続・変態生徒会長とオレ。(29/82)PDFで表示縦書き表示RDF


続・変態生徒会長とオレ。
作:木立久美子



体育祭、開幕。


 そんなこんなで、桜祭当日はやってきた。
 渡瀬会長のことだとか、天宮兄弟のことだとか、いろんなことがありすぎて頭はごちゃごちゃしてるけど、今日だけはそれを忘れようと思う。
 年に一度のお祭りだ。楽しまなきゃ絶対に損だ。

「ぜったい見に行くから、とちるんじゃないわよ」
「来なくていいって」
「何を言ってるの。息子の勇姿を見に行かないなんて、母親が廃るわ!」
「あーもう解ったよ、好きにすれば!」

 口喧しい母親から弁当をひったくり、オレは家を飛び出した。
 朝日が眩しい。
 絶好のお祭り日和だった。






「――…続きまして、校長先生から開式のご挨拶をいただきます」
 
 初日の今日は体育祭。
 秋晴れの中、開会式は始まった。
 司会進行の皐月先輩も、今日は珍しくきちんと仕事をしている。
 執行部役員(オレも含む)は、主催者として、本部席で先生達と一緒に座っていた。
 
 ちなみにオレは、一番端の席に座っている。
 隣においでよ、と渡瀬会長に誘われた(というか連れて行かれそうになった)が、オレは必死になって断った。
 当然だ。隣になんか座ったら何されるか分かったもんじゃないし、第一オレの心臓がもたない。

 1年生なんだから隅っこでも大丈夫ですっていうか隅っこが良いです是非とも隅っこに座らせてください、と言いつのるオレを見て、渡瀬会長も渋々ながら諦めてくれた。
 正直いって助かった。まだ心の整理は付いていないし、なるべく渡瀬会長の傍には行きたくなかったから。


「地域の方々に感謝を込め…――今日のこの日を…――」

 校長先生の挨拶はまだ終わらない。
 せっかくの有り難いお話も、オレはほとんど聞いちゃいなかった。多分、大部分の生徒がそうだろう。こんな堅苦しい開会式なんか早く終わらせて、さっさと競技に移りたいのだ。
 皆そわそわしたり上の空だったり眠そうにしていたり、心ここにあらずというのが見て分かる。
 ってか、五月先輩なんかあからさまにに欠伸してるし。皐月先輩もマイク片手にうとうとしてるし。放送原稿にヨダレでも垂らすんじゃないかって、オレは少しひやひやしていた。

 …まったく、この兄弟は…。

 溜め息を吐きながら、オレは少し緩んできたハチマキを締め直した。
 染み1つ無い、真っ赤なハチマキ。
 オレは紅組だった。



 体育祭のチーム分けは、各クラスの短距離走のタイムの平均をとって、それを基準に決められていく。どちらか一方に足の速い人間が偏ってしまったら、不公平になるからだ。
 ちなみに役員も、各チームに同人数ごと振り分けられるらしい。
 執行部の人間は6人いたから(ちゃっかりオレも人数に入れられてるところが非常に微妙なのだが)、紅組に3人、白組に3人と、ちょうど半々に分けられた。
 ――…そして、そのチーム分けの結果は以下の通りだ。


<紅組>
渡瀬透(大将)
天宮皐月(副将)
緒方遼平

<白組>
桐谷宗吾(大将)
鳴沢涼
天宮五月(副将)


 ――…そう。
 見てのとおり不幸なことにも、オレは渡瀬会長と同じ組になってしまったのである。

 最初にこの結果を見たとき、オレは渡瀬会長が何か裏工作でもしたんじゃないかと疑っていたのだが、どうやらそれは違うらしい。
 桐谷先輩も「今回は何もしてない」と言っていたし、本当に偶然なのだそうだ。(今回ってところが少し気になるが)

(なんか…何もしてないって言うのも、それはそれで嫌なんだよな。むしろ、渡瀬会長のせいで同じ組にされたって方が、よっぽど納得がいくんだけど…)

 オレは数週間前の出来事に思いを馳せ、ふぅと小さく溜め息を吐いた。
 案の定、渡瀬会長は「これって運命だよね」とかふざけたことを言い出すし、双子は「なんで俺達が同じ組じゃないの」と駄々をこね始めるし、そりゃもう大変だったのだ。

 特に皐月先輩は、

「俺と五月がトイレ以外で離れ離れになるなんて有り得ない」

 と言って、滅多に見ないほど怒っていた。よっぽど兄と離れたくないらしい。

(まぁ…もう決まったことなんだし仕方ないよな)
 
 不可抗力なのだから、今さらギャアギャア騒いだって仕方がない。
 結局その後、鳴沢先輩と桐谷先輩が2人がかりで双子をなだめ、オレは自力で渡瀬会長を黙らせたのだった…。


「――…校長先生、ありがとうございました。続いて選手宣誓にうつります」

 オレが回想にふけっている間、着々と開会式は進み、いつのまにやら校長先生の話も終わっていた。
 五月先輩につつかれて目を覚ました皐月先輩が、寝ぼけながらもマイクに向かって口を開く。


「紅組大将と白組大将は、前へ」


 渡瀬会長と桐谷先輩が、サッと前に進み出た。
 黒と白、それぞれの長ランが翻る。演劇部の衣装係が提供してくれた団長服らしい。

(…うっわ…すげぇ似合ってる)

 空気が変わるって、こういうことなんだろうか。悔しいけど、やっぱり格好いいなと思ってしまう。
 会場全体が、2人に注目しているのが分かった。


「「―――宣誓!」」


 マイクを通した2人の声が、寸分の狂いもなく綺麗に重なった。

「我々生徒一同は、これまで掴み重ねてきた努力の成果を遺憾なく発揮し――…」

「…――地域の方々に感謝の心をこめ、年に一度の桜祭を見事成功させることを誓います」 

 白の長ランに白い長ハチマキを締めた桐谷先輩の言葉を、黒の長ランに紅い長ハチマキを締めた渡瀬会長が引き継いだ。淡々としているのに、びりびりと空気を震わせる声だ。
 なんか、ゾクゾクする。会場がしんとなって、2人の声だけが力強く響いて。
 ああ、いよいよなんだって気分になる。

「…紅組大将、渡瀬透!」
「白組大将、桐谷宗吾!」

 高らかに締めくくって、2人は同時に一礼した。
 途端、大きな拍手の音が会場を包む。
 渡瀬会長も桐谷先輩も、緊張しているような素振りは全く見せず、凛と背筋を伸ばして、口元には微かな笑みさえ浮かんでいた。

 …ああもう。ちくしょう。格好いいよ!


「それでは、これより競技に移ります。第一競技“借りびと競争”に出場する選手の皆さんは準備をしてください」

 放送を終えた皐月先輩が、マイクのスイッチを切って広報委員に返した。
 さあ、いよいよ始まる。


 紅組と白組は、それぞれの陣地に分かれて円陣を組んだ。
 もちろんオレは紅の陣地に行き、渡瀬会長からはなるべく離れたところで、ぜんぜん知らない人と肩を組んだ。

 …うん。なんか誰かさんの視線が痛いけど気にしない気にしない。


「―――…じゃあ皆、準備は出来たかな」

 その誰かさんは、ようやく諦めたようにオレから視線を外すと、大きく広がる円陣をぐるりと見回した。
 落ち着いた表情で、ゆっくりと口を開く。

「何としてでも白組を倒そう。優勝はボク達がもらう」

 不敵な表情で、渡瀬会長が言う。

「…覚悟はいいかい」

 円陣のあちこちから「おおっ」とか「うっす」とかの声が返る。
 それを聞いて満足そうにニヤリと笑うと、渡瀬会長は大きく「よしっ」と頷いた。

 静まりかえった一瞬の後、大きく息を吸い込んで―――…


「紅組必勝――――――!!」

「「「「「「「「「「おお――――ッ!!!!」」」」」」」」」」




 桜祭、第1日目、体育祭。
 ―――開幕!












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