続・変態生徒会長とオレ。(18/82)PDFで表示縦書き表示RDF


続・変態生徒会長とオレ。
作:木立久美子



王子様を放っておくと大変なことになります。


「えーっと…そろそろ本題に入ってもいいかな?」

 おそるおそる尋ねる鳴沢先輩の背後で、額に青筋を浮かばせた桐谷先輩が渡瀬会長を睨みつけていた。
 長かった説教からようやく解放された天宮兄弟は、これ幸いとばかりに立ち上がり、そのままスタコラサッサと生徒会室を出て行ってしまう。

「こらー! 五月っ、皐月―――ッ!!」

 その背中に向かって、渡瀬会長の怒号が飛んだ。







「まったく。貴重な時間を無駄にしやがって…」
「だってあいつらが遼平にひどいことしたんだもん。…くそう、まだ言いたいこと沢山あったのに。キリヤが邪魔するから、あいつら逃がしちゃったじゃないか」
「長すぎるんだよ、お前の説教は」
「つーん」
「そっぽを向くな。そして効果音を自分で言うな」

「…」

 まるで兄弟のような会長と副会長の様子を、オレは随分と冷めた目で見つめていた(と、後に鳴沢先輩から聞いた)。

「まあまあ、キリヤ。そのへんで終わりにしようぜ。話が先に進まない」

 鳴沢先輩が苦笑する。
 立ち話も何なので、暫くして差し出された椅子に、オレは素直に腰を下ろした。
 双子のドタバタ劇と渡瀬会長の説教で大幅に時間をロスしてしまい、桐谷先輩は少しイライラしている。
 その隣で、鳴沢先輩だけがいつも通り(ちょっと怯えてるような感じだけど)オレの方を見て微笑んでくれていた。

「ごめんな、休み時間にまで呼び出して」
「…いえ。大丈夫です」
 
 オレが首を横に振ると、鳴沢先輩は少しホッとしたような顔をして、手元の資料をこちらに差し出した。

「今日は、学園祭の詳しい内容について説明するために呼んだんだ。緒方は去年のことを知らないし、最初にだいたいの流れを頭に入れておいた方が、あとで混乱することもないだろうと思って」
「お気遣いありがとうございます」

 …くっ…やっぱり良い人だぜ鳴沢先輩…!
 と、感涙しているオレを、渡瀬会長はあんまり面白くなさそうに見ていた(と、後に鳴沢先輩が遠い目で語ってくれた)。


「んじゃ、まず資料の1ページ目ひらいてー」

 言われたとおりにペラリと紙をめくる。
 すると、丁寧にまとめられた資料の一番上に、<さくらさい概要>という見出しが踊っていた。

「…桜祭?」

 秋なのに、なんで“桜”祭?

 首を傾げながら顔をあげると、桐谷先輩が怪訝そうに目を細めた。

「どうした。まさか、涼の作った資料に何か不備でも?」
「(これ鳴沢先輩が作ったんだ…)あ、いいえ。ただ、この“桜祭”ってどういう意味かな、って…。秋なのに桜祭って、少し変わってますね」
「「「…」」」
「え? えっ? オレ、なんか変なこと言いました!?」

 いきなり3年生全員がオレの顔を凝視したので、オレはビックリして首をすくめた。
 おどおどしながら桐谷先輩を見やると、呆れたような顔で思いっきり「はぁ…」と溜め息を吐かれてしまった。

「緒方…」
「は、はい」
「我が校の正式名称を言ってみろ」
「せ、正式名称? ―――…えーと確か…私立桜木坂さくらぎざか大学附属桜木さくらぎ男子高等学校…って、あ!」

 オレが気づくと同時に、桐谷先輩が深く頷く。

「そう。だから“桜祭”だ。…言われなくても気づけ」
「…うう…す、すいません…」

 やべぇ。なんか分かんないけど、すっげー恥ずかしい。顔から火が出るって、こういうときに使うのかな…。

「大丈夫! 恥ずかしがってる遼平も可愛いよ☆」
「うっさい黙っててください変態生徒会長!!」
「うわーい遼平が怒ったぁ♪」
「喜ぶなッ!!」
「落ち着け、緒方」

 叫ぶオレを片手で制し、桐谷先輩が再び不機嫌モードで渡瀬会長を睨む。

「…透。お前しばらく黙ってろ。話が進まない」
「えー」
「いいから喋るな!」
「ちぇっ」

 子どものように拗ねた表情で、渡瀬会長が口を閉じる。
 その横で、鳴沢先輩が必死で話を元に戻そうとあたふたしていた。

「え、えっと。まぁとにかく、必要なことは全部その資料の中に書いてあるから。今週末に実行委員会議があるんで、そのときまでに読んでおいてくれるかな? わからないことがあれば、俺たちのところまで聞きにきてくれればいいし…」
「あ、はい。わかりました…」

 頷きながら、なんとなくパラリとページをめくる。
 すると今度は、<ゲストについて>という見出しが目に飛び込んできた。

「…あのー」
「何?」
「この、ゲストって何なんですか?」
「ああ、それ」

 オレの手元を覗き込んで、鳴沢先輩がニコリと笑う。

「伝統というか…いつのまにか出来た慣習みたいなもんでさ。毎年、桜祭には隣の学校からゲストを呼ぶんだよ」
「隣の学校?」
「おう。…って、もしかして緒方、それも知らないのか?」

 わけがわからずキョトンとしているオレを見て、鳴沢先輩が苦笑する。

「姉妹校の、私立桜坂さくらざか女子高校のことだよ。駅1つ向こうに建ってるだろう」
「じょ、女子校っ?」

 オレはびっくりして目を見開いた。姉妹校があるなんて初耳だ。
 そんなオレを見て、桐谷先輩が「お前はこういうことに関して本当に疎いな」と顔をしかめた。

「もう少し、自分の学校に関心を持て」
「え…あ、はい。すみません」

 叱られてしまった。

 なんとなくシュンとするオレを見て、鳴沢先輩が「まぁまぁ」と桐谷先輩をなだめた。

「特待生なんかやってると、どうしても周囲より情報が遅れがちになるもんなんだよ。学校生活の殆どが、勉強や部活で潰されるからな。…そんなことより、説明の続き」
「あ、はい。お願いします」

 オレが頷くと、鳴沢先輩はごそごそとファイルを取り出して広げた。どうやら昨年のデータらしい。

「隣校のよしみってヤツでさ、お互い学園祭のときには、生徒会から助っ人を何人か送るんだ。…名目上は“ゲスト”…つまりお客さんってことになってるけど、実質はほとんどお手伝いさんみたいなもんだな。運営上、俺らの手の回らないところを助けてもらったり、学園祭そのものを盛り上げてもらったりするんだよ」
「はぁ…」
「男子校に女子が居るってだけで、野郎共は大騒ぎだからな」

 鳴沢先輩が、はじめて面白そうにニヤッと笑った。
 いつもの困ったような微笑みじゃなくて、なんだか悪戯っ子みたいで新鮮だ。こういう顔をする先輩も格好いいなぁと、オレは少しドキっとしながら思う。

「…」

 それを、渡瀬会長はものすごく面白くなさそうな顔で眺めていた(と、後で桐谷先輩が言っていた)。


「あの。よしみってことは、もしかして…桜坂女子校の学祭のときは俺たちが…」
「うん、そういうことになるな」

 まごつくオレには気づかず、鳴沢先輩はあっさりと頷き、笑った。

「たいてい、生徒会長と次期生徒会長の2人が行くんだ。それプラス、副会長も呼ばれたりすることもあるけど」
「…つまり? 今年はオレとそこにいる魔王と変態が一緒になって女子校へお邪魔することになる、と?」
「…うん…まぁ…順当にいけばそうなるな…ってゆーか魔王って」

 オレたちは声をひそめた。(もともと途中から小声で話してたけど)

「なんか魔王っぽくないですか? 桐谷先輩」
「うんまぁ…ひ、否定はしないけどさ…」

「おい、何か言ったか?」
「「ナンデモゴザイマセン!!」」

 オレと鳴沢先輩は慌ててブルブルと首を横に振った。――…あ、あっぶねぇ〜ッ!!(汗)



「…ねぇ」

 それまで、桐谷先輩に言われたとおり大人しく黙っていた渡瀬会長が、急に口を開いた。滅多に聞いたことがないくらい、低くて不機嫌そうな声。このあいだの、冷たい目を見たときとなんだか雰囲気が似ていた。
 オレは思わずビクッとしながらそちらを振り向く。
 すると…。


「どうでもいいからさ、さっさと説明終わらせてくんないかな…涼…?」

(訳:さっさと説明終わらせてボクの遼平から離れろコノヤロー)


「ひっ」

「…!」

「…」

 氷の王子様、降臨。
 
 目が笑ってないです生徒会長。

 小さく悲鳴を上げて怯える鳴沢先輩を、たいして動じていない桐谷先輩が溜め息混じりに支え(どうやら慣れてるらしい)、オレは渡瀬会長の不機嫌オーラにあてられて足がすくんでしまっていた。



「ん、どうしたのかな?」
 
 おびえるオレと鳴沢先輩の顔が見られて満足したのだろうか。それとも、随分と遠くから聞こえた(ような気がした)昼休み終了チャイムの音が、オレ達をまともな現実へ引き戻してくれたのだろうか。
 暫くして、何事もなかったかのように微笑む渡瀬会長の顔を見て、俺は思った。


 …ああ。
 きっと、これからはもっともっと大変なことになる!


 奇妙なことだけど、多分その直感は、そう遠くは外れていないはずだった。















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