続・変態生徒会長とオレ。(10/77)PDFで表示縦書き表示RDF


続・変態生徒会長とオレ。
作:木立久美子



いつだって常識人ばかりが苦労する。(後)


 事の始まりは、ほんの些細なこと。
 今になって後悔しても遅いけれど、愚痴の1つぐらいは許してほしい。
 本当に、あのときは、こんなことになるなんて思ってもみなかったのだから。

「ねえ。僕と一緒にいる時間が一番長いのって、誰だと思う?」

 そう尋ねてきた渡瀬に、不審に思いながらも「そりゃあクラスメイトであり生徒会仲間の俺たちだろう」と答えてやったら、彼は唐突に目を輝かせたのだ。

「だよね。やっぱり、同じ学年で、同じ生徒会にいれば、一緒にすごす時間も増えるよね」

 渡瀬がどういうことを考えているのか全く見当が付かなくて、何が言いたいんだよ、と問いかける。
 次の瞬間、それを後悔した。

「じゃあ…――違う学年で、もっと一緒にいるためには――…」

 無邪気な悪魔が微笑んだ。

「あの子を、生徒会こっちに引きずり込むしかないよね」

 可哀相な一年生の顔が脳裏に浮かんで、思わず膝をついてしまいそうな敗北感と無力感、そして懺悔。

 ――――ごめん、緒方。
 心の中で謝ったって、今さら後の祭り。





「言っておくけどな。あいつにヒントを与えたのはお前だぞ、涼」
「えっ!? なんでだよ」

 まとめ終えた資料をファイリングしているときだった。
 今回の、あまりにも唐突な渡瀬会長の行動について、副会長と書記長は片手間に仕事を進めながら話し合っていた。途中、いきなり桐谷が言い出したのだ。事の発端は、涼の些細な一言なのだと。

「このあいだ、押して駄目なら引いてみろ、って透に言っただろう」
「え…ああ、うん。言ったけど、それがどうして…」

 押して駄目なら引いてみろ。
 一応、自分なりのアドバイスだったのだが、渡瀬はあっさりとそれをはねのけた。

 そんなまどろっこしいこと、ボクに出来るわけないでしょ。

 一刀両断に、切って捨てるような清々しさで、自分の考えを貫く渡瀬。
 それが羨ましくもあり、哀れでもあり。だからこそのアドバイスだったのだが、やはりそれは無駄だった。
 渡瀬は、緒方のことになると一直線だ。
 それこそ、友人の言葉すら耳に入らなくなるぐらいに。


「ところがどっこい。ちゃんと耳に入ってたみたいだな」
「はい?」
「涼のおかげで、一石二鳥の良い計画を思いついた、と言っていた」
「はいぃ〜?」

 棚の整理を終え、企画に必要な書類だけを取り出した桐谷が、くるっと振り向く。
 一重まぶたの鋭い瞳を、黒いフレームの伊達メガネで隠した彼は、仮面の下で意地悪くニヤリと笑った。付き合いの長さゆえに、鳴沢はその笑顔の裏にあるものにも気がついてしまう。どうせなら気づかないでいたかったのに。


「たぶん今、あいつは身辺整理をしてるんだ」
「身辺整理?」
「そう。万全に態勢を整えて、緒方をこっちに引き込むための準備をしてる。学園祭と次期選挙の直前だ、多少ゴタゴタするのは承知の上だろうが…あいつは本気でやるつもりだぞ。そりゃあもう、恐ろしいぐらい用意周到にな」
「どういうことだ?」
「大真面目に仕事に取り組むことで、周囲の信頼を強固にしておくんだとさ。お膳立てを整え、その間は一切緒方に会いに行かないことで、ついでに緒方自身も油断させておく。そして、頃合いを見計らって一気に引きずり込むのさ」
「え…ちょ、キリヤ…話がよく分かんないけど…そこまで知っていながら、なんで渡瀬を止めないんだよ」
「止める理由がないからな。実はこれ、俺にとっても利益のある話なんだよ」
「り、利益って?」
「この計画がうまくいけば良い雑用係が手にはいるし、それによって生徒会活動中に透が『会いたい会いたい』と騒いだりすることもなくなる。ついでに、足りなかった実行委員の補充も出来る。一石二鳥どころか、三鳥だ」
「え…まさか。そんなことのためだけに、お前、緒方を犠牲にするつもりじゃ…」
「それの何が悪い?」
「…っ…」

 鬼悪魔…!!!!!!





「どうしたの、涼。さっきから溜め息ばかり吐いて」
「…あ」

 回想終了後。
 顔を上げると、渡瀬がこちらを覗き込むように、じっと見つめてきた。

「溜め息を吐くと幸運が逃げちゃうよー?」
「いやむしろお前に幸運を吸い取られてるような気がするんだけど」

 何十回目になるか分からない溜め息を吐き出し、鳴沢は閉じ終わったファイルを近くの棚に並べる。
 仕事は、完璧に終わってしまった。


「…そろそろ頃合いだね」

 渡瀬がなんとも嬉しそうな顔で、桐谷にそう囁いているのを見てしまった鳴沢は、一気に肩が重くなったような気がした。背中に何かが乗っている。おそらく、罪悪感とか疲労感のたぐいだろう。


「ごめんな…緒方」


 お膳立ては、整った。
 もう止めることは出来ない。
 止めようとすら思わない。

 なんだかんだ言って、鳴沢も、あの無邪気で哀れな友人のことが大切だった。


 ああ、それでも。
 胸の痛みやら良心の呵責やらに、さいなまれることに変わりはないわけで。


「本当に、ごめん…」


 今ごろは元気に部活へ励んでいるだろう一年生の顔を思い浮かべ、鳴沢は何度も謝罪の言葉を呟いた。


 いつだって、常識人ばかりが苦労する。














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