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試行錯誤の異世界旅行記  作者: 取方右半
第5章 褐色の王子
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閑話:三回目の挑戦

 目の前で少年が脂汗を流し、苦悶の表情を浮かべていた。


 黒髪黒目という大変珍しい出で立ちは、かつて人類に敵対した魔人種と似通っているが、彼は違う。純粋な人間種であり、流れる血も赤い。


 そんなレイが通路の窪地に押し込めるのと同時にくぐもった声を上げたのは、気付け薬として嗅がせた薬品の所為だろうか。


「っウウウ!!」


「静かにしてください……死にたくなければ、何も言わないでください」


 腕の下でもがくレイに鋭く警告すると、ナリンザは首を横に向けた。壁面に浮かぶ影が通り過ぎていく。軽い地響きをさせつつ、三体のモンスターが彼女たちの傍を通る。幸い、こちらに気が付いていないのか、モンスターたちはそのまま通り過ぎていった。


 ナリンザは安堵のため息を吐くとレイを押さえつけていた腕を解いた。


 すると、青い鉱石に照らされ自分の手に血が付着しているのに気が付いた。だけど、ナリンザはどこも怪我をしていない。だとすれば血の持ち主は一人。


 自由になったレイの口元から血が垂れていた。


「申し訳ありません。押さえつける力が強すぎましたか」


 傍を通り過ぎようとした大型モンスターに気が付かれないようにと、レイの口を塞いだのが原因かと思いナリンザが尋ねるとレイは首を横に振って否定した。そして、口に溜まっていた血を吐き出すと、無造作に口元を拭った。


 その眼はどこか虚ろで、立つのもままならないほど消耗している。


「あんなモンスター、見たことが無い。レッサーデーモンもいるってことは、やっぱりここは……だけど、そんな事起こるのか? だって、僕等がいたのは上層部だ。それなのに、転移魔法陣を踏んだだけでこんなことに。いや、でも実際にこうして起きてしまった。……だったら、考えるべきなのはもっと現実的になれ。とにかく脱出しなくちゃ、話にならない」


「……あの。レイ…殿。大丈夫ですか?」


 独り言を呟く様子にナリンザは心の病を疑ってしまう。だが、ひとしきり呟き終えたレイはナリンザの方を振り返った。


「えっと……ナリンザさんは、ここが何処だと思いますか?」


 急に問われたナリンザは視線をあちらこちらに飛ばした。規則正しいタイルを埋め込まれた壁面に、狭い通路。自分たちが先程までいた上層とは全く違う場所だ。


「おそらくですが、中層に飛ばされたのでしょう」


 ナリンザがそう言うが、レイは納得しない様子だ。何とも曖昧な表情を浮かべた少年にナリンザは逆に聞き返した。


「それではレイ殿。貴方はここを何処だと思うのですか」


 逆に問われることになったレイは何度も頭を捻りながら、絞り出すように答えを言う。


「……深層……だと思います」


「深層とは……あの深層の事ですか?」


 レイの言葉にナリンザは驚いた。


 ナリンザは冒険者じゃないがある程度迷宮についての知識や経験を持っている。ダリーシャス・オードヴァーンの生涯に渡って付き従う従者として訓練するために迷宮に潜り鍛錬していたおり、自然と知識を得ていた。エルドラドに星の数ほどある迷宮の中に、深層と呼ばれる高難度の区域がある事は耳にしていた。


 だけど、その難度の高さに比例してか深層が発見されたのは片手に収まる数。それなのに、発見されたばかりの迷宮の深層と言われても受け入れる事は出来ない。


 口にしたレイもどこか信じられない様子で続けた。


「信じられないのは無理ありませんけど、その確率が高いです。……えっと、根拠としては、さっき僕らの傍を通ったモンスター。あれはレッサーデーモンと呼ばれる超級モンスターです。あんなのが三体も揃っているのは、深層ぐらいしか思いつきません」


「待ってください。確かにレイ殿の言う通り先程のモンスターがレッサーデーモンだとしても、それだけで深層と決めつけるのは理由として弱いと思いますが」


 超級モンスターであるレッサーデーモンの報告例は、下層部のボスモンスターが最も多い。しかしながらボスの間以外でも出現することはするのだが、それでも普通は一体程度。三体も同時に出現しているのは深層ぐらいだとナリンザも知識としては知っていた。だが、常識が彼女を縛る。


 先程まで上層にいた自分らが転移魔法陣によって飛ばされたからと言って、深層まで落ちるとは到底考えられなかったのだ。


「レッサーデーモンだけじゃありません。この通路を左に進むと、透明なモンスターが待ち構えています。だから―――っ!」


 レイが最後まで言い切れなかったのは理由があった。ナリンザの右手が勢いよく双頭の槍を振るい、鋭い穂先をレイの首元に付きつけていたのだ。


「ナ、ナリンザさん!? どうして僕に武器を向けるんですか!?」


 当惑するレイが切っ先を避けようと後ろに下がるも、そこは壁しかない。自ら退路の無い方へと逃げたレイの喉ぼとけに槍の冷えた切っ先が触れる。


「奇妙な話です」


 ナリンザの静かな声が囁く様に放たれる。


「レイ殿。貴方はつい先程まで気絶していたんです。それなのに、雰囲気の違う周囲に驚くことも無く、ここを深層と言う。あまつさえ、この通路の先にどんなモンスターが居るかを言うなんて、奇妙な話だと思いませんか」


「それは……その」


 口を滑らしたことを悔やむレイに代わってナリンザが自身の推測を語る。


「もしや、ここまでの事は全て貴方の企みなのでしょうか」


「そんな、誤解です! 僕が何を企むんですか」


「無論、我が主、ダリーシャスの命を狙っての事」


 考えてもいなかった方向からの推測にレイが言葉を失っていると、それを言い当てられて絶句しているのと勘違いしたナリンザが間違った推理を重ねた。


「従者である私と、主を分裂させ、その隙に王子の命を取る。本国の刺客が貴方達という訳ですね」


「違います。僕は……僕らはそんなんじゃありません!」


 レイが身の潔白を主張しようとするも、ナリンザは不審の眼を向ける。槍は微動だにせず、レイの喉元から動かない。


「不可思議なのはどうして戦奴隷を連れているのか。貴方が死ねば、自動的に彼女らも死ぬ。捨て駒として使うのなら、私を分断する際に使えばいいのに。それとも……それすらもこちらを騙そうとする偽装という訳ですか?」


「違うって言ってるじゃないですか! どうしたら、信じてくれるんですか!?」


 必死に自分の無実を伝えようとするレイに、ナリンザはしばし考えた後、尋ねた。


「それでは真実を語ってください。どうして貴方は、ここが深層だと確信でき、この先に出てくるモンスターが何なのかを知っているのですか」


 その質問にレイは何度か言葉を詰まらせた後、何かを覚悟したかのように語る。


「それは……僕が特殊ユニーク技能スキルを持っているからです」


「……貴方が特殊ユニーク技能スキルを?」


 オウム返しに尋ねたナリンザにレイは頷いた。ナリンザは驚いていた。なぜなら、ナリンザの主、ダリーシャス・オードヴァーンも特殊ユニーク技能スキルを持っているからだ。


「僕の持つ技能スキルは死に戻りの力です。死んでも、時間を巻き戻すことで死をなかったことに出来る力です」


 信じられませんよね、と付け足したレイだが、ナリンザは驚いてはいたが、信じられなくはないと思う。ダリーシャスの《ユマン・ゲンニュ》も人の感情を操るという、道理に合わない事をやってのける力だ。時間を巻き戻す程度、特殊ユニーク技能スキルなら出来るかもしれない。


 しかし、それをレイが持っているかどうかは別だった。


 ナリンザは確かめるためにある事を要求した。






 通路をレイとナリンザが歩いていく。ただし、二人の間に会話など無く張りつめた空気だけが流れていた。それもそのはずだ。先を歩くレイの首筋に、槍の穂先が向いているのだ。


 ナリンザの要求はレイが口にした透明のモンスターが出てくるかどうかを確かめる事。それまでの道中をレイが案内して、その間自分がレイに武器を突きつける事だ。


 槍の穂先は真っ直ぐレイの首を狙っている。もし、レイが何かしらの行動に出たとしても直ぐに反応できるように集中力を高めていた。


 レイの口にした透明なモンスターには心当たりがあった。インビジブルストーカーと呼ばれているモンスターがいる。自らの体を透明にして獲物が隙を見せるまで待つという厄介なモンスターだ。ただ、超級モンスターとして優れているのはその隠密性だけで、戦闘能力だけならそこまで高くない。せいぜい上級程度。


 それでも数が多ければ厄介だが、レイの説明では三体しか居なかったとの事。それならば問題ないとナリンザは考えていた。


 すると、レイの足が止まった。急に止まったから危うく、ナリンザの槍がレイの首を貫きそうになった。


「どうかしましたか、レイ殿」


 声を掛けるもレイは沈黙のまま、腰に提げているファルシオンへ手を伸ばそうとしていた。ナリンザはレイの行動を止めようと槍を振るい―――。


「ガアア!?」


 獣の絶叫が耳を震わした。


 ナリンザの瞳は今見た光景を克明に捉えてはいたが、脳は理解できないでいた。レイが立ち止まりファルシオンを抜く瞬間、様々な行動が起きた。


 まず、レイは抜き放ったファルシオンを横に薙いで、レイの頭をかち割ろうとしていた大剣を横にずらした。イル―ンと呼ばれる特殊な形状の剣が空間から魔法の様に姿を現したように、ナリンザには見えた。


 剣を弾き飛ばしたのと同時に、レイは後ろを振り返らず、ナリンザの刺突を躱した。それどころか、背中の鎧で切っ先を誘導して、何もない空間を貫かせた。いや、何もない空間と偽装された空間を貫かせた。


 ナリンザの掌に固い脂肪を貫いた感触が伝わり、何もない宙から魔物の血が流れだした。そして、姿を現すは醜い肥満児のような姿をしたインビジブルストーカーだ。


 腹を貫かれたインビジブルストーカーはマスク越しにくぐもった悲鳴を上げた。


「あ、危ないな! ちょっとぐらいは様子をみましょうよ!」


 レイが額から汗を流して抗議の声を上げるも、ナリンザの耳を素通りした。今の、それこそ刹那のような短い瞬間。レイは幾つもの行動をとっていた。前後から同時に放たれた攻撃を捌き、インビジブルストーカーに一撃を与えるように自分よりもレベルも技量も上の戦士を誘導して見せた。とてもレベルが五十台の冒険者に出来る芸当では無かった。


(これも死に戻りの力によって先を知るからこそできる事なのでしょうか)


 実際の所は違う。インビジブルストーカーの一撃に反応して発動した《生死ノ境》によって反応したに過ぎないが、ナリンザはその技能スキルを知らないため勘違いしていた。


 そのまま勘違いをしていたナリンザは僅かな間、戦闘から思考を別の事に逸らしてしまった。


 ―――それが手遅れとなる。


 斬ッ、と。背中に熱い衝撃が襲った。いつの間にか近づいていた二体目のインビジブルストーカーが彼女を背中から斬りつけたのだ。


 背中を深く切られ、褐色の肌に赤い帯が生まれた。ナリンザは痛みで呻く前に反射的に行動する。手に握る槍を引き抜き、後ろの敵に向かって突こうとした。双頭の槍は前後に穂先が付いているため、このような使い方が関単に出来る。


 しかし、ナリンザは強い力に阻まれた。


 腹に槍を食らったインビジブルストーカーはまだ死んでおらず、ナリンザの槍を掴んでいた。太い指が万力の様に槍を握る。


「ナリンザさん! 伏せて!」


 ナリンザの後ろに出現した敵に遅れて反応したレイがファルシオンを振りかざしながら叫んだ。ナリンザはその言葉に従い、膝から崩れるようにしゃがんだ。ナリンザが数秒前に居た空間をイル―ンとファルシオンが激しくぶつかり合った。


 一合、三合、五合。互いに幅広の剣を、狭い通路で打ち合わせていた。下手に大降りになれば壁に武器が突き刺さってしまうため、力任せに振るう事は出来ない。インビジブルストーカーは鬱陶しげに左右に視線を向けた。


 それをレイは見逃さない。


 ワザと深めに踏み込み、あえてインビジブルストーカーの間合いに潜りこむ。チャンスとばかりにインビジブルストーカーの筋肉は盛り上がり、渾身の力で振るわれる。だけど、振り下ろされた刃はレイを捉えない。踏み込んだ動作を逆回しするかのように、レイは後ろへと下がる。


 床を砕く勢いで振りぬかれたイル―ンはそのまま床に突き刺さる。インビジブルストーカーの膂力でもすぐには抜けないようだ。


 レイは今度こそ倒すべく踏み込み―――こけた。


 それこそ、顔面を床に叩きつける勢いでこけた。


 原因は床に倒れたままのナリンザだった。彼女が長い脚を駆使してレイの足を絡めとったのだ。


「ナリンザさん、マジで何考えてっ!?」


 顔を上げたレイの言葉は最後まで言えなかった。なぜなら、レイの居た場所を一筋の線が通り抜けた。鈍い音を響かせて、レイと相対していたインビジブルストーカーは胸の中央を貫かれた。マスクの下の目が驚きのあまり丸くなる。


 貫いたのはナリンザの槍だ。


 レイの背後にいた最初のインビジブルストーカーは自分の腹に突き刺さった槍を引き抜き、背中を向けるレイに向けて投擲したのだ。ナリンザはそれを見て、レイの足を掴んだ。


「ブホッ!」


 同胞によって胸に穴をあけたインビジブルストーカーは床に突き刺さったイル―ンから手を離し、よろけた。レイは直ぐに行動する。立ち上がりざまに、ファルシオン横に薙いだ。狙いは脂肪で埋まった首だ。


 刃は鈍い手応えを残しつつも、インビジブルストーカーの首を刎ねた。これで一体目だ。レイは首を落とした勢いそのまま、ぐるりと回り、その際に抜いたダガーから紫電を走らせる。紫色の雷は最初のインビジブルストーカーに突き刺さると、モンスターの体を蹂躙した。


 醜い脂肪の塊は雷に震え、通路に肉の焦げた臭いが立ち込める。手にしたイル―ンを取り落とした。


「グウ……グウウ」


 マスク越しに、途切れ途切れながらもインビジブルストーカーのうめき声が上がる。まだ死んではいなかった。レイはファルシオンを掲げて、突貫する。


「これで―――二体目・・・だ」


 そう、自分で口にしてハタと気づく。インビジブルストーカーは全部で三体居たはずだ。だとすればおかしい。二体は此処にいるのに、もう一体はどこに居るのだ。


 レイの疑問は痛みで返って来た。横合いから出現したインビジブルストーカーがイル―ンを振るい、すれ違うレイの足を切り裂いたのだ。右足を半ばから切断されてしまう。


「く、くっそおおお!」


 倒れる寸前。レイはせめて黒焦げのインビジブルストーカーを倒すべく、残った足で床を蹴る。体ごと叩きつけるような一撃は、インビジブルストーカーの厚い脂肪を貫いた。片足で立つこともままならないレイはそのまま身を預けるようにインビジブルストーカーを押し倒した。


 それで詰みだ。


 右足から血が流れ、片足では立ち上がる事は出来ない。


 痛みで乱れる思考。せめて三体目の敵を見ようと体を回した。レイの血で染まったイル―ンを掲げて、インビジブルストーカーはゆっくりと近づいていた。


 一歩。二歩。


 遅い足取りはレイを警戒しての事だろうか。


 慎重な足取りのインビジブルストーカーに対して、レイは左手に隠し持っていたダガーを突きつけた。刃から紫電が放たれるも、それを読んでいたインビジブルストーカーは巨体にあるまじき俊敏さで躱した。


 躱した際の踏み込みを利用し、一気に距離を詰めた肥満体は、イル―ンを躊躇いなく振り下ろす。ダガーを握った左手が切断された。


「っがああああ!」


 掠れた絶叫が響くと、マスク越しの瞳が愉快気に歪む。そして、高く掲げられたイル―ンがギロチンの刃の如く振り下ろされ―――なかった。


 レイとインビジブルストーカーの間に人影が飛び込んだ。


 それはナリンザだった。


 ナリンザは正面から振るわれた一撃をその身で受け止めると、手にした武器を振り下ろした。それはイル―ンだった。レイの紫電を浴びたインビジブルストーカーが落としたイル―ンをナリンザは握りしめていた。


 互いの体に食い込むイル―ン。ナリンザはあらん限りの力を籠めて、刃を引いた。鮮血が吹きあがり、ナリンザの体を赤に染め上げた。しかし、彼女の攻撃は止まらなかった。刃を横にすると、大木を切るかのようにイル―ンをインビジブルストーカーの首に叩き込んだ。


 剣は太い首の半ばで食い込み、止まった。


 ナリンザに軍配が上がった。


 崩れ落ちるインビジブルストーカー。しかし、ナリンザも軽傷では無い。体の前後を切られ、流れる血は止まらず、彼女は背中から倒れこんだ。


 そこはちょうどレイが倒れている場所だった。片手片足の少年の上に覆いかぶさる形となったナリンザにレイは声を掛けた。


「ナリンザ……さん。無事……じゃないですよね」


「……そうですね。互いに……瀕死です……ね」


 レイとナリンザ。どちらも重傷だが、よりひどいのはナリンザだ。インビジブルストーカーの一撃は重く深かった。薄手の面積の狭い衣服はあっという間に赤く染まり、血だまりは刻一刻と面積を広げていく。もっとも、血だまりはレイの血も交じっているため、彼女一人の物では無い。


「……それで、僕の言う事。信じてくれましたか」


「ええ。……ですが……残念です。折角信じられたというのにこんなことになるなんて。……私は死んでも、記憶は引き継げないのでしょう?」


 ナリンザの質問にレイは黙って頷く。彼女は気配だけでレイの返事を感じ取った。


「だとしたら、また、同じ事を……繰り返す事になってしまいます」


「それなんですけど、ここに来るまでに一つ手を思いつきました。……ナリンザさん。貴女が信頼できる人物になら打ち明ける秘密はありませんか」


 突然の質問にナリンザは首を傾げる。


「人名でも、物でも、出来事、日付でもいいです。それが重要な秘密であり、これを知っているということは、未来の自分は僕を信頼している。そう、過去の貴女が思ってくれるような秘密を僕に託してください」


 レイの提案にナリンザは直ぐにある言葉を思い出した。それは主の秘中の秘。みだりに口外してはならない。


 だけど、それがレイの口から出れば、それはレイを信用する材料ともなりえるのではないか。過去の自分を信じて、彼女は言葉を託す。


「でしたら、この言葉を貴方に託します。……オジマンティ。過去の私に……そう言ってください。それなら、貴方を信じるはずで……す」


 その言葉を最後に、ナリンザの命は流れる血と一緒に体から失われた。


 その数分後、レイもまた意識を保っていられなくなり、底なしの暗闇へと落ちていく。


 託された言葉を記憶、いや魂に刻み込んで、四回目の挑戦へと至る。


読んで下さって、ありがとうございます。


次回の更新は火曜日頃を予定しております。

それと、閑話を一つ追加します。5章の閑話は4本となります。

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