続・変態生徒会長とオレ。(11/78)PDFで表示縦書き表示RDF


続・変態生徒会長とオレ。
作:木立久美子



知らない人には付いて行っちゃいけません。


「あー、ちょっと。そこの君」
「はい?」

 部活が早めに終わったときのことだった。
 昇降口で、見知らぬ上級生に呼び止められる。

「緒方遼平、だよね」
「…はい」
「よし。じゃあ、ちょっと俺と付き合ってくれる?」
「はいッ!?」

 緒方遼平、高校一年生。
 同性に「付き合ってくれ」と言われたのは、例の変態生徒会長をふくめて2人目でした。





 つーか、さっきからオレ「はい」しか言ってないよ。
 この状況をどう打開するか脳みそをフル回転させる横で、ふとそんなことを考える冷静な自分がいる。
 実際には、そんな落ち着いていられるはずもなかったけれど。
 だってほら、見知らぬ上級生が、オレの答えを待つようにじっとこちらを見つめてきてるし。

「え、え〜…と…」
「いきなり言って悪かったよ。…で、どうかな。付き合ってもらえる?」
「いや、あの、すいませんオレ今スポーツの方が忙しくて恋人とかそういうの作る気ないんでっていうか男の人は恋愛対象外なのでなんかもう何ていうか本当に本当にごめんなさい!」
「…は? 何言ってんの」
「――…ふえ?」

 オレがビックリして顔をあげると、その上級生は、無表情のまま少しだけ肩をすくめた。

「俺が言ったのは、ちょっと一緒に来てもらえる?、って意味の『付き合って』だったんだけど…」
「…〜〜〜〜ッ!!!」

 やばい。すっげー恥ずかしい。
 普段から変態バカ生徒会長に「付き合って」「恋人になって」「キスさせて」って言われまくってるもんだから、少し過敏になりすぎている。
 男が男に(恋愛的な意味で)「付き合ってくれ」なんて、滅多に口にするはずがなかったのだ。

 確かに、相手の誤解を招くような言い方も悪かったけど。
 ああそれでも恥ずかしいもんは恥ずかしい!

「う、…うーわー…すみません、オレ、早とちり…すげぇ勘違いして…」
「いや別に気にしないけど。…で、どうなの? このあと何か予定でもある?」
「あ、いや、ないですけど…」
「そう。じゃあ、俺と一緒に来てよ」

 とっさに断る言葉が思いつかなかったオレは、バカ正直にコクンと頷いた。




「あ、あのー…」
「何」
「オレに、いったい何のご用でしょうか…」
「んー…それが、ちょっと言いにくいんだよね」
「えっ? な、なんで…」
「話すの面倒くさい」
「はぁッ!?」
「だって長くなるんだもん。…大丈夫、後で解るから」
「はぁ」

 どんな深刻な事情かと思ったら、あんたの個人的な事情でしたか。
 っていうか、帰りがけの人間をいきなり連れ出しといて、理由も教えてくれないのかよ。

 2人並んで廊下を歩きながら、一体この状況は何なんだろうと考える。
 隣にいるこの2年生は、どうやらオレに何か用事があるらしいけれど、…だめだ。全く見当が付かない。
 オレはわけがわからないまま低く唸って、それでも何とか気を取り直し口を開いた。

「えーと…それじゃあ、せめて名前を教えてください」
「2年C組、天宮あまみや五月いつき
「天宮…さん」

 あれっ? なんか、どっかで聞いたことのある名前。
 一瞬そんなことを考えたけど、すぐには心当たりが思い浮かばない。

「どこかで会ったことありましたっけ」
「そりゃ、同じ学校なんだから顔ぐらい見たことあるかもね」
「喋ったことは…」
「直接話すのはこれが初めてだよ」
「ですよね」

 ふむ。やっぱり初対面か。
 なんだかもやもやした思いは残ったが、心当たりがない以上いくら考えても仕方がないことなので、とりあえず納得しておく。

 沈黙したまま歩くのは気まずいので、何か話題はないかなと探してみる。

「…あの」
「ん?」
「そういえば、なんでオレの名前を?」
「君は有名だからね」
「さいですか」

 変態生徒会長との鬼ごっこが原因で、今やオレの顔は全校生徒に知れ渡っているらしい。
 友人達はみんな「有名になれて良かったな」とか言うけれど、オレはいつも「ふざけんじゃねーぞ全然うれしくねーよ」と返している。
 緒方遼平=生徒会長のオモチャ、とかいうふざけた噂が(いやある意味事実なのかもしれないけど)校内に広まるのは、オレにとって非常に面白くなかった。

 どうせ有名になるなら大会優勝とか新記録更新とかで騒がれたいよ。皆さん忘れてらっしゃるでしょうがオレ一応スポーツ特待生ですから。ちゃんと毎日部活やってますから。決して変態生徒会長に追い回されるだけの毎日じゃありませんから。っていうか今週は渡瀬会長の顔すらまともに見てないし。

 とか何とかブツブツ言っている間に、隣を歩いていた天宮先輩が立ち止まった。
 きゅ、と上履きが止まる音。


「ここだよ」
「え?」

 廊下を歩いて。
 気づかぬうちに階段をのぼって。
 たどりついたところは、そう。

「生徒会室――――ッ!!!??」

 ずざざざざざざっ。
 オレは悲鳴を上げながら、ものすごい勢いで後ずさった。
 反射的に逃げようと身を翻したところ、襟首をむんずと掴まれる。天宮先輩は怪訝そうな顔でオレを覗き込んだ。

「なんで逃げるの」
「え、あ…その…なんつーか…条件反射で」
「なにそれ」
「いやなんかもう本能が警告してるんです。ここに近づくと何か悪いことが起きそうな気がする…っていうかもう絶対に起こるよコレ本当!!!!!」

 生徒会室。
 その名の通り、生徒会が活動・管理する部屋。

 つまり。

「中に居ますよね!? あの人が居ますよねッ!!?」
「誰のこと」
「イニシャルWです!!」

 名前を呼んだらドロンとかいって出てきそうなので、あえてイニシャルW。
 天宮先輩は俺の制服を掴んだまま首をひねる。

「は? イニシャルW…―――ああ、もしかして渡瀬会長のこと?」
「名前を言わないでくださいッ!!」

 身をよじって逃れようとしたが、体格差のせいでうまくいかない。
 天宮先輩は背がすらっと高くて(たぶん180センチ近くある)手足も長く、すっきりして整った顔立ちは女受けも良さそうだ。渡瀬会長ほどじゃないけど、なかなかの美形…―――――って、今はそんなこと関係ない!!!

「た、頼むから放してくださいっ、オレちょっと急用を思い出して…」
「駄目だよ、逃げちゃ。俺が桐谷副会長に怒られる」
「き、桐谷先輩…!?」

 自分の血の気がサーッと引いていく音が、聞こえた気がした。
 
 桐谷宗吾。
 生徒会執行部副会長。
 見た目は、真面目で頼りになる優等生の先輩。
 でも、その本性は…ううっ、口にするのも恐ろしい。

「ま、まさかこれ桐谷先輩の指示ですか!?」
「うん。そうだよ。裏で糸を引いてるのは渡瀬会長だけどね」
「ちくしょうあの腹黒サディスト大魔王ーッ!!!」

「―――ほぉ…? 悪かったなぁ腹黒で」


 ぴしっ。


 いきなり背後から響いた声。一瞬で硬直したオレは、恐怖のあまり早鐘を打つ心臓をどうにか静めつつ、ぎぎぎぎぎと音がしそうな程ゆっくり振り向いた。
 その、声の主は。

「…き、ききききききききっ…!」
「あー、桐谷副会長ー。言われたとおり、ちゃんと緒方遼平連れてきましたよ」
「ああ。ご苦労だったな五月」
「桐谷先輩!!!!!」
「よう緒方」

 にっこりと微笑む桐谷先輩。
 その、一見すれば爽やかな笑顔が、なぜか非常に恐かった。
 オレはがたがたと震えながら、それでも逃げ出すことは出来なくて(天宮先輩に捕まえられてるから)、その恐ろしい微笑みから目をそらすだけで精一杯だった。

 せめてバックには黒いオーラじゃなくてお花を背負ってください少女漫画風に!!!

「そんなこと、俺が出来るわけないだろう。透ならまだしも」
「ひっ!? 人の心を勝手に読まないでくださいよ!!」
「読んでない。お前が顔に出やすいだけだ。…それよりも」

 桐谷会長の目から、笑みが消える。


「誰が腹黒でサディストで大魔王だって…?」

「ひぃぃぃぃぃぃぃぃッ!!!」

 
 られる!

 身の危険(渡瀬会長に襲われるときとはまた別の意味で)を感じたオレは、少しでもこの現実から目を逸らそうと、そのまま強くぎゅっと目を閉じたる
 絶体絶命、という四字熟語が脳裏をよぎった。


 そのときだった。
 












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