続・変態生徒会長とオレ。(39/79)PDFで表示縦書き表示RDF


今回はスランプ気味です。なんかもう「普段通りの文章」を意識すればするほど「普段通り」から遠ざかってしまうので、いっそのこといつもとは全く違う書き方をしてみました。
例のごとく双子がラブラブ(死語?)ですので、砂を吐かないようにご注意下さい。

続・変態生徒会長とオレ。
作:木立久美子



いちゃつきすぎだよアンタ達。


 青い空。
 白い雲。

 涼風が吹き抜ける。

 しんとした敷地内。
 文字通り、嵐の前の静けさ。 


『―――…Are you ready?』


 誰かが笑う。
 笑いながら、尋ねてくる。

 準備はいいかい?、と。

 答えなどわかりきっているくせに。
 ダメだと言っても、どうせ待ってはくれないくせに。


『 Are you ready ? 』


 その人は笑いながら繰り返す。
 自らの勝利を確信して、笑う。


 だから。
 だからおれは。



「…Of course!」


 もう、腹をくくるしかないじゃないか。

 何もかも戦場の外へ捨ててしまえ。
 細かいことを気にしている場合じゃない。
 忘れよう。
 今、この瞬間だけは忘れよう。
 全てを。


 勝利、以外の全てを!








『…OK…』









 静寂が世界を支配する。
 緊張の一瞬。

 その、次の瞬間。




『GO!!!!』





 閉じていた目を開いた瞬間、どこか遠くでピストルの音が響き渡った。


 
 







『さぁっ、始まりました紅白対抗リレー!! 体育祭の目玉とも言えるこの競技、別名“予言者ゲーム最終戦争ラウンド”!!
 司会および実況はわたくし、放送部のルーキー竹下洋司が務めさせていただきます!!』

 オレのもやもやした気持ちを吹き飛ばすかのように、スピーカーからはクラスメイトの元気すぎるくらい元気な声が、これでもかってくらい大音量で聞こえてくる。
 桜木高校の敷地は広いから、近所迷惑になる心配はなさそうだが、それでも今は鬱陶しいことこの上ない。周囲のハイテンションに付いていけそうなほどの余裕が、オレには無かった。

「っていうか、竹下って放送部にも入ってたんだ…」

 手持ち無沙汰にハチマキを締め直しつつ、そんなことを呟いてみる。
 すると隣にいた五月先輩(プラス皐月先輩)が、「えーなにそれ」とあからさまに呆れたような声を出した。

「竹下って緒方の友達だよね。同じクラスの」
「何。緒方ってば、友達の所属クラブも知らなかったの」

「…はい、まぁ…。委員やってたことも、最近知ったばっかですし」

「うーわー、信じらんない。緒方くん薄情〜」
「もはや情報に疎いとかいうレベルじゃないよ。他人に無関心なのも程ほどにしなよ」

「いやそのセリフあんたらにだけは言われたくないんですけど」

 オレは柔軟体操をしながら、天宮兄弟と共に中継地点で待機していた。
 ときどき実況中継(どこかにカメラでも付いてるんだろうか)らしき放送が聞こえる以外、あたりは結構しんとしていた。遠くの方から何やら騒ぎ声が聞こえるけれど、まだまだ遠い。どうやら第1走の選手たちは、参加者達の妨害工作で、予想以上に手こずっているようだ。
 まだ、アンカーの出番はなさそうである。

 暇をもてあました双子はいつにもまして退屈そうで、ときおり思い出したようにオレをからかっては遊んでいた。前から感じていたことだが、どうやらこの2人はオレのことを、都合の良いオモチャのような存在だと思っているらしい。
 いいかげん相手をするのも疲れてきたオレは、だんだん受け答えもぞんざいになってきていた。

 そんなオレの態度を生意気だと思ったのか、皐月先輩が不機嫌そうに口を尖らせる。

「緒方が冷たいねー、五月」
「そうだねー、皐月。きっとリレー前で緊張してるんだよ」
「緒方って意外と気が小さいんだー」
「かわいいねー」
「ねー」

「勝手な事くっちゃべってないで、五月先輩も準備運動くらいしたらどうですか」


 太腿の筋を伸ばしながら、オレは呆れて双子を見やった。


「それに皐月先輩も! 早く、陣地か本部の方に帰った方がいいと思いますけど」

「えー…なんで」

「なんでじゃありませんよ。先輩、実行委員でしょ」

「それを言うなら緒方だって」

「オレは選手だからいいんです!」


 だらだらと喋る皐月先輩を、オレは苛つきながら睨んだ。


「皐月先輩は選手でも係員でもないんだから、いつまでもこんなところに居たらダメでしょう。だいたい競技中は、選手とゲーム参加者以外コース内に立ち入り禁止だって、さっき係から説明が…」

「あーもーうるさいなー。細かいことゴチャゴチャ言わないのー」
「気にしなくても大丈夫だよ、緒方。俺と皐月は一心同体だから。2人で1つだから」

「大丈夫なわけあるかい」


 冷めた声でツッコミを入れ、オレは溜め息を吐き出した。
 なんか疲れた。もともと2対1じゃ、まともな会話すら出来ない。双子のペースに飲み込まれたら、そう簡単には抜け出せないことを、オレはこの約1ヶ月で充分すぎるくらい学んだ。
 前屈をして地面に手のひらを付けながら、再び双子の方へ恨めしい視線を送る。

 さわらぬバカップルに害はない。
 が、この双子の場合は、どうしても無視しきれないというか、存在感が強すぎるのだ。


「っつーか五月先輩、苦しくないんですか。さっきから、あなたの首に皐月先輩の腕が絡みついてますけど」

「ああ平気平気。いつものことだから」

「…いつものことなんですか」

 傍で見てる方は暑苦しいことこの上ないのだが、どうやら本人はへのカッパらしい。
 むしろ幸せそうに、微かな笑みすら浮かべながら弟を見つめる五月先輩の横顔を、オレは何とも言えない気持ちで見つめた。

 そんなオレに気づいた皐月先輩が、欠伸を噛み殺しながら肩をすくめる。

「まぁまぁ…気楽にしてようよ、緒方」
「そーそー。どうせ、あと一時間くらいはバトンなんか回ってこないんだしねー」

「…1時間?」

「うん。毎年そのくらいだよ」
「確か去年は、スタートからゴールにたどり着くまで2時間近くかかったっけ」
「アンカーに近づくにつれて、だんだん妨害もエスカレートしてくるんだよねー」
「うんうん。普通に走るのはまず無理だよねー」
「襲いかかってくる人間が山ほどいるし、コースの障害物はそれよりもっと多いし」
「何年か前には、とうとう突破できず両チームともリタイヤしたんだっけ」
「いやー今年はどうなるんだろうねー」
「楽しみだねー」

 ぜんぜん楽しくない。

「あれぇ? なんか緒方、顔が青いよー?」
「もしかしてビビっちゃったー?」
「恐がりだなぁ。別に死ぬわけじゃないんだから」
「ねぇ」
「ねー」

 勝手にそんなことを喋りながら、2人は近くの日陰に座りこんでイチャついていた。
 皐月先輩が五月先輩の肩にもたれ、その耳に何やらコソコソと囁いている。

 なんだか急に暑くなってきたオレは、体を起こして手首をほぐしつつ、さりげなく双子から距離を取った。


 そのとき。


『あーあー。マイクテスト、マイクテスト。…会場の皆さーん聞こえますかー?』


 近くのスピーカーから、のんびりした竹下の声が聞こえてきた。


『機械の調子が悪かったため、暫く実況放送が中断してしまい申し訳ありません。現在バトンは第2走者に渡り、両チームの選手はただいま中央棟の裏を疾走中です!』

 
 無言でスピーカーの方を見ていたオレたちは、それを聞いて互いに顔を見合わせた。
 
 中央棟の裏?


「正規のコースから、大分はずれてるね」
「うん。むしろ遠回りになるよ」
「それなのに、両チームともあえてそっちを走ってるってことは…」


 顔を見合わせたまま、頷き合う。


「―――それだけ、妨害工作が激しいってことだね」


 上等じゃないか。

 小さく呟く五月先輩の横で、皐月先輩が唇に笑みを描く。
 自分の片割れを信頼しきって、特に心配しているような様子もない。

 それを見て、オレは「あんた紅組だろ」と小声で突っ込んだ。
 美しい兄弟愛も結構だが、目の前にいる同じチームのオレを無視して、敵チームの五月先輩を応援するのは、ちょっとどうかと思う。

 まぁ皐月先輩にしてみればそんなのどうでもいいことなんだろうけども。
 
「それにしても、スピーカーの調子が悪いね」
「中古だからそろそろ買い換えなきゃって、教師らも言ってたしねー」

 その言葉に、再びスピーカーの方を見やる。
 確かに古い。放送の合間に、ピーピーとか、ガーッとか、ノイズ音が入っている。

 しかし。

『おおっと、これは大変です! 大変なことが起きました! 白組第2走者が、参加者にバトンを奪われましたぁ!!』

「「「!?」」」

 その部分だけは、妙にクリアに聞こえた。
 オレは皐月先輩を見て、皐月先輩は五月先輩を見る。

 暫しの沈黙。

 やがて。



「…これは…ちょっと困ったことになったね」



 あんまり困ってなさそうな声で、五月先輩は呟いた。

















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