いきなりシリアスになるなよ馬鹿王子。
覚醒する意識。
ゆっくり、目を開けると。
「ああ遼平。目、覚めちゃった?」
…変態がいました。
「あはっ、キスしたら急に眠り込んじゃうんだもん。驚いたよ。普通は、王子様のキスで姫の目が覚めるものなのにさ」
「誰が王子で誰が姫だこの妄想爆発男」
「だって、恋する男は夢ぐらい見なきゃ」
「その恋する相手も男ってことに対しては疑問を持たないんですか」
「大丈夫だよ。遼平って一見地味だけど、よく見れば睫毛長いし肌はキレイだし口元もカワイイし。充分、受けとしてやっていけるさ。あ、でも君が女役は嫌だって言うなら、ボクが受けにまわって君が攻めでもOKだよ。ボク、どっちでもイケるから」
「何の話をしてるんだか、ぜんぜん理解できないんですが」
「そんな顔しないで。せっかくの可愛さが台無しだ。それに、役割分担は大切なことなんだよ?」
「会長、意味がわかりません」
「理解能力が乏しいんだね。ああでも、馬鹿な子ほど可愛いって言うもんなぁ…うん、それはそれでまた良し」
「良くありません頼みますからオレにわかる言語で話してください。変態の言葉は理解不能です」
「わかった! これが本当のバカ可愛いってやつだね」
「すみません解りません。…っていうか」
部屋を見回す。
「なんで、いつのまにオレの部屋…」
「わざわざ運んであげたんだよ、お姫様だっこで。感謝してくれる?」
「いやあの、わざわざお姫様だっこで運ぶ理由が解らないし、そもそも倒れたのはアンタが原因だし。…っていうか、家に来るのは初めてのはずなのに何でオレの部屋の位置がわかったのかを訊きたかったんですが…」
「ふふっ、愚問だね。ボクは遼平のことなら何でも知ってるよ☆」
「うわぁサラリとストーカー宣言しやがったこいつ!!」
「まあまあ、そんなに熱くならないで。安心してよ。本当に今日は何もする気は無いからさ」
「…とか言いつつオレのパジャマのボタンをはずそうとしているこの手は何なんですか」
「だって、中がどうなってるのか気になるじゃないか」
「自分のを見ればいいでしょう同じ男同士なんだから!!」
「え、ボクも脱げってこと? …やだなぁ遼平ってば大胆なんだから」
「うぎゃああああ違う違う違う!!! 脱ぐな! 脱がないでください!」
「ちっ」
舌打ちしながら渡瀬会長は手を止めた。
オレは警戒しながら、ベッドの上でじりじりと後退する。
ホントに油断も隙もあったもんじゃない。
もちろん、この変態の前で油断やら隙やらを見せたら、一気に食われてしまうことぐらい重々承知していたけれど。
「…まぁいいや。遼平、とりあえず、さっきの話の続きをしようか」
「つ、続き?」
「そう。プレゼントを持ってきた、って言っただろう?」
そういえば。
衝撃的な出来事(デコちゅーとかデコちゅーとかデコちゅー)のせいで忘れてたけど、確かにそんなことも言っていた。
「お、オレ別に誕生日とかじゃないんですけど…」
「わかってる。でも、店で君にぴったりのもの見つけたからさ、すぐに渡したくて」
「はあ…」
なんか嫌な予感がする。
逃げたいけど、でも、目の目に渡瀬会長が居るから無理。
オレは仕方なく、会長がごそごそと鞄を探る様子を見つめていた。
そして。
「ぱんぱかぱ〜ん、メイド服〜♪」
「ああやっぱりな!! ああそんなことだろうと思いましたよ、ええ!!」
会長が取り出したのは、フリフリの可愛らしいメイド服。
一体どこで買ったんだとか、そういう疑問はとりあえず脇に置いといて。
「遼平、着てくれる?」
「 絶 対 無 理 ! 」
メイド服を着るぐらいなら、海パン一丁で外を歩く方がまだマシだ!
オレが拒否の意を示すと、渡瀬会長は僅かに首を傾げて、そのメイド服を目前にちらつかせた。
「はやりの服は嫌いかね?」
「黙れム○カ! 全国のジブリファンに全力で土下座しろ!」
日本が誇るアニメの巨匠・宮崎駿の名作を汚さないでくれ。
「確かにメイド服はある意味はやりとも言えるけど、でもソレ男が着るもんじゃないでしょうがッ!!」
「ボクは気にしないよ?」
「あんたが良くてもオレが気にするんです! 世界が自分を中心に廻ってるとでも思ってんですか!!」
「何を言ってるの遼平。世界はボクと君を中心に廻ってるんだよ」
「真顔で淡々と言わないでーッ!」
っていうか、あんた受験生でしょうが。
高校三年生が朝っぱらから後輩の家で遊びほうけて良いとでも思ってんですかコノヤロー。
さっさと家に帰って勉強するなり学校に行って生徒会の仕事を片付けるなりして下さい!!!!
「そんなに着たくないの?」
「当たり前です!」
「ふーん、そう。じゃあ仕方ないね」
「…?」
意外にあっさりと退いた会長に、オレはきょとんと目を瞬く。
あれっ、どうしたんだろう。まさか、やっとオレの気持ちを解ってくれたのかな…
「仕方ないから、むりやり着せることにしたよ」
「うっぎゃーやっぱりぃぃぃぃぃッ!!!」
そんなことだろうと思ったよちくしょう!
咄嗟に部屋の外へ避難しようとしたけれど、腕をがしっと捕らえられ、そのままベッドに縫い止められてしまう。
すげぇ力。一応、オレもスポーツ特待生として毎日体を鍛えてはいるのだけれど、なぜか上手く抵抗できない。
渡瀬会長はにこにこしながらオレの服に手を掛け、反対の手で器用にオレを押さえつけながら脱がせようとした。パジャマのボタンはいつのまにか全部はずされている。ほんといつのまに。
もちろんオレは必死で抵抗。
「やだやだやだやだこの変態! 離してください!」
「遼平、あんまり騒ぐと近所迷惑だよ」
「お前が言うなー!!…って、ぎゃわわわわわっ! どさくさに紛れてどこ触って…っ」
「ごめんねーボクも健常な男子高校生だから。欲情しちゃったーあはははー」
「あはははじゃねーッ! ちょ、マジかよ…やっ…ん」
「わ、エロい声。誘ってんのかな?」
「違っ…!」
やばいやばいやばい。
今までもやばかったけど、今回のはマジでやばい。
だって渡瀬会長、さっきから真顔のまんまだし!!!!
「ひっ…ちょっと、そんなとこに手ぇ入れないないで下さ…っぁ」
「メイド服を着てくれるなら、やめてあげてもいいよ」
「ぜ、絶対に嫌だ!…っ、ふ」
「へえ。耳もと弱いんだ」
にたり、と会長が笑った。
いつものヘラヘラした笑顔じゃなくて、なんかこう…獲物を狙う猫、みたいな。
前回の鬼ごっこのとき、ラストの方で見せたあの表情に少し似ていた。ものすごく楽しそうな顔。
「いいかげん、ボクも限界なんだよね。…こんなに好きだって言ってるのに、君はちっともボクの方を見てくれない。顔を見ればすぐに逃げるし、話しかけても怒鳴ったり怯えたりするだけで、笑いかけてもくれない。まあ、嫌がってる君の顔も可愛いから、最初のうちはそれでも良かったんだけどさ。…でも…そろそろ、物足りなくなってきたんだよ」
「…ひぁ、…くっ…あ」
「早く降参しなよ、遼平。ボクの方を見て。一度だけでも良いから、好きだって言って。…笑ってよ。そしたらもう二度と、君の嫌がることはしない。メイド服も着なくていい。放課後の鬼ごっこも、もうおしまいだ」
「んっ…や…何を言って…」
「好きです、って。一言だけで良いんだよ。それで全て終わる」
「なっ…」
「ほら。早く言えったら」
「い、嫌だ!」
心にもないことなんて、言えない。
渡瀬会長のことは嫌いだし、嘘を吐いても良心なんか痛まないけど、でも言われたとおりにするのは癪だった。
嘘で「好き」なんて言葉、言いたくない。
保身のために、自分の心を犠牲になんてしたくない。
早く逃げなくちゃ、と思うけど、利き腕は会長に押さえつけられているし。体の上にのしかかられている状態だから、逃げようにも逃げられない。せいぜい足をばたつかせるぐらいなものだ。
一応、空いているもう片方の手で会長の肩や腕をばしばし叩いたり体を押し返そうとしたり、反撃らしきことはしているのだけど、効果はあまり見られない。
絶体絶命、って感じ。
「しかたないね」
渡瀬会長は笑みを消してそう言うと、メイド服を邪魔くさそうにバサッと後ろへ放り投げた。
何をするのかと思えば、そのままオレに顔を寄せてくる。
キス、されそうな体勢だった。
「ぎゃっ、ちょ、ちょっと何…」
「メイド服は後回し。遼平が言うこと聞かないから、お仕置きしないとね」
「な、なんだよそれ、理不尽にもほどがあるだろ…ってギャァアァアアア近い近い近い!! 顔近いッ!!」
「黙れよ」
唇が、どんどん近づいてくる。
会長の、黙っていれば端整でカッコイイ顔が、信じられないくらい近くにある。
――――もう駄目だ。
諦めて、オレはぎゅっと目をつむった。
唇が触れそうになった、そのとき。
ピンポーン。
インターホンが、鳴った。
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