続・変態生徒会長とオレ。(24/82)PDFで表示縦書き表示RDF


続・変態生徒会長とオレ。
作:木立久美子



まさかコレが恋の始まり?(2)


「緒方遼平君…でしたよね。なんだか顔色が良くありませんよ、大丈夫ですか?」

 高月さんはオレの真向かいに座っていて、少し身を乗り出しこちらを覗き込んでそう言った。
 くるんと上向いた睫毛はとても長くて、瞬きするたびにパタパタという音が聞こえてくるんじゃないかと思うほどだ。
 瞼にかかる真っ直ぐな黒髪も、すごくサラサラしている。
 年上とは思えないほど可愛らしい童顔が、今は心配そうに陰っていた。

 オレはふるふると首を振り、鼓動を押さえて「大丈夫です」となんとか答えた。

「でも、顔が真っ赤ですよ?」
「ききき、気のせいじゃないですか?」
「そうかしら…」

 ようやく納得したのか、高月さんは浮かせ気味だった腰をゆっくりと椅子の上に戻した。
 その瞳が、何かを思いついたように悪戯っぽく揺れる。

「あ、もしかして」
「…え?」
「渡瀬会長の姿に、ドキドキなさってたとか」
「〜ッ!」
「図星? 図星でしょう?」

 嬉しそうにキャッとはしゃいだ高月さんは、会議中なのを思い出し、すぐに声をひそめた。

「ああ、やっぱり可愛らしいですわ遼平君って。渡瀬会長には、もう告白したんですか?」
「し、ししししっ、してませんよ。なんでオレが…」

 すぐ横で話し合う先輩たちに聞かれないように、オレも負けじと小声で応戦した。
 女の子と話すのは久しぶり(なにせ男子校)だから少し緊張するけど、ここはきちんと否定しておかなくては。

「いいですか、高月さん。あなたや藤野さんの趣味にとやかく言うつもりありませんけど…その…渡瀬会長とオレは、お2人が妄想…じゃなくて、想像しているような関係ではなくてですね…。ええと、なんていうか、むしろその逆の…」
「鈴子です」
「は?」
「鈴子って呼んでくださいな。苗字の方だと、なんだか他人行儀な感じがして嫌なんです」
「はぁ…」

 説明を遮られ、眉を寄せるオレを見てニッコリすると、高月…じゃなくて鈴子さんは、やわらかい口調でこう告げた。

「素直になった方がいいですよ、遼平君」
「…え?」
「さっきのあなたの顔は、恋する少年そのものでしたから」
「…っ!」
「うふふふふふふ」

 絶句するオレの目前で、鈴子さんは意味深な笑みを浮かべていた。






 やがて外も暗くなったので、そろそろお開きにしようということになった。
 鈴子さんの言葉のせいでオレがおろおろしている間に、レクレーションゲームの段取りは全て終わってしまったらしい。まあ、たとえオレが正気だったとしても、あの3年生たちの会話に割り込めるはずはなかったんだけど。

 …っていうか、五月先輩と皐月先輩、ほとんど喋らなかったな。

「だって、めんどいじゃん」
「先輩たち、二言目には“めんどい”ですよね」
「「だって俺らの座右の銘だもん」」
「もうちょい前向きな銘はなかったんですか」
「「なかったんでーす」」
「…いちいちハモらないでください」

 息ぴったりにも程がある。

 溜め息を吐くオレの横で、渡瀬会長が「キリヤ」と副会長を呼び寄せた。

「藤野さん、ちゃんと家まで送ってあげてね」
「言われなくても」

「?」

 その会話が聞こえたオレは、きょとんと小首を傾げた。

「どうして…桐谷先輩が…」
「ああ、遼平は知らないんだっけ」

 振り向いた渡瀬会長が、悪戯っ子のように笑う。

「藤野さんとキリヤ、幼馴染みなんだよ。家が隣同士だから」
「…え?」
「もしかしたら恋人なんじゃないかっていう噂もあるんだよねー。聞いても、本人達は否定してるけど」
「えぇぇッ!?」

 バッと教室の外を見ると、ちょうど桐谷先輩と藤野さんが、仲むつまじく肩を並べて帰っていくところだった。
 オレは呆然と、その背中を見送る。頭の中には、ニヤリと意地悪く笑う桐谷先輩と、隙のない完璧な微笑を浮かべた藤野さんの姿が浮かんでいた。

「は、腹黒カップル…!」
「他に言うことないの、君は」

 渡瀬会長が面白そうに笑った。






 というわけで。
 何がどういうわけなんだか知らないけど、オレは渡瀬会長と2人きりで生徒会室に残ることとなってしまった。

 …なんで。
 
「ごめんね。疲れてるところを手伝わせて」
「あ、いや…平気です」

 オレはそそくさと目をそらし、目の前の準備に没頭しようとした。
 目の前にあるのは、ボロボロになった古い看板。釘や金槌を手に、カントンカントンとそれを修理していく。

 何故オレがこんなことをしているのかというと。
 話は、15分ほど前にさかのぼる…。



『え? 看板が?』

 桐谷先輩と藤野さんが帰り、天宮兄弟の姿もいつのまにか消え、家の方向が同じだという鈴子さんと鳴沢先輩が一緒に下校していった、その直後のことだった。
 さぁオレも帰るぞと下校の準備をしていたところに、執行部顧問の先生が慌てたように駆け込んできたのである。

 桜祭の看板が壊れてる、と。

『…ほら、去年の事件で少し、な。本当は昨年度のうちに修理しておくべきだったんだが、すっかり忘れていて…』
『そうですね…ボクもうっかりしてました。すみません、先生』
『いやいや。まぁ、本番前に気づけて良かった。すぐに修理しよう』
『…しかし、こんな時間ではもう人手が…』

 どうやら、桜祭の看板は、毎年同じ物を使いまわしているらしい。
 だがその看板は、去年の“事件”で壊れてしまっていて…―――その“事件”が何のことなのかオレにはよく解らなかったけど、とりあえず、その看板は大切なものだから、今すぐ修理しなければいけないということは理解できた。

 でも、いま校内に残っているのは、先生を除けばオレと渡瀬会長の2人だけで…。

『――…あの』

 振り向いた2人に、オレはおそるおそるこう言った。

『オレ、手伝います』



 で、現在に至る。












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