続・変態生徒会長とオレ。(28/79)PDFで表示縦書き表示RDF


続・変態生徒会長とオレ。
作:木立久美子



いよいよ明日は学園祭。


 それから、桜祭本番までの数日間を、オレはなるべく渡瀬会長と目を合わせないように注意して過ごした。
 目を合わせると胸がドキドキするし、あからさまに挙動不審になってしまうから、しょうがないのだ。オレの気持ちを、渡瀬会長に知られるわけにはいかなかった。知られたらどうなるかわからない。それがただ怖かった。
 竹下はそんなオレに呆れて、顔を合わせるたび「告ればいいのに」と口喧しく言ってくるのだが、オレは今のところそれらを全て黙殺している。

 だって仕方ないじゃないか。

 オレが渡瀬会長のことを好きだなんて。
 男が男を好きになるだなんて。

 オレ自身、まだ受け容れられていないんだから。







 準備期間も残すところ今日一日となり、生徒たちは各々の持ち場の最終確認で忙しい。
 ステージ発表などのリハーサルも終わり、後は校内の細かい飾り付けや看板の設置をするのみだ。
 ざわざわと、どこか浮き足だったような生徒達のお喋りを聞きながら、オレも忙しくパタパタと校内を駆け回った。
 なんか楽しい。
 忙しいけど、少しワクワクする。
 普段とは違う校舎内の雰囲気が、なんだか、すごく「お祭りだー!!」って感じがするのだ。

(それに…忙しくしてると渡瀬会長のこと考えなくてすむし…)

 そんなことを思ってから、オレは雑念を振り払うように、ぶんぶんと首を横に振った。
 今は忘れるんだ。面倒なことは後で考えよう。
 臭いものにフタをするのと同じ理屈で、オレは心の中に渦巻くもやもやとした感情を全て隅っこに追いやった。

「えーっと、ガムテープガムテープ…」

 クラスの模擬店宣伝用ポスターを補強するため、先生に裏側に布製のガムテープを貼ると良いと言われたので、オレは教室を出てキョロキョロと周囲を見回した。B組に分配されたテープは全て使い切ってしまったのだ。
 廊下で作業をしている人たちに声をかけてみたが、あいにく持ち合わせていないという。
 さてどうしようか、とオレは首をひねった。

「あ、そういえば…」

 生徒会室に新品が置いてあったのを思い出す。
 …しょうがないな。取りに行くか。
 オレはくるりと回れ右をして、生徒会室へ向かった。


「失礼しま――す」

 ガラッ。

「「…」」
「…え?」

 生徒会室に着き、何の躊躇いもなく扉を開いたオレは、そのまま暫く硬直した。
 なぜなら。


「ちょっと。何じろじろ見てんの、このスケベ」
「ノックぐらいしてよね、緒方遼平」

 双子のラブシーンの真っ最中だったからです。


「―――す、すすすすスミマセン!!!」

 オレは扉を閉じた。
 そりゃもう素晴らしい勢いで閉じた。
 ビシャーン!と思い切り持てる限りの力を込めてその扉を封印した。


「…!?」

 ぜいぜいと肩で息をし、赤面しながら青ざめるという器用な技を無意識にこなしながら、オレは先ほど目にしたものが何なのか必死で理解しようと頑張っていた。

 だらだらと流れる汗を手の甲で拭う。

 えっと。
 落ち着け。
 
 あれは…五月先輩と皐月先輩?
 何やってたんだ?
 なんか2人とも、シャツの前がはだけてたんだけど…。
 ってか、キス…してるみたいな体勢だったような…。

 ―――…ん?
 え…えぇ?
 あれぇ!?

 それってつまり…2人がしていたこと・・・・・・って…まさか…まさかまさかまさか…!



「「おーがーたー」」

「うぎゃあああ!!」

 両手で封印していたはずの扉が突然動いて、その隙間から同じ顔が2つもにょきにょきと出てきたもんだから、オレは思わず悲鳴を上げながら後ろに倒れ込んでしまった。

「うるさいなー。バケモノ見たような声ださないでよー」
「そーそー。人の顔見るなり、その反応はちょっと失礼じゃない?」

「ふぇ…いつきせんぱい、さつきせんぱい…っ」

 し、心臓に悪い…!
 宙返り3回転はしているんじゃないかってぐらい激しく脈打っている。

 ばっくんばっくんと喧しい胸を手で押さえながら、オレは目の前のドッペルゲンガーを呆然と見つめていた。
 扉から顔だけ出した双子たちは、そんなオレを小馬鹿にするような顔で見下ろしている。
 
「「あーはっはっは。マヌケ面〜」」

「無表情で笑うなぁ!」

 そしてハモるな。指さすな。
 同じ顔だけに、2人そろっていると腹が立つことこの上ない。

 オレは悔しさを噛みしめながら立ち上がり、目尻をごしごしと擦りながら2人に近づいた。


「…何してたんですか、こんなところで」

 中途半端に開いている扉を完全に開け、双子と一緒に生徒会室内へ入りながら、オレはおそるおそる尋ねた。
 できるなら今すぐ回れ右をして全力ダッシュで教室まで駆け戻ってしまいたいところだが、この2人としっかりばっちり目が合ってしまった以上、逃げるのは得策ではない。
 後で「いきなり逃げるなんてひどいなー」とか、「スポーツマンのくせに目上に対する礼儀がなってないんじゃないのー」とか、例の ゆ〜っくり の〜んびりした口調で、ねちねち文句を言われてしまうからだ。あれは精神的に結構きつい。

 そんなオレの気持ちが伝わったのだろうか。双子は珍しくクスリと面白そうに笑うと、2人で肩を組みながら、ひょいっとオレの顔を覗き込んできた。

「何してたのか、って?」
「緒方も野暮なこと訊くんだねぇ」

「え…ど、どういう意味ですか」

「「見て分かんなかったの? 俺達のしてるコト」」

 その言葉に、オレは見る見る青ざめた。血の気が引いていくサーって音が聞こえたような気がした。
 先ほど、見てしまった光景を思い出す。
 デスクに座った五月先輩に、皐月先輩が腕を回して覆い被さって、シャツのボタンを外して、それで…

「き、ききききき…キス!!!」

「いやん、そんな大きい声で言わないで、緒方のえっち」
「さつき恥ずかしーい。もうおムコに行けなーい」

「なっ、は、え、はぁぁぁ…っ!?」

 言葉が出てこず、オレはそのまま絶句した。
 そんなオレの反応を楽しむかのように、双子がクスクスと笑っている。からかわれているのだ、完全に。

「緒方って、見たことないんだね。男同士のそういうとこ」
「…う、ぁ…」
「このガッコじゃ、そんなに珍しいことじゃないのにねー」
「ねー」

 双子が顔を見合わせ、肩をすくめる。

「本当は隠しておくつもりだったけど…ま、緒方にならバレてもいいかな」
「な、なにがですか」
「「俺達のカンケイ」」

 語尾にハートマークでも付きそうな、甘ったるい声で2人は言った。
 もとが美形だから、こういう喋り方をさせると本当に様になる。

「か、関係って…兄弟、じゃ…」
「兄弟だよー」
「そーそー。すっごく仲良しのね」
「な、仲良しだからって、あんなことするんですか!?」
「「しちゃ悪い?」」
「…う」

 黙り込むオレを、2人は無言で暫く眺めた。
 沈黙は、ほんの数秒だった。
 からみつく皐月先輩の腕からするりと抜けて、五月先輩がオレの顎をつかみ無理やり顔を上げさせる。

「っ、!?」

 びっくりして目を見開くオレを見て、五月先輩が目を細めた。

「顔まっ赤っかじゃん。かーわいいね、緒方。ほんと純情なんだ」
「ちょ…! やめ、」
「少し渡瀬会長の気持ちがわかるかもー」
「なに言ってるんですか…!」

 恥ずかしさのあまり、うまく抵抗できない。
 それを良いことに、五月先輩はオレに顔を近づけてはクスクス笑い、その反応を楽しんでいた。

 ―――表情が、なんかエロい。
 いつもの、ロボットみたいな喋り方をする五月先輩じゃない。


「…いつきー」

 放っておかれた皐月先輩が、拗ねたように片割れの名を呼ぶ。
 その声に「はいはい」と応じて、五月先輩はようやくオレから手を離した。

「他のヤツにべたべたしないでよ」
「ん、ごめん」

 不機嫌な弟をよしよしとなだめながら、五月先輩は時計に目をやった。

「あ。もうこんな時間だ。桐谷副会長に呼ばれてるから、俺もう行かなくちゃ」
「えー」
「皐月はここでお留守番ね。鳴沢先輩がもうすぐ来るから、企画書のファイリング手伝ったげて」
「…わかった」
「ん、いいコ」

 自分と全く同じ顔をするりと撫でてから、五月先輩はさっさと生徒会室を出て行ってしまった。
 後には、混乱のあまりフリーズしているオレと、退屈そうにデスクへ腰を下ろした皐月先輩が残された。


「…」

「…」

「…」

「…」

「あの、」

「何」

 ようやく我を取り戻したオレが声をかけると、皐月先輩はひどく面倒くさそうに顔を上げた。
 一瞬ぐっと詰まってから、オレは気を取り直して言葉を継ぐ。

「その…先輩たち、って…やっぱり、ああいうこと、いつも…?」
「まぁね。部屋も同じだし、夜は一緒に寝てるし」
「…」

 想像するな、オレ。

「いつから…?」
「生まれる前から」
「え?」

 きょとんとするオレを、皐月先輩は無表情で見つめた。

「五月は生まれる前から俺と一緒にいたんだよ。だから、生まれた後も一緒にいるのが当たり前じゃない?」
「…そ、そう、ですか」
「理解できないなら別にいいよ」

「あ、でも…あの」

 ぷいっと顔をそむけた皐月先輩へ、オレはめげずに言いつのった。
 けれど、自分の中にある思いは、うまいこと言葉に出来ず喉元で止まってしまう。もごもごと口だけを動かすオレに焦れたのか、皐月先輩は僅かに眉を寄せて溜め息を吐いた。

「何なの。言いたいことがあるならハッキリ言いなよ」
「あ、はい。すみません。…えっと、じゃあ訊かせてもらいますけど…皐月先輩は…その」
「俺が何?」
「…て、抵抗…ないんですか?」
「は? どういう意味」
「や、えっと、だから…男同士…の、恋愛に、対して…その」

 だんだんと尻窄みになっていくオレの言葉を、皐月先輩は正確に聞き取ってくれたらしく、面倒くさげな顔をしながらも「わかったよ」と口を開いてくれた。

「つまり、同性愛に偏見があるかどうか訊きたいわけ?」
「…はい」
「だったら、無いよ。――…他の人はどうだか知らないけどさ、恋愛なんて個人の自由だって俺は思ってるし」
「そう、ですよね…」

 やっぱり、竹下と同じようなことを言っている。
 性別やら何やらに拘っているオレの方がおかしいのかなと思って、知らず知らず溜め息が零れた。

 しかし。

「あ、でも一応言っておくけど、俺はゲイじゃないからね」
「はいっ!?」

 皐月先輩の言葉に、オレは素っ頓狂な声を出しながらバッと勢いよく顔を上げた。
 わ、わけがわからない。

「でも…さっきキスしてたじゃないですか!」
「だーかーらー。あれは違うのー」
「ち、違うって、何が!?」
「五月は例外なの。特別なの」
「…え…?」

 しぱしぱと瞬きを繰り返し、オレはじっと皐月先輩を見つめた。
 皐月先輩もオレを見つめ返し、静かに「簡単なことだよ」と呟いた。

「俺は男が好きなわけじゃない。女だって、好みのタイプなら付き合うし、キスもするしセックスもする。…っていうか、五月以外は女としかヤッたことないな。男とセックスなんて、考えただけで吐き気がするし」
「――…それじゃあ、どうして…」
「わかんない」

 首を振って、皐月先輩は遠くを見つめるような目をした。


「ただ、五月が特別なだけ」


 男も女も関係なく、ただ一緒にいたいだけ。

 好きになってしまった、だけ。




 そう呟く皐月先輩の顔を、オレは何も言えずに見つめていた。
 ガムテープを取りに来たのだということも、いつのまにやら忘れてしまっていた。













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