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異世界で魔法を覚えて広めよう 作者:早秋

第2部4章

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(1)動き出すセイヤ

 学園の入学試験でやらかした翌日、セイヤは転移魔法を使って領地へと戻っていた。
 領地に戻るなりマグスとの面会を取り付けたセイヤは、早速試験のことを話した。
「――――というわけで、各方面からいろいろ来ると思いますが、よろしくお願いいたします」
 にこやかな笑顔でそう言ってきたセイヤを見て、マグスは頭を抱えた。

 セイヤが試験で魔法を使ったことは別にいい。
 いずれは来るだろうと考えていたことだからだ。
 だが、問題はその魔法を使った相手だ。
 まさか、学園の試験に騎士団長が出てくるなんてことは、マグスにとっても想定外だった。
 しかも、その騎士団長に勝ったというのだから問題をさらにややこしくしている。
 魔法を使った戦闘が、それだけ有用であることを示したとなると、領地の安定を求める各貴族たちが動かないはずがないからだ。

 一瞬で貴族が手紙なり直接訪問なりで押し寄せて来ることを想像したマグスは、恨みがましい顔になって言った。
「……もう少し穏やかには出来なかったのか?」
「仕方ありません。まさか王が悪のりをして騎士団長に話をするなんて思っていませんでしたから。それに、そもそも予定が早まったのは、父上たちのせいですよ?」
 セイヤとしては、学園では内気法だけを信用できる友人だけに広げていくつもりだった。
 勿論、そこからも噂が広まったりするが、自分が教えた相手だけなら噂の元を調べることも簡単なのだ。
 ところが、兄弟たちが既に広めてしまっていることから、もはや根本から対処することも不可能に近くなっている。
 人手と手間さえかければ対処は出来るだろうが、そのときには既に遅い状況になっている可能性が高い。
 それであれば、もういっそのこと外気法も一緒に見せた方がいいと考えたのである。
 セイヤにとっては予定が早まったくらいで、大した問題ではないのだ。

 一方で、貴族の相手を引き受けることになったマグスは、セイヤの言葉に大きくため息をついた。
「それはまあ、そうだろうが……いや、それにしても、ほかにやり様がなかったのか?」
 別に騎士団長を圧倒するほどの実力を見せる必要はなかったはずだと続けたマグスに、セイヤは肩をすくめた。
「流石にそれは出来ません。今の段階で、魔法が『その程度か』と思われるのは、一番まずいですから」
「むっ。……それは確かにそうか」
 一瞬考える様子を見せたマグスだったが、すぐにセイヤの言葉に同意した。

 セイヤにとってもマグスにとっても、魔法が有用であることを示すのは、一番大切なことだ。
 各方面をけん制するにしろ、取引の材料にするにしろ、魔法が使えるものであることを示さなければ、足元を見られる可能性が高い。
 一番怖いのは、その状態で魔法の技術が流出してしまって、あとから後悔することになりかねないことだ。
 そのためにも、最初から魔法が重要な技術であることを示すのは、必要最低限の条件なのだ。
 だからこそセイヤは、騎士団長が相手でも余裕をもって勝てることを示さなければならなかったのである。
 ちなみに、やろうと思えばもっと余裕をもって勝つことは出来た。
 だが、それだと逆に、セイヤ自体を排除する方向に動きかねないので、それは避けていた。

 セイヤの言葉に頷いたマグスは、心配そうな表情になった。
「だが、どう転んでも一部の貴族は、直接お前の方に出向くと思うぞ?」
 セイヤが未成年だからこそ、与しやすいと考えた者たちが、セイヤに直接交渉を持ちかけてくる可能性がある。
 むしろ、マグスではらちが明かないと判断した者は、子供が相手なら簡単にいくだろうと考えてもおかしくはない。
 セイヤは辺境伯家の子で、身分的にはかなり上位に入るが、子供が相手だからと気にせず突撃して来るものは、一定数いるだろう。

 そのことはセイヤもよくわかっているので、マグスに向かって頷いた。
「それはまあ、仕方ないでしょう。せいぜい学園生であることを利用させてもらいますよ」
 基本的に学園に通っている生徒には、大人の貴族が接触を図っては駄目だという規則がある。
 それは、学園生であるうちからの引き抜き合戦を防止する意味合いがある。
 幼いうちから洗脳――とまではいかないまでも、言い含められてしまっては、防げるものも防げないからこそ、そうした規則が存在しているのだ。
 セイヤは、その規則を使って、最大限貴族たちからの撃を躱すつもりだった。

 セイヤの性格と能力を良く知っているマグスは、それでも一抹の不安をぬぐえないでいた。
「それならそれでいいのだが……やはり心配は心配だな」
「おや。心配してくださってありがとうございます」
 マグスの顔に、親としての不安が現れていることに気付いたセイヤは、素直に礼を言いながら頭を下げた。
 貴族たちの対応に関しては、そのときになって見なければ分からないという点が多々ある。
 万全に答えを用意して対策をすることなどできない以上、マグスが不安に思うのも当然のことなのであった。

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 マグスとの話し合いを終えたセイヤは、その足で『旭日』の拠点へと向かった。
 途中でアーロンに捕まって、巫女についての相談をされたが、流石に時間がないということでその場の立ち話だけで終わった。
 話の内容は大したことではなく、神殿長から渡された資料の精査が終わったということだった。
 といっても、あくまでもある程度の人数に絞り込むことが出来たというだけで、本格的な調査はこれからになる。
 それ以上に関してはまだまだこれからなので、セイヤにとっては動きようがないのである。

 『旭日』の拠点の転移用の部屋から広間に出たセイヤは、メンバー全員が揃っていることに気付いた。
 丁度皆に話したいことがあったので、タイミング的には丁度良かった。
「ああ、良かったです。皆に話したいことがあるのです」
「兄貴」
 セイヤが来たのを見て、寛いでいたアヒムが立ち上がって迎えてくれた。
 それを見た他のメンバーも同じように立ち上がっている。
 セイヤとしてはそこまでしてくれなくてもいいと言っているのだが、メンバーたちがそれを改める様子はない。

 既にセイヤも諦めているので、そのことについては触れずに話を進めた。
「そろそろ『旭日』の規模を大きくして行こうと思いますが、皆の意見はどうですか?」
 そのセイヤの提案に、メンバーたちは顔を見合わせていた。
 もともと余裕さえあれば増やしてもいいとセイヤは言っていたが、ここまで直接的に発言したことはなかったのだ。
「兄貴が必要だと思うのであればいいと思うが、何かあったのか?」
「ええ、まあ。簡単にいえば、これから貴族の間で魔法の存在が公になって行きますから」
 セイヤの言葉に反応したのは、やはりというべきか、シェリーだった。
「それは、外気法? 内気法?」
「実際に私から伝えるのは内気法ですが、噂としては外気法も伝わるでしょうね」
 なにせ、実際に目の前で使って見せたのだから広まらないはずがない。

 セイヤの言葉で状況を理解できた『旭日』の面々は、団の人員を増やすことを了承した。
 これからは、魔法も戦力のひとつとして数えられることになることをメンバーは誰よりも理解している。
 魔法を貴族だけに広めてしまっては、ますます貴族の横暴が増える可能性もある。
 それを見過ごすわけにはいかないことを、元スラム街の住人である彼らは、良く知っているのである。
騎士団長に魔法を見せたことで、いよいよセイヤが動き出しました。
これからは本格的に、魔法を広める活動を始めることになります。
といっても、学園に通いながらなので、それだけに構って行くわけではありませんが。
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