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異世界で魔法を覚えて広めよう 作者:早秋

第1部1章

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(6)父と子の話し合い(後)

本日四話更新の二話目です。
ご注意ください。
 セイヤが神から貰った道具を直接調べることは諦めたマグスは、机の上に置いてもらって、まじまじと観察していた。
「これが神から預かった物か。一見変哲もないような腕輪に見えるがな」
 勿論、施されている装飾や文様は、とても複雑で手が込んでいることはわかる。
 だが、超一流の職人が、好きなだけ手間と金をかけて細工を施せば、絶対に作れない道具というわけではない。
 これだけで、神から下賜された道具だと言われても信じる者はいないだろう。
 ただし、先ほどの件が無ければ、である。
 マグスが触れようとしたときに起きた現象は、この世界にいる職人では作ることができない。
 まさしく未知の技術で作られた物と断言していいだろう。

 感心した様子で腕輪を眺めているマグスに、セイヤが苦笑しながら言った。
「父上、そろそろいいですか? いつまで経っても話が進みませんから」
「あ、ああ。済まないな」
 別にマグスは美術品のコレクターというわけではないが、辺境伯という立場上、そうした物を見る目は持っている。
 神が作ったであろう物に、目が奪われるのは致し方のないことであった。

 落ち着きを取り戻したマグスを確認してからセイヤは、さらに神殿で起こったことを話した。
「私は神からあることをやってほしいと頼まれました。それは、人々にとある現象を広めてほしいというものです」
「とある現象?」
「はい。それが先ほど説明した生まれたときから続けていることに繋がるのですが……。実際に見せた方が早いですね。『火よ』」
「なっ!?」
 セイヤが短い呪文を発した瞬間に、右手の人差し指の先に火が出て来たのを見て、マグスの顔が驚きで固まった。
 先ほどから固まってばかりのマグスだが、こればかりは仕方のないことである。
 それだけセイヤが話している内容は、一般常識的に考えてあり得ないことばかりなのだ。

 驚くマグスの顔を見て、少しだけ楽しそうな顔になったセイヤは、指先に浮いている火を消した。
「神から言われたのは、この現象――面倒なので、仮で魔法と名付けますが、これを世界に広めてほしいというものでした。以上が、私から話すことのすべてです」
 淡々とした表情で語ったセイヤに、マグスは複雑な表情を浮かべてみた。
「なんというか……。想像していた以上の話だな。お前があのとき、あのような態度を取った理由もよくわかった」
 馬車で会ったことを思い浮かべたマグスは、大きくため息をつきながらそう言うのであった。

 
 セイヤから聞いた話を頭の中でまとめるためか、マグスはしばらくの間無言だった。
 マグスが考えていることがわかっていたので、セイヤも何も言わずにただ黙って結果を待っている。
 セイヤにとっては、ここでマグスがどういう結論を出すのかが、今後の生き方に関わってくる。
 一応顔に出ないように気をつけてはいるが、いかんせん神にも肉体に精神が引っ張られていると言われているばかりなので、上手く隠せているかは自身が無かった。

 そんなセイヤの葛藤に気付かずに、マグスはわずかに伏せていた顔を上げてからセイヤを見た。
「ひとつ聞きたいのだが、お前が生まれてから今まで、どう考えても大人としての記憶があるとは思えないのだが?」
 マグスが聞きたいのは、これまでのセイヤの態度だ。
 セイヤは、子供にしては落ち着きがある子だったが、ときには癇癪を起したり、実に子供らしい態度を取っていた。
 だからこそ、いままで過去の記憶があるなんてことを疑いもしていなかったのだ。

 そのマグスのときに、セイヤはついと視線を逸らして答えた。
「神が言うには、精神の在り様も肉体に引っ張られているようです」
 と、もっともらしい言葉で返したセイヤだったが、その頬が僅かに赤くなっているのを見れば、どういう気持ちでいるのかは一目瞭然だった。
 そんなセイヤの態度に、確かに目の前の子供は自分の子だと確信したマグスは、思わず笑い声をあげた。
「ハッハッハ。そうかそうか。まあ、そういうことにしておいてやろう」
 それは、セイヤの何気ない仕草だったが、難しく考えすぎていたと考え直すいいきっかけになったのである。

 そのマグスの態度に、ただの子煩悩なこれまでと同じ父としての気持ちを感じたセイヤは笑みを浮かべた。
 セイヤのその顔を見てもう一度笑みを浮かべたマグスだったが、ふと視線を疑問が浮かんできて、それを口にした。
「そういえば、その魔法とやらは、私にも使えるのか?」
「さあ? どうでしょう? それこそやってみないと分からないと思います」
「ふむ。それは確かにそうだな。どれ、せっかくの神の指示なのだから、私に教えてくれ」
 真面目くさった顔になってそう言ってきたマグスだったが、その目はどう見ても好奇心にあふれるものだった。
 ただ、その気持ちはよくわかるだけに、セイヤはひとつだけため息をついてから小さく頷くのであった。

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 魔法を使えるようになるためには、まず体の中にある力――暫定的に魔力と呼ぶことにした――を感じ取れなくてはならない。
 セイヤが、アネッサのお腹の中にいたときから遊んでいたあれである。
 それこそ生まれる前から感じていた魔力のことをどう伝えるかは非常に悩んだが、どうにかマグスには説明できた……はずだ。
 ところが、セイヤがどう頑張ってもどう説明してもマグスは魔力を感じ取ることができなかった。
「……本当に魔力なんてものはあるのか?」
「うーん。そのはず、ですけれどねえ。のんびり気長にやるしかないと思いますよ」
「そうみたいだな。すぐに使えるようになると考えたのが間違いだったが」
 セイヤの言葉に、マグスが非常に残念そうな顔で頷いた。

 セイヤもマグスが魔力を感じ取れなかった理由はいくつか思い浮かんでいるが、どれも仮説でしかない。
「……もしかしたら、大人になっているから、かもしれないですよねえ」
 セイヤは、思わずぽつりと思考を言葉にしてしまったが、マグスはしっかりとそれを耳にしてしまった。
「なにっ!? もしかして、大人には使えないとかか?」
「あっ。いやいや。そういうことではないです。あくまでも可能性のひとつですから。ただ、もしかしたらあり得るかなあと」
 慌ててそう言い訳をしたセイヤに、マグスはため息をついた。
「いや、確かにそういう可能性があることは考えなければならないだろうな。そもそもすべての人間が使えると思う方がおかしい。……色々と面倒だが」
 今後のことを考えてため息をつくマグスに、セイヤはなにを言いたいのか察して「あ~」と宙を見た。

 魔法が使える者と使えない者に分かれるとなると、余計な軋轢を生む可能性がある。
 マグスが「軋轢」と表現するのは、大げさなことではないのだ。
「その辺りのことはまあ、適当に躱すか対決していくしかないでしょうねえ。そのためにもまずは自分の身を守れるようになることが先決ですが」
「うん? なにか当てはあるのか?」
「当て、というか、その腕輪です」
 セイヤの言葉に、マグスは改めて机の上に乗っている腕輪に視線を向けた。
 すっかり魔法の訓練に夢中になって、存在を忘れていたようだった。
「ああ。そういえば、これも頭が痛くなる存在だったな」
「……お手数をお掛けいたします」
「なにを言っているんだ。子供を守れなくてなにが親だ」
 完全に吹っ切れた様子で、というより以前の様子に戻ったマグスを見て、セイヤは内心でホッと安堵のため息をつくのであった。
いつのまにか「魔法」と認識されていますが、セイヤも気付いていません。
このあとも気付くことはない、でしょう。(タブン)

次話更新は本日の16時です。
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