続・変態生徒会長とオレ。(26/82)PDFで表示縦書き表示RDF


続・変態生徒会長とオレ。
作:木立久美子



まさかコレが恋の始まり?(4)


 気がつけば外は真っ暗で、時計の針は最終下校時刻をとうに過ぎていた。
 黙り込んだまま俯くオレに、渡瀬会長が「帰ろうか」と笑う。

「手伝わせた上に、長話まで聞かせちゃって悪かったよ。…後悔したかい?」
「…少し」
「素直だなぁ」

 そう言って、渡瀬会長はクスクスと笑った。無理をして笑っているわけではなさそうだった。

「君が気にすることじゃないんだ。ただ、ボクが話したかっただけなんだよ。話して楽になりたかったのかも」
「楽?」
「うん。ずっと話せなかったからね。特にキリヤたちの前では、話題にすること避けてたし」

 オレはのろのろと帰り支度を始めながら、渡瀬会長の方を見やった。
 言葉が出てこない。こういうとき、気の利いたセリフを言えない自分が嫌になる。

「…大変、だったんですね」

 結局、ひどく月並みな言葉が口から零れた。
 渡瀬会長が「まあね」と肩をすくめる。

「生徒の信用を取り戻すのには随分と時間が掛かったよ。ホントは、今年の桜祭も取りやめになるはずだったんだけどね。キリヤがいろいろと根回ししてくれたお陰で、どうにか開催にこぎつけられたんだ。他にも、皆で署名集めたりとか、PTAに頼み込んだりとか、ホント必死だったよ」
「し、知りませんでした」
「だろうね。1年生に変な先入観与えたくなかったし、2・3年生には去年のこと厳重に口止めしておいたから」

 微笑む渡瀬会長の横で、オレはぐるぐると考え込んでいた。

(桐谷先輩…根回しって…いったい何をやったんだろ…)

 あの人なら、どんな悪どいことも平気でやってのけそうだなと思った。
 桐谷先輩はそういう人だ。親友のためなら、いくらでも汚れ役を引き受けるだろう。なんだかんだ言って面倒見が良いし、たとえ汚名をかぶっても、すぐに返上できるぐらい頭が良くて器用な人だから。

 2人の信頼関係が、ほんの少し解ったような気がした。ほんの少しだけど。


「――…あの」
「うん?」
「ひとつ、訊いてもいいですか」
「いいけど…何を」
「…その、花瀬さん達は、その後どうなったんですか…?」


 パチン、ガラリ、ピシャッ。

 電気を消して、扉を開いて、外に出て、扉を閉める。
 そんな当たり前の動作が、ひどくスローモーションに見えた。
 廊下を少し歩いたところで、渡瀬会長がようやく口を開く。


「1ヶ月の停学処分を受けたよ。復学後すぐに生徒会を辞めさせられて、桜木坂大学への優先入学も取り消された」
「…そう、ですか」
「傷害罪で逮捕されなかっただけマシだよ。警察が事情を解ってくれたから、大したお咎めはなかったんだ」

 その代わりに、大切なものを失ったけれど。
 





 校門を出て15分ほど歩くと、駅に着く。
 家まで送るという渡瀬会長の申し出を、オレは必死で断った。当然だ。女じゃないんだから、1人で帰ったってどうってことはない。
 でも渡瀬会長は、

「遼平は可愛いから絶対襲われる」

 とか言いながらオレの傍を離れようとしなかった。
「そんな変なこと考えるのアンタだけですよ」とオレが呆れてもお構いなしだ。
 先ほどのシリアスな空気はいつのまにか消えていて、渡瀬会長は普段通りの変態生徒会長に戻っていた。

「…会長って、よく二重人格とか言われません?」
「えっ、なにそれ。どういう意味?」
「いいえ別に」

 相手と2メートルほど距離を取りながらオレは首を横に振った。
 
「じゃ、オレ次きたら乗りますんで、このへんで」
「一緒に乗ってあげようか」
「いりませんホントいりません」
「まぁそんな遠慮せずに…」
「遠慮じゃねぇ! ってか会長、今日は手ぇ出さないって言ったじゃないですか!」
「ちっ」

 舌打ちした渡瀬会長は、拗ねたように目をそらした。

「あーあ、あんなこと言うんじゃなかったな。せっかく邪魔者が全員いないんだから、ヤりたい放題ヤっとけばよかった」
「何をだよ!?」
「え? 言ってもいいの?」
「言うな! 言わないでお願いだから!!」

 そのとき電車が来たので、オレは慌てて飛び乗った。
 渡瀬会長の笑い声がする。振り向けば、オレを見つめて楽しそうにクスクス笑っていた。

「やっぱり可愛いな、君は」
「は?」
「…なんでもない。また明日」

 
 扉が閉まる。
 ゆっくりと走り出す電車の中から、オレはじっと渡瀬会長を見ていた。
 渡瀬会長もオレの方を見ていた。

 どくん。

(…あ、まただ)

 やがて相手の姿が見えなくなった頃、オレは胸を押さえながら、ずるずると側の席に座り込んだ。
 どくん、どくんと、心臓の音がやけに大きい。
 何度も繰り返すうち、いつのまにかオレはそれに慣れてしまった。もしかしたら、ずっと渡瀬会長と一緒にいたせいで頭がおかしくなったのかもしれない。
 真面目に作業する横顔や、去年のことを話すときの静かな目を思い出すと、体が沸騰しそうになる。
 どき、どき、どき。
 …でも何故か、そんな胸の高鳴りですら、甘くて心地良いと感じてしまうのだ。


(やばい、かも。オレ)


 電車内はやけに空いていて、窓の外を流れる建物の光が、夜の暗闇に浮かんで見えた。
 きれいだな、と思う。今までは何とも思っていなかった景色が、やけに輝いていた。
 と同時に、嫌な予感がじわじわとオレの頭を浸食する。
 どくどくどく、どくどくどくと、心臓はいまだに落ち着きを取り戻さない。

(まさか…まさかコレって…)


 
 ああ世界が変わって見える!

 












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