきそこで聞いたんです」
「聞いた?」
「はい。ゲーム参加者は全然役に立たないし、みんな疲れてるみたいだし、いない方がマシだから退かせたって」
「だ…誰が」
「誰って、そりゃ――」


「俺に決まってるじゃん」


 ザッ。

 皐月先輩の言葉を、それと全く同じ声が引き継いだ。
 声と音がした方向を驚いて振り向くと、白いハチマキとゼッケンを付けた五月先輩が、ニヤリと笑って立っていた。
 どうやら、背後の壁の上から、たった今とび降りてきたところらしい。
 五月先輩は手の埃をパンパンと払い、ひょいっとバトンを持ち直した。

「渡瀬会長の真似してみました」
「いつきカッコイイ〜」

 ぱちぱちと拍手している皐月先輩を睨みつけながら、オレはじりじり後ずさる。
 流れる汗を拳で拭って、反対側の手でバトンをしっかりと握りなおした。
 緊張で背中がびりびりする。

「渡瀬会長…」
「なんだい遼平」
「状況が理解できません」
「うん。ボクもだよ」
「だけど…やるべきことは1つですよね」
「そうだねぇ」


 顔を見合わせる。


「…1人で行けそう?」
「もちろん」
「よし」


 頷き合う。

 再び双子の方を見る。

 
「どうやら、理解したみたいですね」


 人形が呟く。

 その言葉の真意はいまいち量りきれないオレだけど、展開の速さに振り回されないくらいには落ち着いていられた。
 とにかく、当初の目的だけを果たせばいい。
 互いに見つめあう4人の間に、まるで電気のような、ぴりっとした緊張感が流れた。


 そして次の瞬間。



「行け遼平!」
「ラジャーッ!!」

「逃がさないよ」


 オレは脱兎のごとく地面を蹴り、ゴールに向かって駆けだした。
 それと同時に五月先輩も走り出す。



 2人の一騎打ちが始まった。





「五月がんばれ〜」


 背後から皐月先輩の声援が聞こえる。


「お前は紅組だろうが――――ッ!!!」




 渡瀬会長の怒号が飛んだのは、その数秒後のことだった。


















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