続・変態生徒会長とオレ。(16/78)PDFで表示縦書き表示RDF


続・変態生徒会長とオレ。
作:木立久美子



閑話休題・・・?


「で? 結局、引き受けることにしたのかよ」
「…まだ、わかんねー」

 昼休み。
 オレは学年委員の竹下と一緒に、教室のベランダでしゃがみこんでいた。
 昨日の出来事―――生徒会室で渡瀬会長に言われた言葉を、何度も何度も頭の中でリピートしては溜め息を吐いている。

「とりあえず、次の行事の実行委員をやることには、なった」
「次の行事って…ああ。学園祭か?」
「そ。執行部の助っ人、って形でな」

 答えてから、再び溜め息。
 ああちくしょう、何回目だよ。幸福がどんどん逃げてっちゃうじゃないか。
 そう思うけど、でも、止められない。口を開けば溜め息ばかりだ。オレの運気は、いま間違いなく急降下中だろう。
 そんなにシケた顔すんなよ、と竹下に背中を叩かれ、また吐息が漏れた。

「だいたい、なんでオレなんだ…」
「お前、昨日からそればっかだな」
「うるさい。次期生徒会長なんて、もっと優秀なヤツがやるべきだろ?」
「成績が良ければいいってもんでもないと思うぜ。委員会活動とか、そういうのに積極的じゃないと…」
「じゃあ尚更オレでなくてもいいじゃんか」
「いや、でもさ」
「うるさい。うるさいうるさいうるさいうるさい。…あーもう、ホント誰でもいいから代わってほしいよ。っていうか、このさい竹下でいいじゃん竹下で」
「はぁ〜?」

 顔をしかめる竹下。
 半ばヤケになっていたオレは、乾いた声で笑ってみせた。

「いいじゃないか竹下くん。オレの代わりにやってくれよ生徒会長。学年委員会じゃ、けっこう活躍してるんだろ?」
「ナニソレひっでぇ言い方だな。俺を身代わりにするのかよ? お前、クラスメイトを何だと思ってるんだ!」
「そのクラスメイトを大人数で取り囲んで押さえつけてた野郎に言われたくない」

 恨みがましく言ってやると、竹下は「だって執行部の命令だったんだもん」と唇を尖らせた。
 うわ、可愛くねー。

 冷めた目をするオレを横目に、竹下は何だか熱っぽい顔で言葉を継ぐ。


「でもさぁ、緒方。考えてもみろよ、光栄なことじゃないか。執行部だぜ? 生徒会長だぜ!? みんなのリーダーだよ! かっこいいじゃん! 何がそんなに嫌なんだよ」
「…」

 竹下の言葉に、オレは無言で俯いた。
 どう答えればいいのかわからなかった。

 思い浮かぶのは、昨日の渡瀬会長の顔。ほんのりした甘い匂い。
 まるで小さい子どもをなだめるみたいに、優しい笑顔。

『ごめんね。でも、ボクたちには君が必要なんだ。下心を抜きにしても、君以外に生徒会長に相応しい人間はいないんだ、って―――…ボク達みんな、心からそう思ってるんだよ。遼平』

 騙されるもんか、と思った。
 どうせ、いつもみたいにオレのことからかってるだけなんだ。
 そんな優しい顔したって、騙されてなんかやらない。オレは知ってる。ちゃんと知ってる。渡瀬会長は悪魔だ。バカだ。変態だ。最低野郎だ。大ッ嫌いだ!


「…んだよ」
「は?」
「嫌なんだよ。渡瀬会長の、傍にいるの。すげぇ嫌」
「なんだそれ」

 竹下が顔をしかめて、呆れたように肩を落とした。

「嫌だ嫌だって、子どものワガママみたいな理由だな」
「だって…襲われたくないし…オレ、あの人のこと嫌い…だし」
「お前なー」

 わざとらしい溜め息と共に、竹下がオレの顔を覗き込む。

「前から思ってたんだけどさ、緒方って、渡瀬会長のどこが気に入らないの?」
「えっ?」
「だって。渡瀬透って言ったら、我が校のアイドルみたいなもんじゃん? すげぇ人気だし。そんな人に好きだって言われたら、フツーもっと喜ぶだろ」
「え、は、いや…だって。喜ぶって言っても…あの人…お、男じゃん」
「だからどうした」
「はいっ?!」

 オレは素っ頓狂な声を出して、思わず竹下の顔をまじまじと見つめてしまった。
 男が男に好きです、なんて。どう考えてもおかしいだろ?
 オレはそう続けようとしたのに、竹下があんまり真面目な顔をしているもんだから、うまく言葉が出てこない。
 酸欠になった金魚のように口をぱくぱくさせるオレを見て、竹下は苦笑した。

「オーバーリアクションだな。俺、そんなに驚かせること言ったか?」
「え、だって…」

 だって。
 男同士、なのに。

「竹下…お前…平気なのか?」
「何が」
「えっと…だから、その」
「同性愛?」
「そう、それ。…変、とか思わないのかよ」
「ぜんぜん」

 竹下は首を横に振って、笑った。
 そして、何やら内緒話をするときのように、オレの方へ顔を寄せてくる。

「ここだけの話だけどさ、俺の兄貴の友達に、ソッチ系の人がいるんだよ」
「はい? ソッチ系って…」
「だから、これ」

 竹下は顔の横に手を添えて、独特のしな・・を作った。
 …言わずとしれた、オカマさんのポーズ。

 オレがあんぐりと口を開けると、竹下はさも面白そうに声を立てて笑う。

「ま、そういうわけだから。俺はゲイとかオカマとか、そういう人たちに対する偏見は一切持ってません」
「は、初耳」
「そりゃ、初めて言ったんだもん。わざわざ言いふらすようなことでもないしさ」
「う、うん…」
「そんな顔すんなって。いいんじゃないの同性愛。誰に迷惑かけてるわけでもないし」
「放課後のたびに追っかけまわされてるオレは充分迷惑なんだけど」

 一応ツッコミを入れてから、オレは苦笑した。
 なんだか馬鹿らしくなってきた。

「…でもさ、竹下。渡瀬会長はオレの好みのタイプじゃないんだよ」
「ふーん? じゃあ、お前の好みってどんな人だよ」
「え、えっと…そりゃあやっぱり、明るくて優しくて…」
「渡瀬会長も明るいし、優しいじゃんか」
「笑顔が可愛くて…」
「渡瀬会長の笑顔も可愛いぞー? っていうか、綺麗だよな」
「…誠実で、浮気もしなくて…」
「渡瀬会長お前一筋じゃん。ぜったい浮気しないって」
「…料理が上手で」
「渡瀬会長、器用だから何でも出来ると思うぞ」
「…」
「一体どこが不満なんだよ。お前の好みにぴったり一致してるじゃないか」
「…オレは女の子が好きなんだ!」
「あ、そう」


 頭を掻きむしるオレを横目に、竹下がよっこらしょと立ち上がる。
 ズボンに付いた埃をぱんぱんと叩き落とし、いまだに座り込んだままのオレの手を引いた。

「まっ、もう逃げられないと思うけどな。…ほら、立てよ緒方。昼休み中、ずっとこんな場所にいるわけにもいかないだろ?」
「…動きたくない」
「動け。ほら」

 無理やり引っ張られて、腕が引っこ抜けるかと思った。
 …おいこら、スポーツ特待生の体をなんだと思ってるんだ。もう少し丁寧に扱いやがれ。
 そう言ったら、竹下は小さく笑ってゴメンゴメンと言った。
 悪びれもしない級友を軽く睨みつけてやりながら、オレはほんの少しだけ楽になった体を引きずり、教室内へと戻る。

 ―――実行委員、か。

 まあとにかく、引き受けるからには真面目にやろう。
 そんなことを考えられる余裕が、心の隅にちょこっとだけ生まれてきたらしかった。














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