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異世界で魔法を覚えて広めよう 作者:早秋

第2部3章

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(10)決着と報告

「な、何よ。あれは!?」
 セイヤの戦いぶりを見ていたキティは、突然出現した火の塊に目を剥きながらイアンの腕を取って何度も揺らした。
「ちょっと、キティ、少し落ち着いて。僕にもあれがなにかは分からないよ! でも、他の皆もわかっていないみたいだよ」
 イアンにそう言われてキティが周囲を見回すと、セイヤが出した塊に驚いていたり、指を指したりする者がいた。
 流石に感情をコントロールすることになれている騎士は、表面上は学生たちほど驚いていなかったが、それでも衝撃だったことは見て取れた。
 そもそも小柄なセイヤが、国内最高の剣士と名高い騎士団長と互角に打ち合えるだけでも驚きだったのだ。
 それが、手品のような手を使って来れば、驚かないはずがない。
 だが、その驚きは、さらに続けられた戦闘でもっと大きくなることになる。

 周囲に浮いている火球が、実戦で使えることを示したセイヤは、それを有効的に使って有利に戦いを進めていた。
 キティの目には、先ほどまでは互角に見えていた戦いだったが、たったそれだけが加わっただけで、セイヤが有利に進めているように見えた。
「あ、あの、キティ。僕の目には、セイヤが有利に見えるのだけれど?」
 戦闘に関してはいささか自身が無いイアンがそう聞いて来た。
「安心して。私にもそう見えるわ」
 キティはそう答えながらも、自分の目で見ている光景が信じられないという思いだ。
 それは、キティだけではなく、戦っているセイヤ以外の全員に共通するものだった。

 
 キティや周囲の目は錯覚や幻覚ではなく、セイヤが火球を操りだして五分も経たずに、戦っている両者の動きが止まった。
 見れば、セイヤの持っていた模擬剣が、ヘルマンの首元に置かれている。
「そ、そこまで!」
 セイヤとヘルマンの状況を確認した審判役が、慌てた様子でそう宣言した。
 それでも見学者たちは、言葉を発せずに、固唾を飲んで様子を見ている。
 そのことに気付いたヘルマンは、少し呆れたような表情を浮かべつつ、称賛の色を含んだ声でセイヤに言った。
「いや、見事としか言いようがないな。正直、ここまでとは思わなかった」
「ありがとうございます。ですが、騎士団長があれを初見だったからできたことです。次はこう上手くはいかないでしょう」
 頭を下げてからそう言ったセイヤに、ヘルマンはにやりとした笑みを向けた。

 ヘルマンのその表情は、セイヤの言った通りだと語っていた。
 実際ヘルマンは、初めて見るその現象に、どう対応していいのかを探りながら戦っていたのだ。
 セイヤはその隙をつくように、最後の止めを刺したのである。
 ヘルマンほどの技巧者であれば、次のときにはきっちりとした対応策を考えてくるだろう。
 セイヤは、そう考えたからこそヘルマンに先の言葉を投げかけたのだ。

 だが、セイヤの言葉に気を良くしたヘルマンだったが、戦っていた最中にも抱いていた疑念を確認することを忘れなかった。
「確かにそうかもしれないが、お前の隠し玉はこれだけではないのだろう?」
 ヘルマンのその問いに、セイヤはニコリと笑うことで答えた。
 そのセイヤの顔を見たヘルマンは、呆れたように首を左右に振った。
「……やれやれ。全く困ったことだな。あまり年寄りを困らせるな」
「何を仰いますか。ヘルマン様は、確かまだ三十代ですよね? それに、そういうことは、笑いながらいうことではないと思いますよ?」
 ヘルマンの表情に、確かに笑みが浮かんでいることを見つけたセイヤは、何を言っているのだという顔で突っ込んだ。
 本来であれば、入学前の子供と騎士団長という大きな差が存在しているはずの両者だったが、だれがどう見てもヘルマンはセイヤを自分と同格の相手として話をしている。
 周囲の者たちもそのことに気が付いていたが、それを無作法だと感じている者は、誰一人としていなかった。

 セイヤの言葉に、ヘルマンは豪快な笑い声をあげた。
「いかんいかん。いまは学園の試験の場だったな。これで、この会場での試験はすべて終了となる。結果は後日発表となるから、皆も覚えておくように」
 周囲を見ながらそう宣言したヘルマンに、ようやく受験生たちは自分たちが試験を受けていた最中だったことを思い出していた。
 セイヤとヘルマンの戦いは、そんな大事なことを忘れるほどのものだったのである。
 それは、学生たちだけではなく、見学に来ていた騎士たちを見ても分かることだった。

 ヘルマンが宣言したことでその場は解散ということになったが、会場にいたすべての者たちに鮮烈な戦いの記憶が残ることとなった。
 そして、その両者の戦いぶりは、現場にいた者たちによって、急速に噂となって広まっていくことになる。

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 セイヤとの戦闘で充実した結果を得ることが出来たヘルマンは、集まっていた騎士たちを通常業務に戻るように指示をしてから、とある場所へと向かった。
 その場所とは、ヘルマンが剣を捧げる誓いをした相手がいる所だった。
「――――陛下。ご報告に上がりました」
 騎士団長であるヘルマンが誓いをした相手は、勿論国王であるリチャード三世のことだ。
 リチャードからセイヤの話を聞いて自身が相手をすると言ったときに、きちんと結果を報告するようにとリチャードから言われていたのだ。
 ヘルマンは、その約束を果たすためにこの場に来たのである。

 区切りのいいところまで書類の整理を終えたリチャードは、楽しそうな表情になってヘルマンを見た。
「それで? あれは、どうだった?」
「そうですな。……忌憚のない意見を言わせてもらえれば、化け物と言っていいでしょうな」
「ハッハッハ。そうか。其方にそこまで言わせるほどの人物か、あれは」
 ざっくばらんな物言いできっぱりと言ったヘルマンに、リチャードははっきりと声を出して笑いながらそう答えた。

 そう言いながらなおも笑顔になっているリチャードに、ヘルマンは探るような視線を向けた。
「陛下は、あれの実力をご存知でしたか」
「いや。具体的に知ったのは、今が初めてだ。だが、あやつは初めて会うたときに、身近な家族を連れて逃げ出せるとはっきりと宣言したからな。其方に勝つくらいは、出来て当然だと思っていた」
「……そうですか」
 結局リチャードの手のひらの上で踊らされていたことに気付いたヘルマンだったが、それについては何も言わなかった。
 ヘルマンにとっては、リチャードの思惑の中だろうが、セイヤと戦えたことは大きな財産になっているのだ。

 その代わりと言っては何だが、ヘルマンは別のことを進言することにした。
「しかし、あれはどう考えても大騒ぎの要素にしかならないと思われますが?」
 わざと曖昧な言い方をしたヘルマンに向かって、リチャードはピクリと眉を動かした。
「…………何をやらかしたのだ、あれは?」
 リチャードは、セイヤが魔法を使ったことまでは、流石に予想はしていなかったのだ。

 ヘルマンから詳しい話を聞いたリチャードは、眉をひそめてこめかみに人差し指を当てた。
「――――そうか。それは確かに騒ぎになるだろうな」
 衝撃どころではない噂が国内を駆け巡ることを予想したリチャードは、これからどうするべきかを頭の中で巡らせ始めた。
 それを見ていたヘルマンは、王は大変そうだなと他人事のように考えていた。
 だが、残念ながら王との対面を終えたヘルマンにも、部下たちに説明を追われるという仕事が待っていることを、このときの彼はすっかり忘れているのであった。
これにて第3章は終わりになります。
次章からは学園生活の開始と『旭日』の規模拡大が始まります。
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