続・変態生徒会長とオレ。(12/82)PDFで表示縦書き表示RDF


続・変態生徒会長とオレ。
作:木立久美子



自分のワガママに周囲を巻き込んじゃいけません。


「―――ちょっと、キリヤ。ボクの許可無しに遼平を怯えさせないでくれる?」

 今度こそ、バックにお花を背負ってのご登場。
 大魔王(桐谷先輩)に襲われかけている非力な少年(オレ)を助けにやってきたのは、

「勝手なマネをしないでよ。…彼は、今日の主賓なんだから」
 
 …大魔王よりも更にタチの悪い、我が学園最強最悪の王子様でした。




「わ、渡瀬会長…!」

 廊下の喧噪に気づいたのか、生徒会室の扉をがらりと開けて、渡瀬会長が颯爽と現れる。
 相変わらず外見だけは綺麗な人だ。
 これで中身がアレじゃなかったら、オレはこの人のことを救世主のように思っただろうに。

 オレのそんな考えなどいざ知らず、渡瀬会長はニコニコしながら近寄ってきて、オレの前に立ちはだかっている桐谷先輩の肩に手を置き、その笑みをいっそう深くした。

「キリヤ」
「…わかってる。冗談だよ」

 桐谷先輩は、割とあっさり退いてくれた。
 黒いオーラにあてられて硬直していたオレは、安堵してフッと肩の力が抜けるのを感じる。

 桐谷先輩はそんなオレを横目でちらっと一瞥してから、やれやれと言うふうに渡瀬会長に向き直った。

「ちょっと脅してみただけだろう。緒方のことに関しては本当、冗談の通じない奴だなお前は」
「うるさいよ。ボクの所有物ものに手ぇ出したら、いくら君でも怒るからね?」

「誰がいつアンタのものになったんだよっ、誰がッ!!!」

 つい普段のくせでツッコミを入れてしまったオレは、次の瞬間、自分の愚かな行為を深く後悔した。
 こちらに目を向けた渡瀬会長が、ぱぁぁっと華やかな笑みを顔中に広げ、オレに抱き着いてきたからだ(天宮先輩はサッとオレから離れた)。

「遼平〜♪ 一週間ぶり〜♪」
「わわぁっ、来んな来んな!!…って、ちょ、…いきなりどこ触って…んっ!」
「怖がらせちゃってゴメンねー桐谷に変なことされなかった??」
「されてます今あんたに現在進行形で!!…ひっ、や…!」

 ボタンをはずすなシャツの中に手を突っこむな首筋にキスすんな耳もとで喋るな!

 いきなり何なんだよこの状況。わけわかんない。
 とりあえず、なんとか逃れようとジタバタしてみたものの、この怪力生徒会長(見た目は細いくせに)の前では赤子同然だ。腰に手を回され抱きしめられればもう逃げることなど不可能で、せいぜい唇を奪われないように顔を背けるぐらいしか、抵抗の手段はない。
 そんなふうに襲われているオレの様子を、桐谷先輩と天宮先輩は助けてくれることもなく、ただ少し離れた場所で傍観していた。

「うーわー…他人のラブシーンって…なんか生々しいですね、桐谷副会長」
「俺はもう慣れたがな。前に、パジャマ姿の緒方が押し倒されてるのも見たことあるし…」
「え、マジすか。それどんな状況ですか」
「ほら、この前の休日、イベントの打ち合わせをしてたら渡瀬の姿が見えなくなっただろう? 実はアイツ、あのとき緒方の家まで押しかけててな…」
「へー。あ、そういえば、そのあと桐谷先輩までいなくなりましたよね。会長を迎えに行ったんですか?」
「ああ。緒方の家に行って、部屋まで上がらせてもらった。そうしたら…」
「…緒方が襲われてる真っ最中?」
「そうそう」

「あんたら悠長に喋ってないで早く助けろ―――ッ!!…っふ、や、ちょっと渡瀬会長…いいかげんに…やだっ」

 恥ずかしさのあまり泣きそうになりながら身をよじると、渡瀬会長はようやく満足したようにオレを解放した。

「ごめん。久しぶりに会えたから嬉しくて。…泣かないでよ」
「だ、誰が泣くか!」

 慌てて目をごしごし擦り、乱れきった制服を直しながら、オレは渡瀬会長から距離を取って叫んだ。

「あーもー! なんなんですか一体! 急に姿を現さなくなったと思えば突然こんなところに呼び出したりして! 俺はあんたのオモチャじゃないんです言いなりになると思ったら大間違いです!」
「わかってるよ。ボクの言いなりになってくれるような君じゃないからこそ、こうやって遠回しに呼び出したんじゃないか。わざわざ執行部の2年生に頼んでまで」
「は? 執行部の2年生…―――って、天宮先輩!?」

 バッと振り返って天宮先輩を見る。

「はーい。生徒会執行部会計長でーす。黙っててごめんねー」

 ヒラヒラ手を振りながら、ふざけた言葉とは反対に無表情で淡々と言う天宮先輩。

「あんた絶対謝る気ゼロだろ!?」
「そんなことないよ。心苦しくて今にも胸が潰れそう」
「じゃあもうちょっと心苦しそうな顔をしろ―――ッ!!」

 本っ当にマトモな人間いねぇな生徒会!(鳴沢先輩以外)


 そりゃ確かに、桐谷先輩の指示を受けてるって時点で、オレの味方じゃないことは分かり切っていたけれど。
 ああそれにしても、あんなふうにふてぶてしい顔をされてたら、たとえ上級生といえどもムカつくもんはムカつく。
 体育会系だから目上の人に対する礼儀は他よりキッチリしているつもりだけれど、今回ばかりは礼儀だとか何だとか、そんなことは言ってられない。
 だって。なんか、このまま怪しい世界に引きずり込まれちゃいそうな気配がむんむんしてるし!!


「と、とにかく俺は帰らせてもらいますからーッ!!」
「あ。逃げた」

 そりゃ逃げるっつーの!

 どだだだだっ、と廊下なのに砂煙が上がるぐらい俺はダッシュで生徒会室から離れた。
 そりゃもう、大会のときよか必死なぐらい全力で。
 …だってほら、あの化け物スタミナ王子様(渡瀬会長のことね)に追いつかれたら終わりだし!

「こら、待て、遼平ー!」
「待てと言われて待つバカがいるかぁぁぁぁ!!」
 
 なんかよく分かんないけど逃げ切ってやる!
 そう心の中で叫び、俺は風になった。
 






「…可哀想に」
「あれ、鳴沢先輩」
  
 ふと背後に目をやった天宮が、きょとんとする。先ほどまで生徒会室の中から外の様子をうかがっていた鳴沢が、扉の隙間から顔だけを出して、小さく溜め息を吐いていた。
 彼はこの計画に直接的には参加していなかったが、渡瀬の友人で生徒会仲間という立場にあるので、緒方遼平の味方になることは出来ない。あの哀れな一年生に対する同情ならば、これ以上ないくらいに感じていたけれど。

「どうするんだ、渡瀬。追いかけないのか」
「…ふふ」

 鳴沢の問いに、渡瀬が意味深な笑みを浮かべる。
 走り去る遼平の後ろ姿を見送りながら、彼は言った。

「逃げられるのは計算のうちだよ。…手は打ってある」
「…」

 生徒会室の扉に寄りかかって、鳴沢はことさら大きな溜め息を吐き出した。
 溜め息を吐くたび幸運は逃げていくと言うけれど、それならば自分の幸運とやらは、とっくの昔に尽きてしまっているだろう。渡瀬透の側にいる限り、それは仕方のないことだ。
 ああ、それにしても。本当にごめん、緒方。
 何回目かすら解らない呟きを、心の中で繰り返す鳴沢。元来、彼は人の良い性格をしているのだ。こんな計画を黙って見過ごすようなまねをして、心が痛まないはずがないのである。
 なにか言いたげに見つめてくる天宮の視線にも、罪悪感でつぶれてしまっている彼には届かない。

 代わりに、桐谷が天宮の肩に手を置いて口を開いた。

「まだ、もう1人残ってるだろう」
「え?…まさか、あいつ・・・にも指示を出してたんですか」
「ああ」

 首を巡らせて、廊下の奥を見据える。
 緒方遼平の姿は、とっくに階下へと消えていた。

「さて。ちゃんと上手くやってくれるんだろうな、…―――うちの議長は」












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